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slash2.切断と接合を

かなり遅くなりましたが第二話です。今回は前回より大分長くなっていますが書き方を少し改善しました。

よろしくお願いします。

その機体(ヴァレット)は、美しかった。

手や関節部分、腹等の灰色を除いたその他の部分は純白で、

形状は曲線と直線の優雅な組み合わせによってスマートに整えられている。

腕は曲線を描いて膨らみ、爪先から足の裏にかけてスリットが入っている。

背中には飛行装置と思われる箱形の物体を背負っている。

 正直、惚れ惚れするほど格好いい機体だ。

 まあ、頭から道路に突っ込んで仰向けになり、

大の字になって倒れているその無様な状態を除けば、だが…。

「何やってる!」

 機体のハッチ開閉レバーを探しているリョウに呼ばれて僕は我に帰った。

「リョウ!」

「待て、あった!」

 腕を伸ばしたリョウが体を反らすと機体の外装がスライドして…これがまた格好いい。コックピットが開いた。なにやらリョウが中を見て驚いているようだ。

 僕は駆け足で機体に登る。上空では二体のヴァレットがまた何かと戦っている。多分民間のヴァレットだ。

 だが今はそんなことを気にしている暇はない。

「どうした?」

「柏、手伝え。早くこの…よっと…」

 僕とリョウが機体のコックピットから引きずり出したのは―――

――しきりにせき込む白髪の老人だった。

 

 その老人のしわは深く、顔中に刻まれていたが、

引きずり出したリョウと僕に、咳き込みながら抵抗する姿は

何処か生命力に満ち溢れているようにも見える。

「なにを…わしは…ごほっ…ん…はなせ、あ…ごほっ…」

 老人は何かを言おうとしているが咳のせいで全く文章にならない。

「柏、進斗を呼んでこの爺さんを早く安全な所に連れてかないと…」

「わかった。そっちを…」

 リョウは老人に肩を貸そうそした僕を突き飛ばした。

「お前は乗るんだ!」

 その拍子に僕は中の操縦席に落ちてしまった。

「リョウっ!何―――」

 ハッチが閉まって目の前が真っ暗になる。機体のハッチ開閉レバーを操作されたらしい。

 畜生…信頼してるのか押しつけてるのか全然分からん…。


「ジジイ!いい加減にしろ!」

 あまりに激しく暴れるので羽交い絞めにして怒鳴りつけてやった。

爺さんはふとこちらを振り向くととたんに大人しくなった。

 咳き込みながら顔を上げて、

オレと目を合わせた爺さんの顔が心なしか嬉しそうに見えたのは…

…気のせいか。まあそれよりも…!

