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十層2 オーク





「そんなとこに居ないで早くこっちに来なさい」


 極寒だというのに、村人がよく着る薄手の服を着た大男――オークは柔らかい口調でそんなことを呟く。


「ク、奴に目を付けられるとは……!」


 リッチャンが苦々しくそう呟く。

 その様子からして奴がヤバいことがわかった。

 だが俺は目の前の奴には特に危険を感じなかった。むしろ心安らぐような感覚さえあるような気までする。


「お父様、新しい魔術式ですか」


 薄っすらそんなことを思うとファイルがルンルンと言った感じの顔でそんなこと口ずさむ。

 お父様……?

 そんな人間などこの場には居ないというのに、なぜ奴はいきなりそんな言葉を口走った?

 疑問が生じるとその疑問にはオークが答えた。


「さあ、今日から私が君のパパだ。この大きな胸筋の海に飛び込んでくるがいい」


「父上!」


「グハアア!」


 ルンルンと言った感じで魔術式を奴にブツけているファイルの様子と発言から見るに奴は自らを父親と錯覚させる力があるようだ。


「いいぞお、もっとだ、もっと!」


「父上!」


 恐ろしい能力だが、今の様子を見るとかなり相性が悪いようだ。

 オークは青い顔をしつつ、ファイルの魔法の実験台になっている。

 まるで家族サービスに駆り出された若い父親みたいだ。


「がんばれ、がんばれ!」


 オークはそれでも自分のスタイルを貫くつもりなのか、自分を鼓舞するようにそう叫ぶと魔術式を全て受けていく。

 これが家族愛というのなら俺は家族など要らない。


「ふむ。まことにあっぱれじゃ、ファイル。相手の特性を逆手に取るとは」


 リッチャンは本当に感心したわっといった感じで悲壮極まるオークとファイルを見ながら頷く。

 敵の術中に嵌っただけなので、不釣り合い極まりない。


「パパ、ちょっと疲れちゃったな。少し横になるよ……」


「父上!」


 ついにオークが力尽き、ファイルは絶叫するとハッとした顔になった。


「何ですかこれ、モンスターじゃないですか!」


 それから奴はオークの姿を確認して、ビビットな驚きの表情を浮かべる。

 奴のめちゃくちゃさに「お前がモンスターだよ」とごちりたい衝動に駆られながら周りに危険がないか確認する。

 オークの他にもモンスターが居て、こちらを隙を突こうとしている可能性もあるからだ。


 まだ新しい層に来て浅いし、警戒しすぎというわけでもないだろう。


 すると洞窟の奥に発光する爪痕とそれを険しい顔で見つめるリッチャンの姿が見えた。


 



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