五層⑨ 感情
青年は魔力炉に案内されると端から端まで機械が敷き詰められた部屋に案内された。
街並みを見た感じそこまで魔力に頼ったものは多くない印象だったが、魔力は入用になることが多いようだ。
「すごい数だな。俺の地元のスラムの優に10倍くらいはありそうだ」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
俺が見た唯一の魔力炉を引き合いに出すと淡々と青年は答えた。
「おそらくあなた方は何故こんな数の魔力炉が必要になるのかとお思いでしょうが、これは神殿内の神聖性を保つために必要なものです。神殿が薄暗かったり、湿気ったり、暑かったりしたら神聖性もへったくれもあったものではないでしょ」
そしてすぐにこちらから質問するよりも早く奴は疑問に答えた。
用意のいいやつだ。
「こだわってるんですね」
「それは皆の信仰の拠り所ですし、今までお世話になってきたものですしね、拘りますとも」
ファイルの言葉に対してだけ奴は少し感情を滲ませた。
感謝という名の感情を。
少しの温かみが伺えたと言うのになぜかあまりいい印象が持てない。
根底でこいつのこと信頼できていないからだろう。
「これで全てのものの案内が終わりました。ここでのご用は知りませんが御ゆるりと滞在ください」
そんなことを考えていると青年は神殿見学ツアーの終わりを告げた。