「柏!聞こえるか?こいつでオレとジジイを持って進斗に渡せ!」

 オレは機体の頭に向かって大声で叫んだ。

『はあ!?』

 外部スピーカーから間抜けな声が返ってくる。

「いいからとっとと持ってけ!お前が一番上手いだろうが!」

 そう言ったとたんにオレ達は下から何かにすくい上げられた。白い機体はそのまま立ち上がる。

『しっかりつかまってろ!』

 機体の指に右手でしっかりとしがみつき、片手で爺さんを抑える。

ヴァレットの指は物を掴みやすいように滑り止めのような素材でできている。

『進斗!二人を安全な所に!』

 一語一語をしっかりと伝えるように柏が進斗に叫ぶ。

『よし。今から行く』

 進斗操るウォールナットが後ろから近づいてきた。差し出された機体の手に、

まだ苦しそうな爺さんを支えながら降りる。

『よし、早く逃げるぞ!』

 そう言うとリョウが振り向いた。

「お前はまだすることがあるだろ!」

 オレは白いヴァレットを仰ぎ見る。 

 また大声出させやがって…男の癖に…。


「ああ…なんでこんなことに…」

 リョウは戦えと言いたいのだろう。だからわざわざ中に叩き落としたのだろう。

 それにしても戦いを前にして思わず口に出た第一声がこれとは、情けない。

とは言っても今更退くことは出来ない。今ここで逃げるようなことをしたらこれから散々罵られて

生活する羽目になりかねない。リョウのことだから「負け犬」とか仇名をつけて、それで一生僕を呼びかねない。

 進斗は「友達が俺を置いて逃げたんだが…」とか書き込んでネットの掲示板に事の全てを暴露。それで

全世界のネットサーファーの注目を集めかねない。

 まあ愛する我が子(ヴァレット)の仇打ちだと思えばいい。

 急いで忘れていた機体のチェックをする。…異常はない。察するにあの老人の発作で落ちたんだろう。

 飛行システムを起動。飛ぶのは久しぶりなので緊張する。

 モニターに移る外の風景が下に動いた。機体はしっかり離陸したようだ。外を見渡すと敵のヴァレットが見える。

 さっきのチェックで分かったがこの機体には両腕に武装が予め内蔵されているらしい。

 試しに右腕に収納されている小型砲を起動し、構える。…相手はまだ気づいていない。一体の脇腹に照準し、

発砲。全く当たらない。流石にそうそう当たるもんじゃないか…。

 気付いた敵が向かってくる。左腕のエネルギーエッジを起動し、応戦。相手の装甲を二、三度斬ったが、恐らく敵機は軍用機だ。装甲も防御力に優れた高密度セラミカル合金製だ。

 余分なことを考えていると相手は隙に付け込んでハンドガンを向けてくる。やばいっ―――と思った時には横にかわしていた。この機体はなかなかの代物らしい。

 距離を取らないとまずいと思い、牽制射撃をしながらブレードバーニアを起動、足を開いた機体が足のスリットからスケート靴の刃のように可視エネルギーを放出し、機体が加速する。予想以上の速さだ。相手に突っ込む前に左に軌道をそらす。

「わっ…わわわ…」

 いくらなんでも速過ぎだ。ブレードバーニアで飛ぶのは、これも久々のせいかまともに制御ができない。おまけに吐きそうだ。

 そんな状態で敵が迫ったきた。このままだと激突する!

 ザシュッ

 鋭い音が耳を裂く。

 とっさに上に避けようとしたら脚部のブレードバーニアが相手の装甲を袈裟掛け状に切り裂いてしまったようだ。

 とにかく敵の内部機器は損傷した。今がチャンスだと思い、一旦ブレードバーニアの出力を下げる。代わりに両腕のエネルギーエッジを起動。宙返りで体勢を立て直し、敵機の首に左右からエッジを挟むようにあてがい、切断。

 人間で言えば脳と体を切り離された機体(ヴァレット)が町に落下し、砂煙を巻き上げた。ざまあ見ろ。

 大きく弧を描いて旋回し、もう一体の敵を見据える。さっきの民生機も手こずっているらしい。

 敵の砲撃を回避。そのまま一度地上に降りてブレードバーニアを地上移動モードに変更。足を地面と紙一重のところで浮かせて地上を高速で進む。幸い人は脇に避けていてくれた。

 そのまま我が子(自作ヴァレット)に大穴を開けてくれた大型砲の砲撃を回避する。地面にいくつもの大穴が開いた。

 先程から狙いは正確らしいがこの機体の移動能力には勝らない。

 こちらへの攻撃で隙の出来た敵機に民生機が攻撃、胸に命中する。相手がよろけたその瞬間、機体を飛翔させた。高速でエネルギーエッジを向けて突進する。また吐きそうになるが堪える。

 相手も簡単にやられるつもりはないようで、近接戦闘用の短剣を抜くがもう遅い。大きく振られた両腕のエネルギーエッジは敵の腹部を両断…とまではいかなかったが大きくえぐっていた。

