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8/12

08 攫われました。




 ベアと合流したのは、城の前。

 見慣れた逆ハーの面々を見て、ガックリと肩が下がった。


「お祭りは三日間あるんだから、一日くらい私にベアを譲ってくれてもいいんじゃない?」

「バカ言うな。一日も譲る気はない」


 断言したのは、クラウドだ。


「全く、本来なら花姫という大役はベアのものだったはずなのに、それを横取りするようにお前が現れるから」

「元々いました、殿下」


 でもそれ言われるとダメージを受けてしまう。

 本当にその通りである。この大役はヒロインであるベアにこそ相応しいものだけれど、私が一位を獲ってしまったから仕方ない。

 そんなイレギュラーが楽しくてしょうがないベアは、クスクスと笑っている。そんなベアを見ていて、楽しそうなジャレッド。


「花姫姿、今もそうだけれど綺麗だわ」

「ありがとう、ベア。ベアも今日は一段ととっても綺麗ね」


 ベアは珍しくストレートの白銀の髪を結ってあり、色取りどりの花の髪飾りで飾っていた。ドレスも、刺繍の花が散りばめられていて、さながら花の妖精のよう。


「花姫に並ぶように、頑張ってもらったのよ」


 そう言って、にっこりと笑うベア。


「あー!! リリーナ先輩!!」

「いたー!!」


 思わずびくりと震え上がって、くるであろう衝撃に身構えた。

 同じ顔のやんちゃボーイのタックルがくる。

 そう思っていたのだけれど、寸前でテキーとミキーの首根っこを掴み、ルキーが止めた。


「もうタックルはしないって約束したでしょ」

「「はーい」」


 やっぱりタックルなんだ。

 されなくてよかった。ドレスを乱すといけないしね。


「じゃあこう!!」


 そうテキーが腕に抱き付いた。逆の左の方にも、 ミキーが抱き付く。

 両腕が塞がれてしまった。まぁいいか。腰にしがみ付かれて、練り歩くよりはいい。


「ん? どうしたの? ルキー。放心しちゃって」

「……。いえ、別に。その、綺麗ですね。リリーナ先輩」

「それはありがとう」

「……一緒に屋台巡りをしていただけますか?」

「あーベア、いいかな?」

「ええ。いいわよ」


 先に約束したベアに確認すると、愉快そうに微笑んでいた。


「大所帯だけれど、いいっか」


 逆ハー諸君とヒロインと三つ子と花姫わたし

 大通りも広いし、別に迷惑にはならないだろう。


「あ、花姫様だ!」

「きゃー花姫様!」


 私に気付いた女子達に始まって、次々と声をかけられた。

 打ち合わせ通り、にこやかな微笑みを作って手を振る。小一時間振っていた上に、テキーとミキーに引っ付かれていて重かった。


「あ、リリーナ先輩。何か食べます?」

「あ、うん。お腹空いたわ。ベア達は何か食べる?」

「え? 屋台って眺めるだけのものじゃないの?」

「え? ちゃんと食べ物売っているでしょう?」


 ベアは屋台をなんだと思っているのだ。

 驚愕された顔をされても、親友は困る。


「買って食べ歩きなど、貴族がすることではない」


 クラウドが反発した。

 なるほど。貴族様は屋台で食べ物を買ったことがないのか。


「いや、食べるでしょ、普通」

「うん、食べる」


 そこで反論したのは、意外にもライアン。それとジャレッドだった。

 当然庶民の出である私と三つ子も食べる派である。真っ二つに別れた。

 そういえばゲームでも疲れ切ったベアを気遣いつつ、屋台を眺めるだけのシーンだったけ。「オレが守るよ」なんて甘い言葉でいいムードになる。逆ハーレムルートなので、オレ達が守るよ、かな。

