①
「アイちゃんありがと、ほんとに助かったよ」
赤マントの集団が気絶した後。解放されたルカは赤マントの連中を魔封じの縄で縛り上げ、そのまま結界の外へと追いやった。
「本当は目が覚めた後に拷問なりなんなりしたかったんだけどね。ちょっと今はそんな余裕もなくて」
あっけらかんと恐ろしいことを言ってのける。少し肝が冷えたものの、必要なことだとも思った。彼等がどんな目的でルカを狙ったのか。それがわかれば、今後の対策もしようがある。
拷問ができない代わりに、彼等にはルカお手製の発信機を付けたらしい。足取りだけは追うことができる。今はあまり高望みはせず、自分たちの安全を確保する方が先だった。
「さて、この森の結界も強化しないといけないんだけど……生憎今の体調じゃ満足にできそうにないや」
へらり、笑うルカの頬には相変わらず汗が浮かんでいる。テオはと言えば、あれからベッドで寝込んでいた。
赤マントの彼等を追いやった今、リビングには私とルカの2人。ソファに座るルカはふう、と大きく息を吐いてから、ちょいちょい、と私に手招きをする。
「なに?」
「ちょっと、結界張るの手伝ってほしくて」
「でも……」
ルカはそう言うけれど、自分にそんな芸当ができるとはとてもじゃないけど思えなかった。
さっき木で彼等を捉えたのは咄嗟に、無我夢中でやったことだったし。自分でもなんであんなことができたのかわからない。加えて、結界と言えば空間魔法と創造魔法の合成技だ。何も教わっていない魔法である。
「大丈夫。さっきので、アイちゃんの中にも魔力が確かに存在していることはわかったし」
「……魔力があるだけじゃ、何もできなくない?」
「ううん。実はね、」
招き寄せられるままに近づいた私の手をルカが取る。
「熱が出て困ってるのってさ、そもそも魔力の絶対量が足りなくなっちゃってることなんだよ。魔力って、通常は寝たりご飯食べたりしたら回復できるんだけど、熱のせいで寝てても休めなくて……それで回復できてないの」
確か前説明を聞いた時、私たちで言う体力みたいなものだな、と理解した覚えがある。勉強会の復習をしているような気分だった。
「だから、魔力さえあれば……知識、技術は熱が出てても問題ないから。アイちゃんからは、魔力さえ分けてもらえればいい」
「でも私、魔力の分け方なんて知らないよ? ずっと訓練でも、魔力を引き出すことですら苦戦してたし……」
「うん、まぁ、普通はそうなんだけど……大丈夫大丈夫、」
にへら、と笑ったルカは、ちょっと屈んで、と私に手招きをする。どんな考えがあるんだろう、と思いつつ言われた通りルカに身を寄せた。
するり、彼の手が私の後頭部に回る。
「、え、」
くい、と力が加わったかと思えば。彼の顔が間近に迫る。
気が付けば、唇が重なっていた。
「んぐ、」
突然のことに変な声が喉から漏れる。それでも口付けは終わらなくて。柔らかいその感触に、頭がふわふわとしてくる。
ぽう、と2人の身体が虹色の光に包まれた。段々と足に力が入らなくなる。魔力を吸われてるとでもいうんだろうか。
いや、そうじゃなくて。
私の、ファーストキス、が。
「──ありがと、」
やっとのことで離れたと思ったら、立っていられるがくりと腰から力が抜ける。「あ、危ない、」とルカは飄々とした様子で私の腰を抱き寄せた。
「大分貰っちゃったから、休んでて」
ソファに私を寝かせた彼は立ち上がる。先程までよりも、心なしか顔色が良いように思われる。
そのまま、部屋を出て行った。
「…………は、あ?」
素っ頓狂な声がリビングに響き渡る。
顔を腕で覆って、叫びだしたくなる気持ちを抑えた。彼の熱が移ったのかと思うくらい、顔が熱かった。




