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勇ましいビビり勇者秘密がバレる①

「そこの君、力を持つ者は総じて変わり者が多いんだ。そう、睨み付けないでやってくれ」


 アイリッシュの態度と内面との乖離の激しさに気遅れしていると、奴を睨み付けていると勘違いしたギルドマスターのニルヴァーナがフォローを入れてきた。

 めちゃくちゃ気になるけど、一端視線をニルヴァーナに戻そう。

 最初からメンバーといさかいを起こすチンピラ崩れとして記憶に残るのは勘弁だ。


 視線を戻すをニルヴァーナは皆の視線が集中したことを確認するように頷くと


「さて、とりあえず無限迷宮攻略の概要について説明させてもらおうか。おそらく事前にチェックしているものが多いと思うが、取りこぼしや、思い違いがあるかもしれないからしっかりと聞いていてほしい」


 皆に視線を送り、最後に問題児であるアイリッシュともアイコンタクトを取る。

 当の本人は踏ん反り返って、


(こわいよお! ひもじいよお!)


 と押し入れに閉じ込められた子供のようなことを心中で叫んでいる。

 罪悪感が地味に蓄積するからやめろ。


「君たちにはこれから伝説『四勇者と偉大なるメンタリストディーゴ』で四勇者とディーゴが魔王討伐時に踏破したことで有名な【無限迷宮】に潜ってもらう。

【無限迷宮】はその名の通り、無限に広がり続け、変化し続ける迷宮だ。

 その難度は迷宮の中でも規格外のEX。

 これを攻略するのは五剣帝の一人として見ても並大抵のことではない。

 だがこれを成し遂げ、魔界へのルートを開通した暁には、魔族の降魔の門(イービル・ゲート)を封じられ、我ら連合国家フリジに長き繁栄が約束されることになる」


 ニルヴァーナは伝説『四勇者と偉大なるメンタリストディーゴ』のことをなぞらえ、かつギルド発行の迷宮難易度に用いることでこの攻略の目的についての難易度についてわかりやすく説明した。


 だがもが子供の時聞かされ、大人になっても憧憬を抱く伝説『四勇者と偉大なるメンタリストディーゴ』を持ち出すとはずるい人だ。

 あれを持ち出されたら聞かされて熱を持たない者は連合国民の中にはいないのだから。


 子供の時にメンタリズムを連呼しまくって役職をなぜか解放してしまった程度の俺ですら、だいたいのところはそらんじることが出来る。


 それはまだ暦のなかった時代の話。


 連合軍と魔族軍が互いに小競り合いを続け、果てには各々が一騎当千の実力を持つ八大魔王の内、三柱が進撃をはじめ、五剣帝、六魔導、聖女、法王の連合軍の全戦力を持って世界の中央にある世界樹の下で連合軍はそれを食い止めていた。

 


 その絶望的な状況下で四勇者とメンタリストディーゴが魔王討伐に名乗り上げ、地底に張り巡ている【無限迷宮】を踏破し、魔界側で温存されていた五柱の八大魔王の内、四柱の魔王を討伐し、八大魔王の内最も力を持った魔王《万象のリード》と交渉することで戦いを終わらせた。


 そして、世界樹を中心に魔族側と連合国側に壁を設けて、互いの有力者に壁を跨ぐと即死する呪いをかけて魔族と連合国不可侵と言うことになり、長い平穏が続き今に至る。


 まあ現在魔族側が転移魔法【降魔の門】からたまに進軍してくるため、戦争に備えて【無限迷宮】の魔界へのルート開通が急がれ、その長い平穏ももうすぐ終わりそうだが……。


 大概こんな感じに四勇者とメンタリストディーゴがやたらめたら強くて、劣勢の連合軍を勝たせてしまったみたいな話だ。

 単純な話だが、人は強い者にあこがれるもので勇者やらメンタリストは今も絶大な人気を誇っている。


 その中でもメンタリストは勇者のように生まれ持った加護ではなく、役職で決定されるものと言うことで皆平等になる権利が分け与られており、ことさらに人気が高い。


 そんなメンタリストを【メンタリスト入門者】だが役職で介抱した幼き日の俺は当時マスコミに引っ張りだこになり、イケメンメンタリストのユースケス君ともてはやされたものだ。


 その後両親がマスコミにおだてられまくって、【メンタリスト入門者】の役職解放方法をゲロったことで巷に【メンタリスト入門者】が溢れたことで、そんな俺ブームもすぐ入手鎮静化してしまったが。


 しかもブームが終わったら【メンタリスト入門】は職業病が中々解放されないということでみんな元の役職に戻すという幼い俺にショッキングなことが起った。


 あれ以来俺は両親へのプレゼントのクッキーに雑巾のしぼり汁を混ぜることに余念がない……。


 全然悔しくない!


 オワコンになっても俺は全然悔しくない!


