②
「テオ?」
キッチンで卵雑炊を作り、それをテオの自室へ持っていく。
トントントン、とノックをしてから入ると、テオはベッドに仰向けに寝転がっていた。眠っているのかと思ったが、のぞき込んでみるとそういうわけではなく。
「ああ、アイさん……」
返事をするものの、なんだかしんどそう。声に覇気がないし、目も焦点が合ってないように見える。持ってきた卵雑炊をベッドの脇に置きながらテオのおでこに手をあてた。熱い。
「風邪、辛そうだね……」
「そうですね、久々に、頭ガンガンして気持ち悪いです」
「ごはん、食べれそう?」
「正直あまり食欲はないですけど、今日まだ何も食べてないので食べなきゃな、とは思ってます」
「偉いね」
年のわりに冷静に考えることのできる子だ。ゆっくり起き上がるテオの背中を支えつつ、「はい」と雑炊の入ったお椀とスプーンを渡す。
「アイさんが作ってくれたんですか?」
「うん。材料、私の世界のとほぼ一緒だったから。卵雑炊だよ」
「ありがたいです。いただきます」
もぐもぐ、自分で食べ始めるテオを見守る。食欲がないと言いつつも、食べ始めたら「美味しい」と言ってどんどん食べていってくれた。味が口に合ったことに安心しながら見守る。
「ルカさんは大丈夫そうですか? 今朝、僕の様子見に来てくれたんですけど、その時ルカさんも風邪ひいたって言ってて」
「さっき見たときはそこまで酷くはなさそうだったけど……この後ルカにも雑炊持っていくし、ちゃんと確認しておくね」
「お願いします」
本当に、しっかりしてるなぁと思う。自分も風邪を引いているのに、ルカの心配をするだなんて。
感心しつつ見守っていると、数分後にはテオはお椀を空にした。
「ごちそうさまです」
「お腹膨れた? おかわりいる?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「じゃあもうちょっと寝ててね」
お椀とスプーンを受け取り、寝るように促すとテオは素直に寝転がった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
すう、とテオの呼吸が穏やかになるのを見守る。お腹が膨れて睡眠欲が増したのか、すぐにテオは寝息をたて始めた。
「……誰かの看病をするなんて、初めてだな」
ぽつり、呟く。いつも家では1人だし、家族が風邪を引いて看病をしたことはなかった。看病されたことは――遠い昔の記憶に、残っている。
まだ母が私に関心を持っていて、今思えば愛情を与えてくれていたのだと感じるあの頃。小学2年生の冬、インフルエンザで酷い熱の出た私は、酷く苦しんでいた。
頭はガンガンする、気持ち悪い、吐いては寝て、イチゴや卵雑炊などの簡単なものを食べ、ポカリを飲んで水分をとって。熱心に看病してくれた母は、目が覚めるとほとんど私のベッドの脇にいてくれた。
弱音を吐く私の頭を、優しく撫でてくれた。
――懐かしいな。
今はもう、そんな面影もないけれど。きっと私が熱を出しても、それにすら気づかないんだろうな。
とん、とん。階段を下りて、キッチンに戻る。ルカの分の卵雑炊を別のお椀によそってから、私は再度階段を上ってルカの部屋に向かった。




