05 獲りました。
目が眩むほどの鮮やかな夕焼けも見ずに、剣を交じり合わせる。
師匠の手合わせ中に、珍しく師匠が口を開いた。
「お前。誰と戦うつもりだ?」
「おっ?」
口を開いたことに驚いて、飛び退く。一旦距離を置いた。
「学年一位の男子生徒、というかこの国の王子様」
「……クラウド殿下か」
さすが騎士団長を務めていた男。知り合いのような口振りだ。
「まぁ、実際戦う相手は違います。今の騎士副団長と手合わせするんです」
「今の騎士副団長?」
「あ、これ内密ですよ。今回の魔法剣術試験は、騎士副団長直々に相手するんですよ」
騎士副団長のフローライト・チャステインが、直々に魔法と剣術を合わせて戦う試験の相手をしてくれるのだ。ゲーム知識で知っている。これはベアにも話してあるけれど、他言しないことにしてもらった。悪いけれど、クラウド達には動揺してほしいもの。ズルじゃない。情報も武器だもの。
「……なら、本気を出さなくてはな」
「っ!?」
一気に間合いを詰められて、剣が叩き落とされる。
「握りが甘い。拾え」
「っ! 了解しました、師匠!」
今までも全然勝てなかったけれど、本気もますます勝てない。
でも逆に俄然燃えてしまうのが私だった。ニヤリと笑う。
現在、騎士副団長を務めるフローライトに勝つためにも、彼から学び続けるしかない。強者を超えるために、強者になる。
剣をきつく握り締めて、一歩を強く踏み出した。
剣術の特訓と勉強の日々。
張り詰めた糸の中、お昼休みは心が休まる。
お母さんのお弁当を食べて、楽しげなベアと談笑。
そこに加わるジャレッドとマシュ。相変わらず気に入らなそうなライアンとクラウドが、私を睨み付けるが今や痛くもかゆくもない。
「本当、このお菓子最高。マシュってば、才能あるー」
「褒めてもお菓子は増えないからねー」
マシュってば、ゲームでも思ったけれど、お母さんポジションだよね。
そのポジションから抜けられなくなってしまうパターン。と思わせて、「オレも男だから」とふとした瞬間に攻めるキャラなのである。ギャップ萌えってやつかな。
しっかり嫉妬はするけれど、ちゃんと私の分のお菓子も作ってくれるのよね。今日のマフィンのようなお菓子も、美味しい。
「そうだ。リリーナ。一位を獲れたら、どんなお祝いをしましょうか?」
「お祝い?」
「ええ、出来れば贈り物をあげたいわ。何がいい? 欲しいものある?」
一位の話題に、ピクリと肩が跳ねるクラウドとライアン。
そんなもの視界に入れず、ベアは手を合わせて私を上目遣いで見つめてくる。明るい青い瞳が待っているので、考えを巡らせた。
「じゃあこうしない?」
私は白銀の髪の隙間から見えたベアの耳に触れる。そこには真珠のピアスがつけられていた。
「親友同士、お揃いのピアス」
「お揃いの、ピアス……!」
両手を頬に当てて、ベアは喜んだ。
もらうのは私の方なのに。
「「「お揃いのピアスだと!?」」」
声を上げたのは、マシュ、クラウド、ライアンの三人だった。
そう言えば、ピアスの贈り物っていつも身につけていられるから「いつでも自分の存在を感じてもらいたい」という意味を込められるんだっけ。
それで三人は、嫉妬に燃えた目をしているのか。
「ちなみに何色、何のピアスがいい?」
まだ喜んでいるベアが嬉々として問う。
「そうねー毎日つけるなら、やっぱりなんでも合いそうなゴールドかな」
「純金のピアスね、わかったわ! 二人分用意する!」
ギュッと顔の前で手を握る可愛い仕草をして、ベアは決意をした。
そんなベアの肩を掴むのは、クラウド。
「待て。一位はこのオレだ! その時はオレとお揃いのピアスをつけようじゃないか。オレと君の瞳に合うサファイアでどうだ?」
「ちょ、それなら僕……というか、エメラルドグリーンも似合うと思うけれど?」
「赤もいいと思う! ちらっと垣間見えるルビーのピアスもいいと思うから!」
「お揃いいいな、オレはなんでもいい」
フフン、順調に焚き付けられている。
あとは私が一位を獲るだけだ。ベアとこっそり目を合わせては笑った。
切磋琢磨をして、迎えた試験。
筆記試験はミスがないように念入りにチェックをした。
うむ、大丈夫。百点満点は間違いなし。名前もしっかり書き込んだ。
召喚獣の魔法陣による召喚試験にも、余裕で合格。
そして残るは、魔法剣術試験だ。
城の裏に位置するグラウンドに立っていたのは、あのフローライト・チャステイン。紫のストレートの短い髪に、同じ色の瞳。騎士の制服を着ていた。
「驚いたか? ベア。今回の魔法剣術試験はこのオレに一撃喰らわすことだ」
「いえ、全然驚きませんわ。フローライト様」
「そんな反応か、面白い女だ」
生徒達があまりの巨大な壁に驚愕している中、私から聞いていたベアは平然と微笑みを返す。フローライトは、ニヒルに笑う。
ゲームなら、ここはベアが驚いてフローライトがその反応を楽しむシーンだけれど、似たり寄ったりね。
「おののいている場合じゃないぞ。オレは防壁の魔法をかけているから、殺す気で挑んで構わない。さて、誰から挑む?」
「私からお願いいたします。フローライト様」
首席の卒業者と名高い騎士副団長のフローライトに怖気付いて、ほとんどの生徒が下がる中、私は前に出た。
「お前は確かベアの親友の……」
「リリーナ・リモーネです」
一礼してから剣を構える。すでに魔法剣術用の騎士の制服にも似た体操服は着ているから、準備は万端だ。
「どこからでもかかってこい」
「お言葉に甘えてーーーー風よ(ヴェンド)!」
「!?」
私は風の魔法で加速をして、一気に間合いを詰めて剣を振り下ろす。
隙を突いたと思ったが、反射的に受け止められた。
さすが、現在、騎士副団長を務める首席だった男だ。
でもまだまだこれからだ。加速したまま私は、剣を叩き付けた。
それを見切ろうとするから、これまたすごいと感心する。
だが、師匠よりは弱い。そう感じた。
加速加速の正面衝突に、ついに隙を見付けて整った横っ面に蹴りを決める。
「っ!!」
「一撃、いれましたよ?」
ニヤリと笑った見せれば、フローライトも頬を拭って口角を上げた。
「お前、誰に剣技を教わっている?」
「秘密ですよ」
「フッ……フハハハ!! 面白い!! 面白い女がもう一人いたとは、愉快な学年だ! さぁ次の挑戦者は誰だ!? 悪いが機嫌が良すぎて加減出来ないぞ!」
オレ様フローライト様に、面白い女認定されてしまう。
まぁ無理もない。私はワクワクしすぎて、終始笑みが堪えきれなかったもの。さながらバーサーカーである。
何はともあれ無事、一抜けた。
私のようには戦えないと怖気付いた生徒が何人かいたが、私は残りの挑戦者を観察させてもらう。流石というべきか、クラウドは息を切らせつつも足元を土魔法で崩して隙を作り、一本取った。あとは皆、敗北を余儀なくされる。容赦なさすぎだ。
フローライトの評価で、私はクラウドを上回った。
おかげで、宣言通り一位を獲得したのだ。
20180308