五層35 灰
アイリッシュがいる路地裏に戻っていくと暖かい日差しと何某かの燃え滓が風に流れて消えていくのが見えた。
路地裏に死んだ顔をしたアイリッシュ以外の何者もいないことを見ると吸血鬼は奴によって打倒されたのだろう。
アイリッシュは精神的ダメージをまあまあ受けてるようだが、肉体は無傷のようだしそこまで酷いことにはなっていないようだ。
「アイリッシュ、さすがだな。一人で食い止めた上で打倒するなんて」
「ふん、とんだ雑魚だったな。あれの10倍でもなければ肩慣らしにもならん」
とりあえず労いの言葉を掛けると奴は怒っているようで、顔を赤くしながら余裕だったという旨の言葉をこちらに伝えて来た。
出会った当初を思わせるチグハグな反応だ。
吸血鬼の件がやつに何か大きな影響を与えたらしい。
「あのような妖の類に余裕とは豪胆な」「勇者というのは凄まじいですね」
周りの奴らはアイリッシュの実状を知らずに口々に畏敬の言葉を呟き始める。
そのたびに奴の周囲の加護がどんどん溜まっていくのが見えた。
この様子ならしばらくは加護の問題に対しては大丈夫そうだ。
「まぶし…」
そんな目先のことを考えていると周囲に光があふれて、ファイルが呻いた。
光が晴れて光源があった場所を見ると燃え滓の灰によって転移陣が描かれていた。