四層36 記憶
術式から逃れる中で彼が錬金術で編み出した動く鉄の塊を視界の隅に捉えた。
『便利だろこいつ。錬金術だけなら師匠の上に行けたのかも知れない』
すると頭痛とともに鉄の塊を動かす青年の記憶が脳内で再生された。
新たに解放された記憶によって集中力がぶれると肩口に術式が当たり、精神を無理やりにこじ開けられていくのを感じる。
錬成をして逃れるが僅かに記憶が解放される。
この世の全ての憎しみを内包したような隻腕の少女の絶叫。
憤怒の形相を浮かべて黒い武具を展開する赤髪の女。
頽れたぴっくりとも動かない少年。
今までで見た中で一番惨たらしい記憶が解放されると再三に渡って自分の中で提示されてきた『約束』に掠ったような気がした。
そこまでいくと一気に精神が積を切ったように解放されるのを感じた。
まずい!
危機感に襲われ,再びの錬成を試みる。
だが読まれていたようで、大きく変形するかと思った地面は変形せず、そのままいくつもの術式がこちらに殺到してくる。
記憶の堤防が決壊したように、前世の記憶が流れてくる。
夥しい量の記憶の中で『約束』についての記憶が私の中に流れ込んできた。
ロールズが必死に私の記憶を呼び起こすことに苦心していた理由が今さらになって理解できた。
「記憶が戻らなかったら術式も完成しなければ、発動させることもままならんからな」