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忍のお仕事  作者: やまもと蜜香
第五章 【御宝探索】
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其の拾一 宝探し

 古文書に記された山の名前はエンもマチコも知らないものだったが、木曽との国境付近の村で尋ねてみたところ、あっさりとその所在は判明した。地元の人々の間では今でも日常的に使われている山の名前だったのだ。


 そうしてたどり着いたその山は、峻険な山でもなければ登るのが困難な山でもなかった。むしろ緩い坂が多く、平らな地形となる箇所もいくつか在った。ただ、緑のとても少ない山で、足場も山肌も多くが岩のような材質で成り立っている。そのため、虫や動物などの生物の気配があまり感じられず、また街道からも外れているため、人が通ることも稀であった。


「ねぇマチさん、こんなに簡単に宝山にたどり着くなんて、おかしくない?」


「そう?」


「だってお宝の場所なんだからさ、もっとこう解析が困難な書き方がされていたりとか、外敵を寄せ付けない何かが護っていたりとかさ」


「外敵を寄せ付けない何かってのが怖いわね、何よそれ……」


「いや、とにかく、事が簡単に進みすぎて怪しいって思わない?」


「だって日記よ日記、個人の日記。人様に見せるための物じゃないのに、なぞなぞみたいな書き方する必要なんてないでしょうよ。ウチらはそんな日記を見つけたんだよ。書かれている場所に行ければ、それが答えだよ」


 このあたりは人の性分か、マチコは物事を前向きにとらえるが、エンは疑ってかかる傾向があるようだ。そして前向きな人は、いちいち疑り深い人を見るとイライラしてしまうものらしい。マチコの口調が少し厳しくなった。


 また平坦な広い場所に出た。山にはさらに上があるが、地面からほぼ垂直に高く広くまるで壁のように岩肌が続いており、これ以上は歩いて登るのは不可能だった。

 そんな岩壁に沿ってマチコは何かを探していたが、やがてその何かを見つけたらしく、エンを呼んで指をさした。


「あったよ。たぶんここだよ」


 マチコはそそり立つ岩壁の方を指差したが、そこだけは岩が積もったように蓄積して壁面を覆っている。


「日記にはこの辺りの洞窟を改造して、そこに財宝を移したと書いてある。さらに別の日の日記には、上から岩を落として穴を塞いだとある。それっぽい場所はここくらいしか見当たらないよ」


 今でこそ積もった岩や石が岩壁と一体化しているため、一見にしてそこに洞窟が在るとは気づけない。勘の良い人が見ても、以前に土砂崩れが起こったのかなと感じる程度であろう。しかし、この日記を読んだ者に限っては、これが穴を塞ぐために人為的に落とした岩だと分かる。


「なるほど…… ここにお宝が」


 エンは懐からクナイを取り出して逆手に握った。そして積もった岩にクナイを突き立てようとする。角度を変え位置を変えてクナイで突いたが、ことごとく硬い岩に弾かれて削ることもできない。

 マチコも岩を手で触りながら質感を調べている。すると、場所によっては若干堅さの弱い箇所があることに気付いた。これは長い年月を経て岩や石の隙間に小石や砂土が詰まった部分である。マチコも同じく懐から鎧通しを取り出すと、その部分に突き立てた。しかしこれも、鎧通しの先がほんの少し食い込むだけに終わった。


「まいったなぁ……」


 エンもマチコも積もった岩の上に座り込んで天を仰いだ。マチコがやったように堅さのマシな箇所を地道に削り取っても、とてもじゃないが岩の向こうには到達できない。


「これは爆弾でも仕掛けて吹っ飛ばすしかないわね」


「爆弾?」


「そう、むかし日ノ本に攻めてきた異国人は、丸い陶器に火薬を詰めた爆弾を投げつけて攻撃してきたそうよ。同じように火薬を何かに詰めて爆発させれば、キミがクナイで突っつくよりは確実に岩を壊せるでしょうね」


「じゃあ、それでお願いします」


「いや、バカなの? お手軽に爆弾なんて作れるわけがないでしょ」


「なんだ、マチさんでも作れないのか」


 エンの言い草にイラッとくる。自分に作れないと言われることが何故か許せないマチコがいた。


「材料よ、材料。ウチに技術が無いんじゃなくて、材料が無いから作れないって言ってるんだからね! これだけの岩を吹っ飛ばす爆弾を作ろうってんだから、かなりの量の火薬が要るのよ。そんなものがどこで手に入るのさ」


「なるほど。火薬があれば、マチさんは爆弾を作れるんだね」


「え…… あ、当たり前じゃない……… 作れるわよ」


 勢いで風呂敷を広げてしまったが、マチコは爆弾など作ったことはない。そんなマチコを見て微笑みながらエンは言う。


「じゃあ今回はこれで帰ろう。いつか俺が火薬を手に入れてくるからさ、その時は頼むよ」


「また、てきとうなこと言って……」


 あまり悔しがる様子もなく帰ろうとするエンの諦めの良さに呆れながら、マチコもその場を去った。

 エンとしては、これまで宝の在処を見つけることしか考えていなかったのだが、まさか宝を取り出す手段に困ることになるとは思いもしなかった。それは新人行事で行われるお宝探しでは味わえない、現実的な障壁であった。


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