五層⑧ 頓着
神像の前に案内された後、俺たちは小ぎれいな部屋に通された。
今まで通ってきた神殿の場所とは異なり、人がまったくと言っていいほどいない。
どこぞのお偉い様の私室と言った感じの場所だ。
「案内してくれるんじゃなかったのか? いきなりよくわからん部屋に案内してどういう了見だ」
「いえ、このままぐるぐる巻きにされたまま話を進めていくのもあれですし、先に解いてもらえないかと思いまして」
青年は抑揚のない声でこちらに要求してくる。
声の調子からして、頼んでいるという感じではなく、ただ言ったという感じで感情が全く伺えない。
おおよそコイツ本人にとって、ぐるぐる巻きという状況は心底どうでもいい事柄のようだが。
一応話がこじれる事を考慮して光の鎖からは解放することにする。
「アイリッシュ、鎖を外してやってくれ」
アイリッシュにそう声をかけると青年の体に巻かれた鎖が解ける。
青年は体が解放されたことに頓着していないようで、体の動きを確かめるでもなく、それを見るとこちらに背を見せて動き始めた。
「ありがとうございます。では神殿の中にある魔力供給炉の方に行ってみましょうか」
初対面の時から感じていたがなんか胡散臭いなコイツ。
そんなことを考えているとアイリッシュがおもむろにこちらに近づいてきた。
「光を解いて確信しました。ここの光は何かがおかしいです」
すると奴はそんなことを耳元で囁いた。