五層16 黒
いきなり視界の中に入りこんできたそれに対して、警戒をする。
「イルマスの言ってたあれが目の前に居るな……。何事だこれは?」
「私に聞かないでください」
アイリッシュは悲鳴交じりにそう叫ぶと、十分に離れているというのにさらに距離を開けた。
靄はそれに構った様子もなく緩慢な動きでこちらに近づいてくる。
距離が詰まってくるとそいつの中の隠れたおおもとが見えてきた。
中にあるのは性別までは分からないがすらりと伸びた四肢を持つ人間ようだ。
「一応人か? 俺の言葉は分かるか?」
俺がそう声をかけると黒い靄を鞭のようにしてこちらにけしかけてきた。
「わかってないみたいだな。話し合いは無駄か……」
それを跳ねて避けつつ矢を番えて奴に向けて撃つ。
奴はそれを黒い靄で弾いた。
「気体の靄で鉄の矢が弾けるておかしいだろ」
後方に避けつつそう呟くと後ろから光の衝撃波が飛んできた。
おそらくアイリッシュのものだろう。
「ガフ!」
相性がいいのか靄は真っ二つに断たれ、血が周りに飛び散った。
あっさり終わったなと思うと靄は二つに分かれたまま空に飛び始めた。
「無茶苦茶だな」
「あっちて確か宿のある方角じゃ」
俺がそれに感想を述べるとアイリッシュがそう指摘した。
面倒だが追いかける必要がありそうだ。