 腹部に納まっている動力炉やら制御システムがいかれると、全ての機能が駄目になることを身をもって教えてやった。

 敵機はそのまま相方と同様に地面に墜落した。

 ゆっくりと地上に降り、コックピットを開く。涼しい外気が気持ちいい。

――――――――――――――――――――――――冷静に考えてみれば…


…帰って壊れた部品を揃えて修理すれば時間かかるけどそれで済むよな?僕の自作ヴァレット。


「まさかあそこまでやれるとは…」

 白い機体がこちらに向かってくるのをモニター越しに見ながら俺は呟いた。

 後ろを見るとリョウも同様に驚いているらしかった。

「しかし強いな…あの機体。軍用っぽいのに真っ白で目立つから一瞬ふざけてるのかと思いきや、見つかったら叩きのめせばそれで済むってことか…」

「ゲホッ…わし、の、ゲホッ…」

 リョウの隣の老人がさらに咳き込む。これは本当に辛いようだ。…心なしか微妙に嬉しそうに見えるのは…追及しない。

「おい進斗、早くしないとこの爺さん。まずそうだぞ」

「わーかってるって。それに自警団が来るとまたうるさいからな」

 俺は機体に親指で後ろを指させて柏に指示を送る。これで十分伝わるだろう。

 白い機体が頷いて飛び立った。あの早さなら追跡できまい。

 俺は後ろを振り向く。

「ちょっと揺れるから爺さんをしっかり支えててくれ」

「よし、任せろ」

 リョウがはっきりと答えたのを聞いて、俺は機体で近くに転がっているヴァレットの残骸を拾い上げた。とりあえず細かい部品は後ろのコンテナに入れて、本体は横向きに担ぐ。積み荷が無事だといいのだが。

「よし、行くぞ」

 機体が駆動音をあげて走り出した。だいぶ無理をさせてはいるが機体自体は負荷に対してかなり丈夫なので問題はない。

「おい、少しスピード落とせよ。揺れ過ぎだ」

 リョウが後ろから口を挟む。

「しゃーないだろ。だからしっかり支えててくれよって言ったんだ」

 道路に足を踏み出すたびに機体がまたきしきしと音を立てる。この調子で行けば後20分位着くだろう。


 白い機体が野原に降りる。また一瞬吐きそうになったがなんとか吐かずに済んだ。

 散々暴れておいて今更言えることではないがこれはあの老人からの借りもの…まあほとんど盗んだも

同然だけど…とにかく他人の機体を汚すわけにははいけないので必死に耐えた。

 町の方角を見る。進斗のウォールナットにはブレードバーニアはおろか一般的な飛行装置など搭載されていない。申し訳程度に飛行が持続できない旧式のものが積んであるだけだ。だから必然的に移動はほとんど徒歩になるので、この機体に比べるとかなり遅い。

