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五層26 路地の怪
「深夜一人で路地に立つって結構心細いんですけど…」
アイリッシュは自分の置かれた現在の状況に一抹の不安を感じながら、カンテラの明かりに照らされただけの薄暗い路地に立たずんでいた。
ユースケスに安全と言われたが、いつもあの吸血鬼が出る場所なのでどうしても不安になり、キョロキョロと周りの様子を確かめてしまう。
すると先ほどは全く動いてなかった桶が動いていることに気づいた。
「……」
アイリッシュの頭の中は恐怖で真っ白になった。
全てクリアになった脳味噌がいつもしていることだけをオートで再開する。
「出てこい、臆病者の下郎が。お前の血で路地を華々しく飾り立ててやろう」
アイリッシュの場合それは虚勢を張ることなので、挑発を行った。
「気の強そうな方だと思ってましたが、まさか私を一人で相手にした上に挑発までしてくるとは…。こんな経験をしたのは一万年ぶりですね」
彼女が挑発して過たずに路地の先の暗闇からそんな声が聞こえた。
凝視すると黒い靄を纏った吸血鬼がこちらに近づいてきていた。