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七層56 二体目
嗄れた老人はカプセルの中で身動ぎもせず,じっと項垂れた姿勢のまま液体の中を漂っている。
死者にしては血色がいいし、生者にしては生気がないように見える。
俺がそんな所感を抱いていると、カプセルの中に毒毒しい赤色の液体が注がれ始めた。
見るからに体に悪そうだ。
カプセルに向けて矢を打ち、老人に赤色の液体が行き渡る前に中から出してやる。
老人はぼとりと音を立てて、地面に落ちると矢庭に立ち上がった。
「今はいつで、ここはどこじゃ?」
老人が尋ねることに対する答えを持ち合わせていなかったので、知らんと切って捨てようとするとファイルが口を開いた。
「機構暦1789年で、先王の工房です」
すると老人はかっと目を見開いてこちらを見始めた。
「700年後じゃと!? それにこれがワシのもの!?」
驚きを隠せないようにワナワナ振始めた。
どういうことかわからんが、先王の二体目が目の前に現れた。
心の声を聞く限り本当に自分の事を先王だと思っているようだが、そうなると手元の脳味噌含めて先王が二人になってしまう。