 ただ待っているのも暇なので機体の情報を確認してみる。手元のレバーとスイッチ類で機体情報を呼び出す。

 まず目に入ったのは形式番号『SVL-000』…000ってことは試作型か何かだろうか。

 次に機体番号『013』はどうでもいい。一番気になるのは名前だ名前。その下を見る。

 『Eina:0/エイナ・ゼロ』これがこの機体ヴァレットの名前…『ゼロ』は分かるが『エイナ』の意味が分からない。後で英和辞典でも引いてみるか。

 レーダーが一機のヴァレットをとらえているのを見て、僕は機体情報を閉じてモニターで外を見た。

 ウォールナットが丘を登ってくるのを確認して、コックピットのハッチを開き、機体の外に出る。

『柏ー、大丈夫かー?』

 こちらに歩いてくる外部スピーカーから進斗の横柄な声が聞こえてきた。

「ああ、大丈夫。それより荷物とお爺さんは?」

 大きめの声で機体に告げると返答が返ってきた。

『爺さんはまだ咳してる。荷物は知らん』

『それより柏、早く中に』

 リョウの声を聞いて、僕は機体を降りた。そのまま走って整備上のドアを開け、中に入る。

ドアの近くにある少し錆びたレバーを下ろすとシャッターが開き、ウォールナットが中に入ってきた。

 コックピットが開くとまず進斗が出てきて、次にリョウが顔を見せ、最後に老人がリョウに抱えられながら現れた。

「柏!手伝え。この爺さんを連れてくぞ」

「ん、ああ、分かった」

 本当はあまり気が進まなかったのだがこの状況では仕方がないと思い、リョウとともに老人に肩を貸した。


 老人が水、水、というのでコップに水を入れて差し出すと、老人は胸のポケットから錠剤を取り出して飲み、少しすると落ち着いたようだった。

 話を聞くと、老人は自衛隊のパイロットらしく、「島原靖也しまばらせいや一等空佐」と名乗った。

「にしても爺さん、こんなところにあんな機体で何しに来たんだ?」

 進斗がいつもの口調で尋ねると、島原さんがしゃがれた答えた。

「自衛隊の天候実験による影響がどうたらの極秘調査任務でな。小生意気な若造どもがヴァレットを盗んで暴れようとしておったからな。灸をすえてやろうと思ったら喘息の発作が出てしまってな。そこで君らに助けられたわけだ。全く、恥ずかしい話だ。ハハハ」

「…えーと、『極秘』ってことは僕たちに話すのはまずいんじゃ?」

 僕が口を閉じると沈黙が走った。数秒経って島原さんがそれを破った。

「な、何を言っとる。わしはそんなコソコソしたことをするのは無粋だと思ったから正直に話しただけじゃ」

 焦ってる様子を見るとどう考えてもつい口が滑っちゃったみたいなんですが…。

 それはさておき、

「ところであの機体ってなんなんですか?えーと…エイナ・ゼロっていう――――」

 言いかけたところで持ち主の島原老人が口をはさんだ。

「なにを言っとる。あれはそんな軟弱な名前じゃないわい。命名『大和』じゃ!」

「大和って…戦艦かよ…」

 後ろを見るとリョウが壁に寄り掛かって呆れていた。僕は再び島原さんに向き直る。

「“カワイイ”顔して無粋なことを言うのお…あんな旧式なんぞあれ単機で海の藻屑に出来るというのに…」

 とりあえずそれはそういう問題じゃないとして、島原老人は最大の禁則事項に図らずも触れてしまった。

「……………」

 恐る恐る後ろを進斗と振り返ってみると、リョウが顔をひきつらせている、が、なんとか耐えているらしい。もともと彼女は自分の性別について言及されると大抵は一回目でキレるので今回の我慢は上出来だろう。相手が初対面の老人だからだろうか。しかし、このままだと限界に達しかねないので、話題を変えかねなかった。

「え、ああ、ところで島原さん――」

「島原一等空佐だ」

「…一等空佐、で、その『大和』は何処で?」

「ああ、前に新型機の仕様がどうたらを手伝うために研究所に行ったことがあってな。そこで気に入ったから一機譲ってもらったんじゃ」

「…で、爺さん。なんであんなところで暴れてたんだ?」

 進斗が関わることになったそもそもの原因を尋ねた。

「爺さんじゃないわ。一等空佐じゃ。まあそれはともかく、あの時の話じゃったな。とりあえず宿を探そうと思っとった時に若造どもが軍用の機体で強盗をやらかしおってな。灸をすえてやろうと思って『大和』で突っ込んだんじゃが途中で喘息の発作が出て、そこを君らに助けられたわけだ。全く恥ずかしい話だよ」

