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七層10 有益
「じゃあ当時何があったかは覚えているか?」
「覚えていない。私はここでずっとこうしてるのだから昔も今も毎日が同じようなものだ。いちいちそんな日常のことを覚えているわけがあるまい」
どうやらこの長い間にひたすら呪具を製造し続けきたために世の理から大きく逸脱してしまったようだ。
当初のことを聞きたかったがこれでは難しいだろう。
他のところで聞くしかあるまい。
「そうか、邪魔して悪かったな。ありがとう」
儀礼的にそれだけ告げ、踵を返す。
「待て」
するとやつは引き止めるようこちらに声を投げかけてきた。
「今先ほど思い出したが確かあの時は、ここのマナが枯渇し始めた時のことだった筈だ」
マナの枯渇か。
生きるのにマナを使うモンスターと技にマナを使う魔法使いには死活問題になる大きな出来事だ。
呪いとの関連はまだ不明だが有益な情報に間違いはない。
それにしてもーー
「いきなりなんで喋る気になったんだ?」
「つまらん濡れ衣で呪具製作を邪魔されるのが気にくわんからだ」
こちらがそう尋ねると呪具をいじりながら、ローンは答えた。




