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自分の持ってきたファンタジー小説について、あらすじを簡単に自分なりにまとめて伝えてみた。その小説はゲームの世界が現実になるというものだったのだが、2人はとても興味津々に聞いていた。
電子ゲーム自体はこの世界にもあるようだけど、それが現実に、という小説の発想は新しく感じたようである。この世界の小説についても聞いてみたけれど、この家にあるのは生憎魔法書のみだった。
「今度本屋さんにこういう小説も買いに行ってみようか」
にこり、ルカは優しく笑う。テオも興味が出てきたようで、「僕も読みたいです」とわくわくしていた。
そういう約束ができるのがなんだか私も嬉しかった。それに、違う世界の本が読めるなんてなかなかない体験である。
「じゃあお願いがあるんだけど、」
「うん?」
「私にこの時代の言語を教えてくれないかな。折角この世界の本があったとしても、読めないんじゃ意味がないから……」
「それもそうだね。じゃあ、ちょっとずつ翻訳機能停止してみたりっていうトレーニングもしてみようか。僕も、アイちゃんの世界の言語に興味があるし」
なんともワクワクする話である。それに、この世界に来たときにやりたいことが1つできたみたいで、なんだか嬉しかった。
それに、私の世界についてルカは知りたがっていたけれど、そんなに急に根掘り葉掘り聞いてくることがないことに安心する。私のペースに合わせてくれているのだろうか。
なんにせよ、有難い。
「師匠、言語だけじゃなくて、魔法は教えなくていいんですか?」
読めないなりにずっと本をペラペラと捲っていたテオが、不意に顔を上げる。
魔法? を、教える?
「あ、そうだった。ねぇ、アイちゃん」
「はい……」
「魔法を使ってみたいとは思わない?」
「使えるの!?」
驚きの事実である。そんなの、使えるなら、使ってみたいに決まっている。
思わずソファから勢いよく立ち上がってしまった。私のその様子を見て、ルカは面白そうに笑い、テオはちょっとびっくりしている。
「使えるなら使いたい。使ってみたい!」
多分、この世界にきて1番感情を露わにした瞬間なのではないだろうか。そして1番テンションが上がっている。
「アイちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ。使えるかは正直わかんないから実験的な感じにはなるんだけど、アイちゃんが使えるようになってくれたら僕も嬉しいな」
「実験?」
少し不穏な単語が聞こえた気がして不安になる。やはりそんなに簡単に使えるものではないのだろうか。
ストン、ソファに再度腰を下ろした。もし人体実験をされるのであればちょっとやだな。
「実験って言っても、アイちゃんに色々な魔法起動方法を試してもらうだけね。アイちゃんの身体いじくったりはしないから、安心して」
「あ、それならよかった……」
ルカの言葉ですぐに不安は拭い去られた。自分自身で色々な方法を試すということであれば、別にそんなに苦ではない。
「できそう?」
「やる」
ルカの問いかけに力強く頷くと、ルカとテオは顔を見合わせてにんまりと笑った。私の返答に、満足したようである。
「じゃあ、早速特訓しましょう!」
「そうだね。アイちゃん、机の上片づけて、外に出よう!」
「わかった」
かくして、私達の魔法特訓が始まった。




