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 急展開過ぎて頭がついていかない。アンガスを助ける役を、僕が担ってしまった。

 わからないなりにも考えながら歩く。何故僕はここにいるのか。何故話が少し違うのか。何故・・・。わからないことが多すぎる。夢といって終わらせることは容易い。だが、これは現実だ。僕は考えることは止めない。

 こういうときは世界の危機が迫っていると相場で決まっているものだ。それはさっきのように話が変わってしまうということなのか。僕の介入のせいではないと信じたい。では、本来アンガスを助けるはずだった人は、今いずこ。

 もう少し情報が欲しい。次は学校に新任の先生が来る。彼の代役が僕だったのだ。彼の行動にヒントがあるはずだ。きっと何かの疑問が少し解かれるだろう。

 僕は学校の門の見えるところで彼を待つ。学校に近づくにつれ、人は少なくなっていく。商店街からも、住宅街からも離れているので、当然だ。好き好んで用のないところには行かないものだ。言うまでもなく、ここも完全に再現されていた。




 いくらほど待っただろう。しかし待てど暮らせど彼は来ず。ずっと集中していたわけではないので、見逃したのかもしれない。仕方なく学校で聞くことにした。

 自分で書いておいてなんだが、やはりこの学校はデカすぎる。学校の大きさに感心しながら、守衛室を目指す。といっても、もう見えている。校門の横に守衛室があるのだ。

 学校の大きさに圧倒され、近付きづらい。しかし僕は、勇気──というほど大層なものではないが──を振り絞ってそこを覗いて、問うた。


「お聞きしたいことがあるのですが───」


「青山様ですね。ようこそお越しくださいました」


 事務の人は僕の言葉を遮りながら丁寧にお辞儀する。僕を青山英次ということを判断することは、魔術のある世界ならば容易なようだ。それとも、何か他の方法だろうか。なんにしろ、科学を超える神秘は素晴らしく便利なものであるのだ。


「校長がお待ちです」


 想像の誰しもが憧れ、求め続けた魔術に思いを馳せていると、何故か校長のところへと連れて行かれることになっていた。しかもその口ぶりは約束していたかのように。

 守衛室の一人がまず校舎まで、そこからは女性が校長室の前まで案内してくれる。もちろんここに来るのは初めてなのだが、道を知らないわけがなく、案内も必要ではなかった。しかしその行為を無下には出来ない。僕は黙ってついて行くのであった。

 こちらになります、と言うと、彼女は来た道を戻っていく。それを見送って、僕はドアをノックし、中に入る。


「久しぶりだね、英次」


「お久しぶりです。お変わりないようで」


 今日来るはずだった教諭は校長の教え子という設定だ。なるほど、僕は彼という設定か。

 校長室の中は、設定通りの質素さ。ここの校長は贅沢をあまり好まない設定だったな。


「昔話に花を咲かせたいが君は忙しそうだからな。早速本題に入らせてもらうよ」


 校長は僕が持っている小説を見た気がした。

 校長が椅子に座ったので、向かいのソファに座らせてもらう。


「ここに呼んだのはもちろん先生をしてもらうためだが、君にはあるクラスの担任をしてもらいたい。」


「あるクラスとは?」


 知っているが聞く。


「率直に言うと問題児を集めた。三元帥の子供、貴族、落ちこぼれ・・・。大変だとは思うがやってくれるな?」


「拒否権はないのですよね?だったら聞かないでくださいよ。先生らしいですけど」


 直接の思い出はないが、著者だからお茶ぐらい濁せる。


「では明日から宜しくお願いしますよ、青山先生」


 それはもう満面の笑みで。

 外に出ると空はもう薄暗かった。さて、家に帰るとしよう。

 というのもこのキャラは既婚者なのだ。綺麗な妻が帰りを待っているなんて羨ましすぎる。今は僕の妻だけど。


 どこにでもあるような一軒家。それが我が家だった。期待を胸に玄関を開ける。


「ただいま」


「お帰りなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?」


 妻である青山桜は大胆に着崩した服装で妖艶のポーズをとり、言う。僕は開いた口が塞がらなかった。


「あら、違ったかしら?もしかしてこっちの方が好みなのかしら」


 服装を正し、今度は笑顔でお辞儀しながら言う。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 桜はこんなキャラじゃない。もっと清楚でおしとやかで───。