 確かに、何も食べてなかった。


「まぁいいよ。食べたい人が食べたいものを食べればいいのよ」


 私はそう片付けて、早速真ん丸のミニカステラが食べたいと指を差す。

 そうすれば、ルキーが買ってくれた。いい子。


「はい。どうぞ、リリーナ先輩」

「あーん」


 両手が塞がっているので、ルキーは私に食べさせてくれた。

 好きなのよね、この真ん丸のミニカステラ。

 ご機嫌に食べていれば、クラウドがフンと鼻で笑い退けた。


「仮にも花姫なのに、そんな食べ方をするなんて、みっともない」

「でも殿下はベアが両手が塞がっていたら、食べさせてあげるでしょう?」

「バカを言うな! オレだったら、両手を自由にしてやっている!」


 ムキになって答えなくてもいいじゃないか。


「大体、異性に二人も抱き付かれているなんて世間体を気にしないのか!」

「それもそうでした。テキー、ミキー、放して」

「いえいえ、リリーナ先輩」

「僕らはリリーナ先輩を」

「「エスコートしてるの!」」


 大所帯と疲れで、そのことまで頭が回らなかった。

 腕に絡んでいた腕を外してくれたかと思えば、今度は手を握られる。

 エスコートと称するか。


「はい、どうぞ。リリーナ先輩」


 ルキーもブレることなく私に食べさせてくれた。もぐもぐ。


「楽しそうでいいわね」


 ベアはまたクスクスと笑っている。


「ベアは何か食べてみたいものないの?」

「こら、無理強いをするな」

「無理強いとは人聞き悪い。尋ねているのですよ、殿下」


 また「花姫様ぁ」と声をかけられたので、ミキーに手を放してもらって手を振って微笑みを送った。


「そうね、わたくし、あれが食べてみたいと思っていたの」


 私とクラウドのやり取りを気にも留めずに、ベアが指差したのは飴だ。フルーツを飴でコーティングした食べ物。


「オレ、それ好きー! 一緒に食べようか、ベア」


 ジャレッドが早速購入をして、一つかじってからベアに寄越す。

 よく言えば、毒味。さらに言えば、間接キス。

 ベアが対応に困っていたので、私がかぶり付いてやった。


「ああ! 何するんだよ、リリーナ!!」

「忘れちゃ困るね」


 ガリガリと食べ終えてから、私は言い放つ。


「一位を獲った私が、ベアに相応しいかを決める!! それまで間接キスなんて認めない!」

「ええっ!」


 ジャレッドが地団駄踏んだ。

 クラウド達は、悔しそうに押し黙る。フフン。

 テキーもミキーも離れて飴を購入していたので、私は腕を組んで逆ハーレムと対峙した。バチバチと火花が散る。


「ああ、そういうこと……」


 固まっていたルキーは、状況が飲み込めたように呟いた。

 まだ明るい空には、ドラゴンが四方八方から飛んで乱舞する。

 そんな感じで、一日目の竜乱舞祭りは終えた。



 二日目の翌日も、私は花姫役として空中を闊歩する。

 今日は、西の大通りだ。

 昨日よりも多く見えるドラゴンの乱舞の下で、花を撒いては時々手を振る。

 クルクルと回りながら、降り注ぐリユニの花が城下町を飾っていく。

 一時間頑張って城に到着した時には、もうダウン。

 いそいそと着替えに取り掛かる侍女達に運ばれて、ベッドに乗せられる。

 今日は襲われないぞ、と気を張っていたけれど、フローライトが来ることはなかった。ホッ。

 今日はリユニの花かんむりを乗せられて、オフショルダーデザインのドレスで城に出された。肌にはふんだんにラメを付けられて、キラキラだ。化粧直しもされた。真っ赤な紅の唇を拭いたくなるけれど、家に帰るまでの我慢だ。

