四層34 表情
当初師匠ではないと断じた少女がロールズの前に現れ、自分の名前を名乗った時、脳裏をハンマーで叩かれるような衝撃に襲われた。
今まで長い長い年月の中で待ち続けた待ち人がなんの予兆もなく現れたのだからそれも当たり前だった。
だが約束が果たされるというのに彼の心に謎の違和感が発生している。
少女の表情を見るとその理由がすぐにわかった。
彼女の顔には「なんで自分がそんなことを言ったのかわからない」というような困惑があったからだ。
ロールズは彼女が自身の記憶を完全に思い出してないことを悟った。
彼にとってそれはかなり重大な問題だ。
なぜなら、彼女が『師匠』として覚醒しなければ、約束を反故にされる可能性が高いからだ。
これまでの地獄のような年月が全て無に帰すことを傍観することなどできるはずもなく、少女の記憶の構成を練り直す錬金術を発動する。
記憶や魂に干渉する『錬金』はかなり高度な部類に属し、普通の魔術師の持つ魔力10年分が必要になる。
呪いによってホムンクルスに存在を刻み付けているロールズには途方もないような大きな負担だったが、約束を果たすためには避けられないことなので彼も腹をくくる。
このことで少女の存在が消えることを彼には分っているが、それを考慮した瞬間に何もできなくなることを悟り無視することに決めた。
ロールズは逃れようとする少女に向けて術式を展開し続ける。
「早く起きてくれ師匠」
いつも毎日朝に投稿していましたが、これから生活リズムが変化するので、隔日になったり、朝、昼、深夜だったりと投稿するタイミングがバラバラになりそうです。
僕の都合でご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。