五層30 肉薄
上段に構えた状態から踏み出し、吸血鬼に肉薄すると続け様に斬撃を繰り出す。
「加護のせいでどれだけ苦労していると思っているんですか」
光そのものと言ってもいい速さのそれを吸血鬼は避け損ない血を吹き出す。
黒い靄はその斬撃の前に意味をなしていなかった。
だがその危機的な状況の中でも吸血鬼の余裕は消えず,むしろその存在感を増していた。
「神から愛されている故に不幸だと言いたいのですか? 難病に犯され神に愛されなかった私には耳が痛いですな」
飛び散った鮮血が空中で凝固して、吸血鬼の周りに赤い刃が形作られる。
それはアイリッシュの斬撃を妨げ、折れるかと思うと割れたカケラが空中で刃に再形成され、アイリッシュにいくつもの刃が躍りかかった。
「周りの同病者が毎日死していく横でその様を見せつけられる恐怖はあなたにはわからないでしょう」
その様を想像し脳裏にひんやりとしたものを感じつつ,常人なら対処できない数のそれを一閃して打ち壊す。
「わかりません。私にわかるのは死線に毎度のように派遣されるよりはまだマシということだけです」
吸血鬼の血から刃が形成される前にアイリッシュが強烈な突きを繰り出し、ついに吸血鬼の心臓が貫かれた。