 今日待ってくれていたのは、テキーとミキーとルキーだ。

 ベアは今頃、逆ハーレムに取り合われている頃だろう。

 頑張れ、逆ハーレムのヒロイン。


「今日もお綺麗ですね……。リリーナ先輩」

「ありがとう、ルキー」

「「うん! 綺麗!!」」

「ありがとう」


 褒めてくれるなんて、紳士だ。しみじみ思う。

 でもルキーは目のやり場に困っているようで、視線を泳がした。

 肌をここまで露出しているし、主張するようにラメもキラめていたら、見慣れていない健全な男の子の反応だろう。

 テキーとミキーは、注目していない。


「今日は西の大通りを回りましょうか」

「そうね」


 昨日は南の大通りを回った。今日は、花をばら撒いた西の大通り。


「疲れているようには見えませんが、お疲れでしょう。今日は何を食べますか?」


 ルキーは先導するように前を歩きがながら、尋ねてくれた。


「んー何にしようかなぁ。花姫だからがっつり食べるのはよくないって言われてるんだよね」

「大変ですね」

「姫だもんね」

「リリーナ先輩は、姫って感じじゃないけどね」

「ミキー。一言余計だよ?」


 気にしないけれども。


「いや姫って感じだと僕は思うけど」


 フォローを入れてくれるルキー。


「ああ、着飾っているから?」

「それもありますが……あ、飲み物でもいかがですか? リリーナ先輩」

「うん、飲む」


 私を一瞥するとすぐに飲み物を購入してくれるルキーに、なんか悪いと思う。


「昨日からお金出してもらってばっかりいるね。ごめんね、先輩なのに。今日は私におごらせてよ」

「いえ、僕らは紳士なので、花姫にお金を出させるわけにはいきません」

「僕ら、この日のためにお小遣い貯めたんだぁ」

「それは言わなくていい、テキー」


 お小遣い貯めていたのか。健気だなぁ、と和む。

 私もお小遣いを貯めた口だけれど。


「花姫様ぁ」

「きゃー花姫様だぁ」


 呼ばれたので、微笑んで手を振る。


「お、いたいた! リリーナ!」


 祭りで賑わう人混みがザッと分かれて、彼らを通す。

 見回りをしている騎士団だ。

 その先頭に立つのは、フローライト副団長。今日も正装をビシッと着ていて、騎士達を引き連れている。厳しい顔付きをした騎士達が、ズラッと並んでいた。


「オレの花姫!」

「!」


 フローライトの発言に、後ろの騎士達が顔色を変える。

 三つ子も目を大きく開くと、私に注目していた。

 オレの、とはとんでもないことを言ったものだ。大いに誤解を招く。


「お、なんだ? ベアのように取り巻きがいるのか? リリーナ」

「「「……」」」


 フローライトと三つ子が、対峙する。

 厳密に言えば、ルキーとフローライトだ。テキーとミキーは私の後ろに隠れている。

 紫の瞳で見下すフローライトが、獰猛な眼差しを注ぐ。その威圧に、ルキーは顔を歪ませてフラつく。気圧されているのだ。


「やめてください」

「フン。面白くないな、リリーナの取り巻きは」

「っ……」


 私がルキーの前に立ちはだかると、フローライトはあざけて威圧することをやめた。

 後ろでルキーはよろけたが、テキーとミキーが支える。

 私は史上最強とも謳われた男の弟子だから、耐えられるものだけれど、ルキー達にはきつい威圧感だっただろう。


「お仕事中なのではないですか?」


 腕を組んで見据える。


「ああ、仕事中だ。ついでにお前を探していた。今日もいいドレスで着飾っているじゃないか、似合っているぜ」

「それはどうも。それではさようなら」

「くくくっ。そんな態度をするか。よっぽど大事な取り巻きなのか?」


 そう言えば、ここ毎日私の顔を見に来ていたっけ。

 なんて思いつつ、さっさと去るように道を譲るのだけれど、愉快そうに喉を震わせた。そんなフローライトは身体ごと傾けて、背にしている三人を覗こうとする。


「大事な後輩です」

「大事な後輩」

「「「……」」」


 おかしそうにおうむ返しするフローライトに、私は怪訝な顔になった。


「明日は、オレがお前を独占する。忘れていないだろうな?」

