五層33 燃焼
「あなたは永遠の命が欲しくありませんか?」
吸血鬼はアイリッシュを睨め付けると苦りきった口調でそう呟く。
「ふん! たかだか長く生きるためにコウモリ風情に成り下がれというのか? ふざけるのも大概にしろ!」
毎日命がおびやかされているアイリッシュにとっては喉から手が出るほど欲しいものが提示されていたが虚勢のせいで即座に断ってしまった。
「もうこれ以上下らん命乞いを聞くつもりはない。絶命しろ」
半泣きになりながら、吸血鬼に対して最後通牒を送ると斬り込む。
「いい加減にしてくれ! 私はただ当たり前のことをしただけだ! 生きるために食い! 保存処理をした家畜を育てた! 何も不都合などない! 私の家畜になるのを拒んだ貴様らが全て悪いんだ! 素直になれば何も問題など生じなかった!」
靄をすべて前面に集めてなんとか聖剣を押しとどめると、青年はそう喚きながら背後に走り始めた。
「うあああ! 食わせろ!」
路地裏を抜けて大通りに吸血鬼は飛び出すと、すぐ近くにいた男の腕を噛みちぎった。
すると体の傷の再生がまた見る見るうちに活性化し、傷が完全に塞がる。
「もっともっとだ!」
靄を体全体に纏わせると吸血鬼は大顎を作り、近くにいた人の集団を丸呑みにする。
予想だにしない奇態を晒し始めた吸血鬼にアイリッシュは驚きのあまり硬直するが、吸血鬼の調子が戻っていく様を見るとすぐに彼と周囲の人々の間に割り込む。
間髪入れずに切り込んでいくがいかんせん再生力が増しているのか、切った端から再生して攻撃を仕掛けてくる。
食らったらどうなるのかわかったものではないので加護で身体強化を施し剣速を上げてすべて撃ち落とす。
「生きるのだ、私は! 邪魔をするな!」
吸血鬼は絶叫と共に白みがかった空にむけて大きな魔法陣を出現させた。
それは一度鳴動して、魔力を迸らせるが、陽の光が上がった瞬間に粉々に砕け散った。
「陽の光が熱い! あの機構を壊したな非信心者どもが!」
吸血鬼はそれと同時に真っ赤に燃え上がり始める。