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五層31 仕掛け
吸血鬼は心臓を貫かれた。
だが全く持って参った様子もなく、もう一方の半身は機敏な動作でアイリッシュに向かて襲いかかってきた。
聖属性を帯びた武具で心臓を傷つけられて平然としているアンデッドははじめて見た。
低位のものなら消滅、上位のものでもしばらくは動けない筈だ。
なのに目の前の敵は一瞬も停滞することなく、アイリッシュに襲いかかって来ていた。
さらに上位ーー真祖か何かと勘繰る。
だがそれにしては弱すぎるし、やはり真祖の証拠である羽がなかったので否定した。
一番確からしいのは吸血鬼が何某かの仕掛けでありえない回復力を実現していることだ。
その場合仕掛けを解く必要があるが、いま吸血鬼との戦闘中で悠長にそんなことをしている余裕はアイリッシュにはない。
手立てとしては一度立て直すほかない。
このままユースケスたちがくるまで切り合いを続けなくてはとアイリッシュがひどく憂鬱な気持ちで考えると神殿の方から大きな火花が散った。
「さかしらなことを…」
見ると吸血鬼は体を半分に割いた状態から元に戻り、傷が塞がりが遅くなっていた。