③
「まずアイちゃんには、最初に覚えてもらう魔法の種類は何なのか、そしてどんな魔法なのかということを知ってもらいます」
「はい」
庭には、簡易的な木製のオープンテラスのような場所があった。日よけの屋根と、テーブルと、椅子がある。実際に魔法を見せながら説明するとのことで、家の中ではなく広めの庭に移動したのである。
私が椅子に座る一方で、ルカとテオはテラスの外側の庭に立っている。自分だけ日陰で涼んでいるようで少々申し訳ない気もするが、私があまり近づいても意味がないので仕方がない。
「魔法には幾つか種類があります。アイちゃんが今まで見てきた中で記憶に残っているものは何?」
「召喚魔法と、空間魔法」
「うんうん、それぞれどんな魔法だったか覚えてる?」
「えーっと……」
昨日ルカに説明してもらった内容を頭の中で思い出す。
「召喚魔法は、異なる世界から何かを移動させる魔法で、空間魔法は、同じ世界の中で移動する魔法?」
「ざっくり言えばそうだね」
間違ったことは言っていないようである。
「ちなみに召喚魔法と空間魔法は少し難しめの魔法なので、アイちゃんに最初にやってもらうのは別の魔法になります。というわけでテオ、お手本やってみようか」
「はい!」
ちなみに、今日私に見せてもらえる魔法は全てテオが実演するらしい。それも修行の一環とのことで、テオは気合が入った様子である。「まずは自然魔法ね」というルカからのお達しに、テオはこくりと頷いた。
テオが私とは反対の広い庭に向かって立つ。ポウ、とテオの指先が白色の光を発し始めた。そしてテオは、光らせた人差し指で空に何かを描き始める。光はその動きを追いかける。空に、よく漫画で見るような魔法陣が出来上がった。
「――自然魔法、発動」
テオの言葉のすぐ後に、白色の光がテオの指から放たれたかと思うと、少し遠くの地面に落ちる。そして次の瞬間、
「わ、」
にょきにょきにょき、光の地点から木が生えてきた。それはあっという間にテオとルカの背を追い抜いて、どすんとそびえたってしまう。
小さく開いた口が塞がらない私がいる一方で、ルカは「よくできました」とテオを誉めている。頭を撫でられたテオは嬉しそうにしていた。
「アイちゃん、これが自然魔法の1つだよ」
「自然魔法……」
「そう。って言ってもこれはその中のほんの一部。火や水、木のような自然物の力を借りて操る魔法なんだ」
「へぇ……」
自然のものの力を借りるから、自然魔法。そう頭の中で整理をする。
「1番初歩的な魔法はこれだから、アイちゃんにもこの魔法から覚えてもらうつもりだよ」
「わ、わかった」
私にそんな魔法を扱う能力があるかなんて到底わからないのだけど、しかし覚えてみたい気持ちはあるので頷く。
それを見たルカは満足そうに頷くと、テオと共にテラスに入ってきて、私の向かい側に2人揃って座った。
「じゃあ今度は知識面の話になるんだけど、魔法を使うためには幾つか必要な要素があります」
ポウ、とルカの指先が緑色に輝く。初めて見る色だ、なんて思っていたら、目の前に白い紙と鉛筆が現れた。
「今のは何魔法?」
「創造魔法。ただ、これも難しい魔法だから後回しね」
魔法の種類が沢山出てきて頭がこんがらがりそうになる。それをルカもわかっているのか、創造魔法について詳しい説明が出てくることはなかった。
「じゃあテオ、必要な要素をアイちゃんに説明してみてください」
ルカは出てきた紙とペンをテオに渡す。説明も修行の一環らしい。ルカが面倒臭がってるだけなんじゃないかと少々疑いたくなったが、テオはそんなことを考える様子もなく私をちらりと見た後、紙に目線を落として図を書きながら説明し始めた。




