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忍のお仕事  作者: やまもと蜜香
第五章 【御宝探索】
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其の六 宝探さず

 案内人に指示された決勝戦開始の地は岐阜。

 美濃国内でも最大の町が岐阜町である。その町は一昔前までは名前が違ったらしいが、治める殿様が替わった折に岐阜と改名したらしい。


 全ての予選地から勝ち抜いた組が出揃うまでに数日を要した。そして今、予選突破した十組の忍たちが岐阜町の本部へと集結していた。町の表通りから二本ほど外れた裏通りの借家を行事委員が借り入れて、本部にしているのだという。

 見渡したところ、マチコの姿は見えない。エンの濃武組が予選を突破することで、可児町の忍がマチコの居る土岐町に流れることは想像できた。エンが人目につかない場所で案内人を捕まえたことには、可児での予選終了を知った忍が土岐に流れはじめるのを少しでも遅らせるという目的も込めていたのだが、残念ながらマチコの組に勝機は訪れなかったようだ。


 本部では決勝進出の十組に紙が配られた。

 紙には墨で大雑把な地図が描かれている。そこには地名が四つ記載され、それぞれが矢印でむすばれている。

【 岐阜→南宮山→池→岐阜→山】

 書かれている地名を矢印の順に列べるとこうなる。


 どこの里から行事職員に任命された者かは知らないが、本部にて決勝戦の案内人を担当する男が説明を行った。


「地図にある通り、最初の目的地は南宮山である。この南宮山のどこかに、地図上では『池』とのみ記されている次の目的地の場所が書かれた紙を用意してある。また、『池』でも同様、その次にこの岐阜に戻って行うべき事柄が記された紙を用意してあるので、それを入手して内容に従うように。

 とにもかくにも、そうやって最終地点となっているこの『山』とのみ記された場所へとたどり着き、宝を最初に見付けた組の勝利とする」


 ここまでの説明を聞いたところで、エンの脳裏に閃くものがあった。仲間たちに小声で指示を出す。


「説明は話半分で聞いておけばいい。それよりも今は、できるだけ他組の連中の顔を憶えろ!」


 案内人の説明は、注意事項へと移った。


「ただし、南宮山及び『池』に用意してある手掛かりの紙は組の数だけ用意してある。それら置かれた紙を紛失させたり、その周囲に細工を行うことで他の組を行動不能にした組は失格とする。

 また、勝負事ゆえにある程度の組同士の諍いは目をつぶるが、他組の忍を殺害や再起不能にした組があれば、これも失格とする」


 そして、最後に案内人はこう伝えた。

 棄権するとき、聞きたいことがあるとき、すでに優勝組が出ていないかを確認したいときは、この本部に確認に来るようにと。



 広くはない本部内を埋め尽くしていた忍たちが、一斉に外へと掃けていった。


「先を越されないように、我々も南宮山へ急ぎましょう!」


すでに動き出している他組の様子を見たチョウがエンにそう促したが、妙に落ち着き払ったエンはにこやかに組員たちに告げた。


「いや、南宮山へは行かない。それよりも岐阜の町をもっと見て回ろう」


 あっさりと進言を蹴られたチョウが真意を問おうとエンに詰め寄る。


「いやいや、何言ってるんですか!? 行かないと負けちゃうじゃないですか」


「行ったところで勝つ確率は十分の一、たったの一割だよ。脚力や探索力に相当の自信があるなら別だけど、勝つ確率を上げたいのなら行かない方がいい」


「でも、行かずにどうするんですか?」


「さっきの地図によると、お宝のある『山』の前に『岐阜』ってあっただろ? だから俺たちは、そこでの作業に備えてこの岐阜の町に詳しくなっておくのさ。よその組が南宮山と『池』を回ってる間にね」


「あっ そういうことですか!」


 勘の良いリュウは察したようだ。そして答えを合わせをするように言った。


「奪うんですよね、他組が池で獲ってきた情報を」


「ああ。考えてもみろよ、南宮山や池で得られる情報なんて、普通なら紙で持たせる必要なんてないんだよ。それをあえて紙に情報を書いて持たせるなんて、他組に情報を盗む機会を与えているようなものさ」


「そんなやり方って許されるんですか?」


「そもそもこの行事は、忍の技術の底上げを目指してるんだろ? しかも、さっきの案内人の説明では、他組と争ってもいいが、他組の忍を殺害や再起不能にしてしまうと失格って言ってただろ? それは逆に言えば、再起不能にしなければ戦って良いってことだよ。おそらく情報の奪い合いになることは、この決勝戦を考えた行事委員や案内人も想定していることなんだろうよ」


 カンも半信半疑で口を挟む。


「里を出るときトトキさんは、過去に怪我をした人はいないって言ってましたよ」


「それはね、今まで予選を突破したことがなかったんだろうよ、ウチの里は」


「………なるほど」


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