③
翌朝。目が覚めたのは午前10時だった。ぼうっとしながら時計を確認し、こっそり自室のドアによって家の中の物音に耳を澄ませる。
何も聞こえてこないことにほっと息を吐いて部屋を出た。おそらく母と男はもう家を出たのだろう。
リビングに行くと机の上には母とその彼氏が飲んだのであろうビールの缶、お皿などが散らかっている。缶は指定の袋に入れ、お皿は水道で簡単に洗った。
その後冷蔵庫を開けたが、案の定何もなく。キッチンと反対側のテレビ台へ向かって、その引き出しの中の封筒から千円札を出した。
一度自分の部屋に戻り、その千円札を財布に入れる。着替えを手に持ってからお風呂場に向かって、シャワーを浴びた。
「……確か、1時って言ってたな」
ザアアッというシャワーの音の中で独り言を漏らす。
『明日のこっちの時間の13時に、僕はアイちゃんを呼び出す召喚魔法を使う。帰ってすぐに確認した時差から計算して、その時にはこっちに来れる準備を整えて、なるべく人気のないところに居てね。あと、必ずネックレスは付けておくこと』
シャワーを浴びるときも、念のため首にはネックレスがぶら下がっている。こんなときに呼び出されたら洒落にならない。が、時差が万が一一定のリズムではなく狂うことがあることを考えたら、身に着けない時間を作ってしまうのはあまり良くない気がした。
次にあの世界に行ったら、何が待っているんだろうか。ルカは私から色んな話を聞きたそうにしていたけど、今度は何を聞かれるんだろう。
それとも、他の魔法とかを見せてくれたりするんだろうか。
昨日突然出逢ったばかりの世界ではあるけれど、元々ファンタジー小説が好きなこともあってか、少々ワクワクしている自分がいる。
楽しみなことがあるのって、久しぶりだなぁ、なんて。そんなことを考えながら、浴室を出た。
*
シャワーを浴びた後、先程の千円を使って近くのコンビニでご飯を買って食べた。家に帰って、あちらの世界へ行くために荷物を整える。
『明日こっちに来るときは出来ればこっちの世界の時間軸で1泊できると嬉しいなぁ。時差の都合でどうしても難しければ仕方がないけど、もしあまり時差がなくてお泊りができそうだったら、ご家族の方に友達の家に泊まってくるとか言っておいてね』
『友達……』
『なんか口実合わせられそうな友達いる?』
『……まぁ、多分、大丈夫』
本当はそんな友達はいないけれど、私の家族は私が家にいようがいまいが構うような人達ではないので問題ない。1点、部屋の片づけが終わっていないことについて母は怒りそうだけど、家の中でなるべく母と出くわさないようにすればきっと大丈夫。
とりあえず、自分が向こうの世界に持っていきたいものを整えようとリュックサックを取り出す。持っていくものは自分の愛読書を数冊と、スマートフォンとその充電器。あちらの世界でこのスマホが使えるとは思えないけれど、実験的な意味で持っていくのは面白そうである。充電できるか試してみるのも良さそうだ。
持っていきすぎても何なので、ひとまずはこれで良いかな。そう考えながら時間を確認すると、時刻は12時55分になっていた。
「そろそろだ」
人気のないところ、そして戻ってきたときにも見つかる心配のないところ。
それはやはり自分の部屋が1番だと思ったので、そのまま部屋の中央でリュックを背負って待機する。
かち、こち。時計の針が動くのが遅く感じる。
どきどき、胸が落ち着かずに音を立てる。
はやく、はやく。そんなことを考えて――かちり、時刻は13時を示した。
その次の瞬間、ネックレスから薄紫色の光が生じ、私の身体全体を包み込んだのだった。