 実際、受付嬢も俺のステータスしか気にしてなかったが、あれはアレだろう。

 眼が腐ってたんだ、あの受付嬢の!


 うわああああああああ!


(はああああぁぁぁぁ! 高いィィィィ!)


 アイリッシュの恐怖の絶叫によって俺の意識がダークサイドから現実に浮上する。

 まだこいつ降りれずにビビってたのか……。

 というか、攻略概要の説明!


「――ゲティクス・ハーメル、第十三班。以上が班の内訳になる。今日中には班でのミーティングを行ってもらいたかったが。志願者の一人が機嫌を損ねて帰ったことと、予想以上に志願者が多く、審査にだいぶ時間を取られてしまいタイムテーブルが回せそうにないので後日となる。明日はかなり過密スケジュールになってしまうと思うが了承してくれると助かる」


 はあ、しまったあ!

 概要聞き逃した上に、班割り聞きそびれた……。

 仕方ない、後から皆が帰ってからこっそりニルヴァーナに聞きに行こう。


「ああ、もう夜更けだな。帰るか」「お前同じ班の奴か、よろしくな」「俺こう見えてもヒーラーなんだよ」「あたしウォーリアーだからよろしく」


 和気藹々としながら三々五々みたいな感じで皆ギルドから退却していく。


(だれかぁ! 助けてええ!)


 ああ、アイリッシュまだ降りれてない……。


「アイリッシュ君、君いい加減に降りてきたらどうだい?」


 おお、ニルヴァーナいいぞ、これで流石のアイリッシュも助けを素直に求めるはず……。


「ふん! 私は貴様と同じ地面を踏むつもりはない!」


(お願い! たすけてえええ!)


 真逆のこと抜かしおった!


「はあ……、そうかい好きにすると良いよ。ただ攻略中、いさかいを起こすのはやめてくれよ」


 アイリッシュの言動に流石のニルヴァーナもあきれたように帰っていく。

 内心と真逆の態度取りすぎだよ、この人。

 どうするんだよ、アイリッシュ降りられないのに……。


 俺はニルヴァーナに話を聞くために、後を追いかけていくと。


(ああああああ、地面が遠い!)


(だれかぁああああ!)


 メチャクチャ背後から悲鳴が聞こえてきた。


 罪悪感で思わず、振り返ると上下左右にブルブル震えているアイリッシュが居た。

 どうやったらあんな震え方が出来るんだよ。

 お前の方がよっぽど怖いよ。


 くう、ニルヴァーナぁ!


 奴に話を聞きにいかなきゃいけないのに、助けを求める人間を見捨てるのかという罪の意識に拘束されて動けない。


 そうだ!

 さらっとアイリッシュ下ろして、さらっとニルヴァーナを追いかければいいんだ!

 俺って天才か!

 こうすれば罪悪感に捕らわることはない。


 思い立ったがすぐ行動だ。


「うわああああん! もうやだああああ!」


 当の本人は取り繕うのも放棄して大号泣している。


 懐からナイフを取り出すと俺は勢いをつけて柱を途中まで駆け上がると、ナイフを足場にして柱と梁の木組みに飛びつき、張りの上に登っていく。

 よし、あとはアイリッシュを持ち上げて地面にダイブするだけだ。


 アイリッシュの腹に手をまわして持ち上げに掛かったとき、俺は致命的なミスを犯したことに気付いた。


 ごめん、俺、鎧フル装備の女の子安定して持ち合げられるだけの腕力なかったわ……。


「ごめーん!」

「ぎゃあああああああ!」


 俺は謝りながら、アイリッシュは絶叫しながら固い床にダイブした。



 ―|―|―



「いたあぁ……。行けると思った俺がばかだった……」


 打ち身して立ち上がる。

 するとアイリッシュがこちらを踏ん反り返って見下しているのを発見した。

 精神崩壊しているかと思ったが意外に元気そうだ。

 これなら大丈夫だろう。

 さあ、ニルヴァーナの下へ!


 ガシィ!


 俺がダッシュし始めると思いっきり肩を掴まれた。

 力がこもりすぎれ指がめり込んでる。

 痛い、痛い!


「貴様、先ほどまでの私の姿を見ていたか?」


 何でそんなこと聞いて来るんだこの人……。

 怖いよ。

 嘘ついても状況証拠ですぐばれるので素直に答える。


「……見てたけど、それがなんかあるの」


「……」ブルブルブル!


 ヒェ、無言で震え始めた!

 何! なんなのホント!


「あああああ! もう終わったぁ……! ビビりだってバレた! 勇者らしくないと思われて加護が弱まってまた死んじゃうよ! うわあああん!」


 振り返るとすぐアイリッシュは精神崩壊し始めた。


 言葉の内容だけ聞くとこいつ、勇者らしくないと思われると死ぬって言ってるけど、マジ?

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