「……」


 いや、約束していないけれども。


「リリーナ先輩っ……」

「お? なんだ、小僧。何か文句でもあるのか? 言ってみろよ」

「年下いじめはいけませんよ、フローライト様」

「年下いじめ、ねぇ? これくらいで怖気付くなら……どうでもいいな」

「っ……」


 ルキーの声。振り返ろうとしたけれども、フローライトがにやりと嘲笑う。

 やれやれと思っていれば、フローライトは騎士団を連れて移動した。

 騎士達の目がすごい。尊敬しているような眼差しだった。何故だ。


「……どうして、リリーナ先輩は平然としていられるの?」

「あんな怖い顔と殺気を向けられて……」

「剣術の師匠がいると割と慣れるもんだよ。三人はいないもんね」


 まだ顔を上げられなく意気消沈しているテキーとミキーの頭を撫でてやる。師匠もいないのにトップに君臨出来ている辺り、やっぱり天才。

 ルキーの頭も撫でようと手を伸ばした。でも掴まれる。


「……リリーナ先輩……あの人とは、一体……」

「ん?」

「…………いえ、なんでもありません」

 

 ルキーは悲しそうに顔を背けてしまう。私の手を握ったまま。

 そんなルキーの顎をもう片方の手で掴み、そして上げる。


「どーした? ん?」

「っ!?」


 途端にルキーは真っ赤な顔になった。耳まで真っ赤だぁ。


「な、なんでこう、いうっこと……! するんですかっ!?」

「いや、顔伏せてるから」

「僕だけじゃないっ!」

「だって頭撫でるの止めるから」

「ああもういいですよっ! 次行きましょう!?」


 ぐいっと握られた手は日が暮れるまで、ずっとルキーが持っていた。

 ……まさかねー。


 三日目の最終日。フローライトに勝手に約束されたから、なんだか気が重かった。振り回されると思うと、もう疲れる。断固拒否出来ないかな。出来ないんだろう。花姫の役目を終えた私は、ぐったりとしながら振り回される羽目になる。そんな未来が見えないと瞼を閉じて、城下町の外れからスタートした。

 今日は東の大通りの上。

 相変わらず、ドラゴンの乱舞が頭上を通過する。

 あ、今あのドラゴン、回った。張り切っている。

 一際目立つ歓声が上がった。

 祭りは今日で終わりだけれど、乱舞は数日続くというのが通例。

 求愛の乱舞だから、残りもののドラゴンだろう。ドラゴンも大変だ。

 私もあと二年で学園を卒業する。相手を見つけなくちゃだなぁ。

 ベアみたいに恋人どころか夫候補がいるわけじゃないし、恋に落ちて愛を見付けられたらいいと思う。

 すると、フローライトが浮かんだ。


「……あの人はないな」


 あんな戦闘狂が、夫とか考えられない。

 あっちだって私を妻になんて考えていないだろう。

 じゃあどんな夫がいいだろうか?

 乙女ゲームにハマっていた私は、攻略対象者にときめいてはいた。

 でもいざこうして会うと、ベアに惹かれているわけだから、対象外である。

 左右に腕を広げて、風にリユニの花を乗せて降り注ぐ。

 すると、珍しいドラゴンを目にした。

 今までは灰色のドラゴンだったのに、それはきっと黄金色。

 しかも二回り、三回りは大きいドラゴンだ。

 あんなにも巨大なドラゴンがもし城下町に降りたら、建物なんて軽くペシャンコになるだろう。なんて考えていれば。


「え? うそ、えっ?」


 ドラゴンが私と同じ高さを飛んでいると思いきや、真っ直ぐにこちらに向かってきた。このままで衝突する。しかし、衝突するどころか、ドラゴンは牙が並ぶ口を大きく開いた。


「っ!!?」


 かぶっ。


 私はドラゴンに噛み付かれる。下から悲鳴が、ところどころで響いた。

 でも牙は私の身体を傷付けていない。くわえられただけだ。

 そのドラゴンは、バサッと翼を動かして高度を上げる。

 グングンと風の中を突き進み、あっという間に城下町を離れた。

 私は連れ去られたのだ。



 

20180311

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