五層27 二体
迫ってくる黒い影に対してアイリッシュは構えをとって後方に下がる。
本人は逃げ出したい気持ちで山々だったが、これまでの戦いの中で背を向けて致命打を受けた過去があるためにこれが彼女にとって全力の逃避行動だった。
「ふん! 霧霞のように弱々しい存在が良く喚く」
内心おっかなびっくりなことこの上ない彼女の口からは裏腹に挑発する言葉が紡ぎ出される。
「あなたは弱々しい存在に対してひどく堅実な構えを取りますね」
吸血鬼は靄を伸ばして及び腰の彼女に攻撃を仕掛ける。
すると彼女はすんでそれをでバリィを行い、空に跳ね上げ、続け様に光の斬撃を飛ばした。
アイリッシュの性急とも言える攻撃には一刻も早く逃避してこの恐怖から逃れたいという彼女の意思が現れていた。
「堅実と思ったらいきなり大胆に。面白い戦い方だ」
だが彼女の戦い方を吸血鬼は気に入ったようで無感情な彼らしくもなくボルテージを上げていく。
それに伴ってアイリッシュの恐怖のパラメータも再びうなぎ上りになっていく。
光の斬撃によって引き裂かれた体のまま吸血鬼は彼女に躍りかかる。
半身からは靄による殴打を半身からは靄を使った斬撃を。
独自に半身から繰り出されるそれは1人の身でありながら、複数人を同時に相手にすることと違わない厄介さを持ち合わせていた。