「腑に落ちないことでもあるような顔ね。やっぱり、もっと清楚でおしとやかなタイプが好みなのかしら?」


驚愕せざるをえなかった。なぜならこいつは、青山桜は物語に準じていないから───。


「お前はどうして───」


 桜に質問を遮れる。


「ねぇ、あなた。ここで立ち話もなんだからリビングにでも行きましょう。夕飯も出来ていますし」


 そう言い、家の奥へ進む。ふと桜は振り返り、こう言い放った。


「それともお父様と呼んだ方がいいのかしら?」


 間違いない。青山桜は自身を理解している。


「召し上がれ」


 テーブルに座らせられ、桜にそう言われてはじめて気付いた。今日何も食べていないこと、凄く腹が減っていること。腹の虫が鳴ったように思えた。必然的に僕はテーブルに並んだ料理を脇目も振らずに食べた。


 食事が終わり、僕は唐突に問を投げる。


「お前は何を知っている?」


「ここがあなたの小説の世界ということと何かが変わったことぐらいかしら」


「成る程、だから僕を知っていると。じゃあ何かって何だ?」


「わからないわ。だから何かって言ったのよ。」


「何故変わってしまったのかは?」


 桜は首を横に振るのみ。


「変わったのは僕がこの世界に来たせいかもしれないね」


「むしろ逆じゃない?何かが変わったからこの世界に来た」


 励ましてくれているのだろうか。青山桜の原形を留めない彼女の考えなど全くわからなかった。

 しかし変化したのは確かだった。明日から僕のすることはルートの改変の阻止。ついでにアンガス達の先生も楽しもうではないか。


「そういえば僕の能力って何か知らない?」


「さぁ。というかあなた魔力ないでしょう」


 明日から不安だなぁ。


 僕は寝るために寝室へ向かう。


「何故ついて来る」


「ベッド一つしかありませんし」


 しまったー!そのことをすっかり忘れていた。設定上婚約者同士だが、僕の気持ち的な面で同じベッドは嫌だ。


「じゃあ僕はソファで寝るよ」


「婚約者は一緒に寝るのは当たり前ですよ。もしかして恥ずかしがっているんですか?」


 桜は濁りのない笑顔で言う。裏にはどんな濁りがあるのやら。


「お前はいいのかよ?僕と一緒のベッドで寝ても」


「はい、私は特に気にしませんよ。お父様と寝るぐらい」


 そういうことか。娘と寝るのだと考えればどうってことないな。

 ということで同じベッドで寝ることにしたが、緊張して眠れなかったのは言うまでもない。


 流石に二時間睡眠はきつい。桜が作ってくれたお弁当を持って学校に向かっているわけだが、足がふらついて仕様がない。それでも初日から遅れる訳もいかず、少し急ぐのであった。


「待っていたよ、青山先生」


 校長室に入ると校長ともう一人少年が立っていた。この世界では珍しい黒髪。間違いない、吉川亮だ。


「転校生の吉川亮だ。青山先生のクラスに入るから宜しく頼むよ」


「宜しくお願いします」


 亮は丁寧に頭を下げる。


「じゃあ教室に行こうか」




 先生の経験は初めてだ。緊張はする。しかしクラスは見知った顔ぶればかりだ。一方的に、だが。

 意を決してドアを開ける。


「よーし、席につけ」


 生徒に着席を促す。


「今日からこのクラスを担当する青山英次だ。みんなよろしく。そして転校生の───」


「吉川亮です。宜しくお願いします」


「席は一番後ろの空いているところだな」


 それはちょうどアンガスの隣である。これがきっかけで仲良くなるんだよな。


「よろしく」


 早速亮が声をかけたか。無視されるんだけどな。案の定アンガスは答えない。その一段落を見終えると教師の仕事をする。


「先生は君達の実力がわからないので今から模擬戦で実力をみたいと思います」


 クラス全員を闘技場に向かわせる。亮の周りには人が集まる。色々質問をされている。皆が教室から出るのを確認してようやくアンガスは立ち上がる。文ではわからなかったが、その姿はとても痛々しい。僕は見ていられなかった。




