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slash1.フォールド

至高の厨二病SF、連載開始です。

つまんなくなりそうですが、よろしくお願いします。

 僕はぼんやりと空を眺めていた。

 そんなことをしているうちに時間はただ永遠に流れていく

…本来はその筈だった。

「おい」

「ん…あ、え…?」 

 僕は突如傾いた景色に反応する前に体を地面に叩きつけた。

「おい?大丈夫か」

“彼女”は僕に駆け寄ってきた。

 利発そうな眼が僕を見て適当に刈った髪が揺れている。

「痛…驚いただろ。突然声かけるなよ」

「そんなのどうでもいいからちょっとは機体(ヴァレット)の修理手伝ってくれ」

「あれなら俺じゃなくてもできるだろ。俺はもう一体の方で疲れてるんだ。

単純なことなら進斗(しんと)に頼めばいいだろ」

「あいつは今忙しいから、何言ってもダメなのはお前も知ってるだろ?」

「分かった分かった。今行く」

 僕は立ち上がった。…背中が結構痛い。

 ふと向こうの町を見てみるとあちこちの建物は崩れ、焼け焦げ…要するに荒れている。

落ち着いて見ると実に愚かに見える。

 まあそれで僕らも一応儲かってるんだが。

 僕は彼女の後を追って整備場の扉の前に立った。 

 扉を開け、冷たい床の上に足を踏み入れる。

 中には巨大な機械の塊―――

十数メートルの人型の機体が窓から差し込む光の中で膝を立てている。

「これなんだけどさぁ、なかなか外せないから外してくれね?」

 彼女は周りの覆いが開いた太ももの中の大きな装置を指差した。

「周りを外して引っ張っても引っ張っても抜けないから」

 僕は近づいてよく見てみた。適当に数個の部品が取り外されている。

機体の足元に転がっている部品を拾う。手に冷たさが伝わってくる。

「まったく…なんでこれまで外すかなぁ」

「それ外さないとここが取れないだろ」

 彼女は見当違いな部分を細い指でつついた。

「…もういいから、僕に任せてくれよ、有花(ありか)さん」

 そう言って僕が手袋をはめると彼女は『だからオレ(・・)をそう呼ぶなと――』

だのと喚いて出て行った。

 ここからはもう僕だけの世界だ。これをさっさと終わらせよう。

そうすればあれに取り掛かれる。


オレは廊下の奥にある陰気なドアを叩いた。

「入ってる」

「トイレじゃないんだから」

 オレはドアを開けた。

 中の椅子に座っている坊主頭の少年がキーボードを叩いている。

こちらを一瞥するとまた仕事に戻っていく。

「おーい、進斗。仕事は順調か?あとどのぐらいで終わる?早くもう一機欲しいんだ」

「どんぐらいだろ?知らないね。これ難しいから」

 彼は全くこちらを振り向かずに答えた。

「んー、じゃあできたら整備場に持ってといてくれよ。いつでもあれには

あいつが付いてると思うから」

「ああ、分かった」

 オレはその部屋を出て、今度は廊下を戻って右の部屋に入った。

机の上に待機状態のパソコンが置かれている。

 オレは腕を―――寒いのでまくったつもりになって今月の予算をつけ始めた。

 偶然目に止まった窓の外は久しぶりに青空が広がっている。

(久しぶりに見たな…)

 感傷的になっている暇は無い、と思ってキーボードに指を乗せた。


 気がつけば窓の外は暗くなり、久しぶりに月を見ることができた。

今夜の月は半月で、もう半分を見ることができなかった。別に気にしないけど。

 俺はディスクを持って鉄の扉を開いた。

中には二体の機体(ヴァレット)が鎮座している。

 片方は形状からして恐らく運送屋の機体だろう。整備されたばかりで傷一つない。

 もう片方は

 機体に一人の少年が登ってあちこち手で触っている。彼は(かしわ)