 そう言うと島原さんはおかしそうに口元を歪める。

「爺さん、薬があったんじゃないのか?」

「飲むのを忘れとった」

「…」

「全く…とんでもないボケ老人を助けちまったなぁ…」

 リョウが口を挟んだ。すると島原さんが明らかに不満そうな顔をして一言。

「ひどいのう…“女の子”ならもっと“おしとやか”に老人をいたわるもんじゃ―――」

 限界突破。

 僕と進斗は肌でリョウの状態を感じ取ると同時に席を立ち、すばやく彼女に組みついた。

「お、落ち着け!相手はお年寄りだ。一般的に社会に浸透している福祉の基本概念にの則ってだな…」

「うるせえ、もう我慢ならん!このクソジジイが。そんなにオレを怒らせたいか!」

「安心しろって。誰かを怒らせたがる奴なんて世界に2割いるかどうかだから」

 怒りを爆発させたリョウを抑えるのに必死の僕らを放っておいて元凶の島原さんは呑気に傍観していた。そう、「元凶」が…。

 すると電子音が何処かで鳴った。島原さんの携帯電話らしい。携帯電話を取り出してボタンを押して誰かと島原さんは通話を始めた。つくづく呑気だ。

 が、しかし、会話を進めるうちにしっかりと引き締まっていた島原さんの顔が曇っていき、返事も相槌ばかりになり、最後にはすっかり生気の抜けた間抜けな顔になった。

 島原さんの様子がおかしいのを見て抵抗をやめたリョウを放し、椅子に座ったまま放心状態の島原さんに進斗が三度目の質問をする。

「爺さん、何があった」

 島原氏はゼンマイで動くおもちゃのようにぎこちなく進斗の方を見た。


「クビになった」

 

 本日午後2時47分、島原靖也氏は日本自衛隊一等空佐から一般人に大幅に降格した。

 ちなみにその理由は独断による戦闘と高齢による障害である。


「って要するにそれって計画的な厄介払いじゃないですか」

 夕食の席で島原さんの話を聞いた僕の第一声である。

 なにしろ島原さんは少しでも態度の悪い若い士官がいれば何処だろうと殴りかかり、酷い時には飲食店の前で地べたに座っていた若者4人(まあそれはそれで悪いのだが)に食ってかかり、結局は全員のしてしまったらしい。

 それに妥協や手加減を知らないのかヴァレットによる実践訓練において相手を徹底的に痛めつけ、搭乗者は軽傷で済んだものの乗っていた機体を見事に大破させるという暴挙を本人曰く2,3度繰り返し、その上若い女性士官や事務官にセクハラをし放題というのだから仕方がない。

 それでも今まで解雇されなかったということは、この人の能力を自衛隊の連中はそんなに必要としていたのだろうか?

「なんでじゃ?」

「こんなところに派遣してそこでクビにする…なんと周到かつ合理的な手段なんだ…」

「感心してる場合か」

 進斗とリョウの間抜けなやり取りはどうでもいいとして、

「それであの機体はどうするんですか」

 もちろん、『エイナ・ゼロ』のことである。

「ああ、『大和』ならわしの個人所有扱いになっとるから今更返さんくてもいいんじゃ。それにあの機体は連中もいらんみたいだしな」

 そこでパンをつまみながらリョウが島原さんに不機嫌な声で言った。

「で、爺さん。あんたは・・・・どうするつもりなんだ?」

「すまんがしばらくここに置いとくれ」

 さらっと言われても困るんですが…

「とは言ってもなぁ。俺ら自分たちを食わせるので精一杯だしなぁ…」

 以外と現実主義者の進斗が遠回りに拒否した。

「わしがいれば年金が毎月入るがそれでも嫌か?」

『はい?』

 三人で異口同音に言った。

「え?年金貰えるのって65歳からじゃなかったんですか?」

「安心せい。わしは67歳じゃ」

 どこまでもとんでもない老人だ…いくらヴァレットの操縦に体力がそれほど関係しないとは言っても定年過ぎてもパイロットを続けるとは…。それよりどうして定年退職させられなかったのかが気になるが…まあ大体予想は付く。

「きまりじゃな。まあ仕事は手伝う。子供に養われては面子が立たんからな。」

「まあそれなら別に…」

 最後の最後までリョウは判断を迷っているようだった。

「それなら別にいいよ。よろしくな爺さん」

 進斗が朗らかな声でリョウの代わりに言葉を続けた。  

「まあ…いいか」

 僕は同意した。もっとも、僕はあの『エイナ・ゼロ』に興味の大半が向いていたのだが。

「多数決には従わざるを得ないか」

 リョウも渋々承諾したようだった。

 そこで島原さんは笑顔を見せた。

「よし。よろしく頼んだぞ。ところで………ずっと気になっていたんじゃが、君達親はどうしたんじゃ?」


 僕らは言葉に詰まった。

 頭の中で、からまった記憶のひもがほどけて順々につながっていくように僕は感じた。


 バラバラにしておけばいいものを。 





 

 

  

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