「よし、全員いるな」


 全員が集まったのを確認して早速模擬戦を始める。名もなきキャラが色々な武器を使い、戦っている。魔術を使える生徒はまだ少ない。その中のメインキャラ達が魔術を使う度に感動を覚える。彼等のことは後で紹介することにする。


「次は・・・、ティーダ・マードックとアンガス・シーカー」


 いよいよだ。四大貴族のマードック家の跡取り、ティーダ・マードックとアンガス・シーカーとの模擬戦。

 四大貴族の説明を少々。この世界は三元帥が統治している。その下に貴族、平民がいるわけだ。といっても貴族と平民の地位は同じ。同じはずなのだが・・・。

 そして貴族の中には四大貴族というものがある。その内三人の跡取りが僕のクラス。ついでに言うと三元帥の跡取りも全員僕のクラス。そういう扱いにくい問題児を集めたわけだ。



×××



「次は・・・、ティーダ・マードックとアンガス・シーカー」


 不意に僕の名前が呼ばれた。もう僕の番らしい。新しい先生は昨日僕を助けてくれた。もしかすると他の人とは違うのかもしれない。そんな微かな希望さえもこの模擬戦は破壊する。彼が昨日助けたのは虐められていた一般生徒。僕は落ちこぼれ。また落胆させるだけだ。ああ、そんなことはもうすでに、知っているのかもしれない。

 先生は好きな武器で、と言う。僕は数多くの武器の中から剣をとる。なぜなら剣しか使えないから。今回の相手は円形の石版のリングの上にもう立っていた。僕も急いで上がる。


「今回の相手はお前か、落ちこぼれ」


 武器を何も持たないティーダが言う。それに無言で答える。


「だんまりかよ。まぁいいさ。ハンデとして武器なしでやってやるよ。有り難く思いな」


 そう言ってせせら笑う。少し安堵する。落ちこぼれでもこれなら何か出来るかもしれない。───そう思ったのが間違いだった。

 先生のはじめという合図で僕は走り出す。先手必勝、これしかない。ふとティーダの口元が動く。


「土よ、弾となりて敵を撃ち抜け」


 ティーダが魔術を使えるなんて考えもしなかった。相手は四大貴族の跡取り。魔術ぐらい使えるか。剣を振り上げ、無防備な腹に着弾する。思わず腹をおさえ、倒れ込む。しかしティーダは攻撃を止めようとはしない。僕を見下し魔術を使う。体は傷だらけ、泥だらけだった。


「やめろっ!」


 誰かの怒号がして、攻撃が止む。見上げとそこには僕を庇うような形で先生が立っていた。


「何故倒れている相手に攻撃した?」


「だってまだ攻撃して来るかも知れないでしょう」


 ティーダはへらへら笑っている。先生は唐突に僕の落とした剣を拾う。


「では僕もお前がまだ攻撃してくるからもしれないから抵抗してもいいよな?」


 先生は剣先をティーダに向ける。


「教師がそんなことしていいのかよ!?」


 ティーダは先生の脅しにたじろいでいる。


「正当防衛だ。早くリングから降りろ。さもなくば・・・」


「覚えていろよ!」


 そんな捨て台詞を残し、ティーダは取り巻きの元に帰って行く。それを確認すると先生はこちらへ振り返る。


「大丈夫か?アンガス」


 そう言って手を差し延べる。大丈夫か、と聞かれるのは二度目だ。今度はちゃんと───。


「はい、大丈夫です」


 答えられただろうか。

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