 俺達と仕事をする言わば同僚だ。長髪で、顔つきは端正である。

後ろ髪はひっつめにし、前髪は目にかからないように左側をピンで止めている。

止める位なら切ればいいのに…。

「これ、出来たよ。それにすぐ入れられるようにしてあるから」

 俺は彼にディスクを渡した。彼は笑みを浮かべる。

「よし、ありがとう」

「しかしなーんでまたそんなに嬉しそうなんだ?」

「決まってるだろ。終わったからさ。これでようやく機体が動かせる」

 彼はおもちゃを買ってもらった子供が部屋に駆け込むように

操縦席に滑り込んだ。

「そんなに『ヴァレット』を作るのは楽しいのか…?」


ヴァレット…アルファベットで表記するとV.A.R.E.T.。

Variable Amateur's Riding Equipment Technologyの略で、

汎用性の高い素人でも容易に扱える搭乗型の科学技術装備というのが大体の意味だ。

基本人型で神経接続によって自在に操作できる、全長十数メートル程度の機体…

簡単かつ一般的で大雑把な言い方をすればロボットだ。

 僕は操縦席のドライブにディスクをセットした。ディスクを読み取る音がした。

機体のシステムを起動する。もっとも、今から肝心な部分は入れるんだが。

 自動でOSは機体にインストールされた。本来なら面倒な作業が必要なのだが、

進斗が一緒に作っておいてくれたプログラムのお陰でそれは省くことができた。

 画面を操作してコックピットのハッチを閉める。

隙間風が入らなくなり、コックピットの中が若干熱くなる。

 神経接続を開始…完了。

 動きを頭の中に思い描く。

がしん、とコックピットに揺れが伝わる。

敢えて衝撃吸収システムはオフにしてある。

だから機体が足を踏み出したのを感じることができる。

 そのまま整備場を一周する。もともと自信はあったのだが、

機体の足が良好であることが確かめられた。

 次に腕を何度か曲げ伸ばししてみる。右腕が多少動かしにくい……

まあ、後で直せばいいか。そう思って僕はハッチを開けた。

 下を見ると見慣れた少女が扉の近くに寄り掛かっている。

「晩飯できたからその位にして降りて来いよ」

「ああ、分かったよ。あ…リョウ」

「お前またその名前で…」

 僕は唇を緩ませながらヴァレットを降りた。

 コックピットの中はさっきより熱くなっていた。


 翌朝、僕は目覚まし時計の耳障りな音で目を覚ました。

 カーテンは閉めっぱなしにしていたので朝日が差し込むことはない。

 部屋を出て、廊下を歩く。傷んだ床が足を乗せる度軋んで音を出す。

 毎度毎度うるさいな…と音に苛立ちながら居間に入る。中には二人が既にいた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「ああ、悪いけど今日仕事入ったから」

 いつものように平然とリョウは言った。

「なんで?」

「昨日の夜匿名で電話よこして来られてさぁ。輸送だってよ」

 眠そうな目を擦りながら進斗が答える。

「というわけで出発は1時だから。よろしく」

「なんてこった…今日は…」

 休み、と言いかけたところで僕は思いとどまった。

 まあいいか。機体も完成したし、試運転には丁度いい。


 一人の男の子が歩道を走り、何かに躓いて転ぶ。

それを後から追ってきた母親と思しき女が抱え起こす。

 全く、親に甘えられる子供というのは…気楽なものだ。

 僕は嫉妬はその位にして機体を歩かせる。コックピットの中は

昨日よりもさらに熱い。なにしろリョウの希望で複座式にしたのだ。

「おお、やっぱり『ウォールナット』より速いな」

 ウォールナットは前に僕達が同業者から格安で買った機体(ヴァレット)だ。

一昔前の機体で、新しいのを買ったので必要なくなったらしい。

僕達はそれに改造を加えて使っている。ちなみに“ウォールナット”は

英語でクルミを意味するらしく、丸っこい胸の部分から両腕と頭と腹が

生えているような外見をしている。今は後ろで進斗が操縦している。

 信号機が赤になっので立ち止まる。モニター越しに見える町の景観は

決して綺麗とは言えない。

 右側のビルは所々に亀裂が走り、窓ガラスは割れた所をまるで

昔の漫画のようにテープでいびつに止めている。

 左側のビルは所々がすすけ、更に弾痕まである。

 それでも、見慣れたいつも通りの町だった。

ドウッ

 そう思ったとき、爆音がした。近くの地面に大穴が開いている。

 これは…まさか、と思ったときにはもう遅い。

 頭を揺さぶるような音が上と下で響いて機体が大きく揺れた。

「…っ」

「なんだ!?」

 機体のモニターが消えている。

僕は嫌な予感を抱きながら緊急レバーで機体のハッチを開いた。

 機体の下に降りてその光景を見た僕はもう泣かんばかりだった。

 つい昨日、2ヶ月かけて作ったばかりの機体は首と頭の一部が弾丸で吹き飛ばされ、

腹から腰に掛けての部分を大砲で見事にえぐられていた。 

「…」

 この感情は、そうだ、たとえるなら15年間手塩にかけて育てた愛娘を

目の前で凶悪な巨漢に滅多刺しにされて無残に殺害されたようなものだった。

 実際、半年も建造にかかっていないし、パーツも高かったが所詮中古や

廃材が多かったのだ…が、期待の損傷は酷いのは確かだ。

 吹き飛んだ頭の中には進斗一緒に苦労の末に

ようやく組み上げたメインコンピューターが、

えぐられた右の腹部には一番高かった動力炉の一部と、駆動系の制御システムとかが

収まっていた。

「あぁ…なんてこった。ひでぇな」

 僕は呑気なリョウの言葉に耳を傾けず、騒々しい青空を睨んだ。

そこには飛び回る二体のヴァレット…自衛隊で採用している最新モデルだ。

恐らくどこぞのチンピラが盗んだんだろう。片方はライフル状の大砲を抱えている。

僕は歯ぎしりした。

 そしてそれに砲撃する純白の機体。

何だろうか、あれその物は今までどんな雑誌でも見たことがない。

外見は色を除けば自衛隊の最新型によく似ている。

 僕はそのヴァレットに自分の心配も忘れて見入ってしまっていた。

 しかし、その直後にそのヴァレットは目と鼻の先に無様に、落ちた。


 そう、僕の目の前に。

  


中途半端ですいません。slash2に話は続きます。

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