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04 手なづけしました。




 放課後。真っ直ぐギレルモ師匠の元に行こうとしたのだけれど、校門を出てからずっとついてくる影があった。


「いつまでついてくるつもり? ジャレッド・リコートさん」


 白銀の髪をオールバックにして、赤と黒の珍しいオッドアイを持つ白いローブのジャレッド。


「……」


 ジャレッドは足を止めて、沈黙を返す。

 秘密の特訓を知られたくない私は、ここで追い返したい。


「何? 家までついてきたいの?」

「……ほ」

「ん?」

「本当なのか? アンタがベアの最初の友だちだって」

「んーそうね」


 ベア本人が言っていたじゃないか。

 何故、私に確認するのだ。

 影を作るほど俯くジャレッドは、無邪気に見えて実はヤンデレだということを思い出した。赤と黒の珍しいオッドアイは、忌み嫌われている目だ。それを隠すようにいつも髪を下ろして、ローブのフードで隠していたジャレッド。

 そのジャレッドのローブの下を見てしまったベアが、「綺麗な目」と褒める。そんな一言に救われて、そんな一言に恋に落ちて、そんな一言に執着してしまった。


「オレの初めての友だちは……ベアなのにっ! なんでアンタなんだよ!!」


 ローブが舞い上がるほど、魔力が溢れ出す。

 風のように吹き荒れている。

 十メートル離れたところに立つ私の肌に、ひしひしと伝わった。

 魔力を膨大に持つ孤児だったから、魔術師団長に拾われた経緯があるだけあって、すごい魔力の量だ。まぁ魔法を教えるだけ教えて、愛を注がなかったのはいただけない話だけれども。

 私はそんなジャレッドに歩み寄る。

 ジャレッドが手を翳して何か仕掛けるその前に、私の手が彼の頭に乗った。


「よかったね」

「……へ?」


 私がその言葉をかければ、間の抜けた声が返ってくる。

 魔力も収まって、風が止んだ。


「ベアが初めての友だちでよかったね」


 私は付け加えて、告げる。

 さながら呪いのようなものだけれど、その一言で変れたことを祝福した。


「それでいいじゃない」


 ベアの最初の友だちになれなかったけれど、ベアが最初の友だちということは変わらない。


「じゃあ、私、用があるから、さようなら」


 私はひらっと手を振って、歩き去る。

 今度こそつけられていない。

 それを確認して、ギレルモ師匠の家を訪ねた。

 家の裏にいた師匠に、取り出した剣を構えて挑んだ。

 夜が耽るまで、戦い続けた。


「師匠。今日もありがとうございました」


 私は汗だくになりながら、一礼する。


「師匠、次の試験一位になったら誇ってもいいですよ? 自慢の弟子」

「アホ言ってねぇでさっさと帰れ」

「また明日、師匠」


 吹き出して私は、家に帰ろうと歩き出す。

 師匠にはお礼というか授業料として、手伝いで貯めたお金を渡したことがある。でもそれを新しい剣に変えて、突き付けられた。

 弟子と口では認めないけれど、認めちゃっているんだよねー。

 嬉しかった思い出を掘り返した私は、妙にご機嫌で帰った。




 翌朝、登校すると校門にはベアだけではなく、ジャレッドもいたものだから、キョトンとしてしまう。


「おはよう! リリーナ」

「おはよう、リリーナ」

「おはよう、ベア、ジャレッド」


 昨日と打って変わって、ジャレッドは笑顔で挨拶してきた。ローブを着ている腕をブンブンと振ってまで。


「今、ジャレッドにリリーナと初めて会った日のことを話していたの」

「うん、聞いてた!」

「それで……」

「うん! オレもリリーナと友だちになりたい! 友だちになってくれる?」


 緊張した表情で、ジャレッドは手を差し伸べてきた。

 またもやキョトンとしてしまう。

 昨日は危害を加える気だったヤンデレが、コロッと変わってしまった。

 手なづけてしまったようだ。ま、いいっか。


「いいよ。友だちね」

「!」


 握手をすれば、オッドアイの目がキラキラと輝く。

 綺麗なのに、なんで忌み嫌われるんだっけ。ああ、赤子の時から魔力が多く宿る悪魔の子と称されているからだった。


「ありがとう、リリーナ!」


 無邪気に喜ぶジャレッドは、感激したと震える。

 ベアもジャレッドも、大袈裟だな。

 私と友だちになったくらいで。


「何を戯れているんだ!? ジャレッド!」

「新しい友だち出来た!」

「ふざけるなよ!」


 クラウドがどこからともなく現れて、ジャレッドの胸ぐら掴んだ。

 ケロッとしたジャレッドは、嬉々として報告。

 クラウド、青筋が浮き出ている。


「どうしたの? ちょっと、どーどー」


 マシュが割って入って止めた。


「コイツが敵と馴れ合ってた!」


 どうやらベアの逆ハーレムの仲間意識のようなものはあるようで、私は完全に逆ハーの敵に認定されているみたいだ。思惑通りである。


「手なづけたと言ってほしい!」

「手なづけられた!」

「自信たっぷりに言うな!!」


 私とジャレッドとクラウドは、案外仲良くやれるかもしれない。

 まぁ試験が終わるまで、クラウドと馴れ合うつもりはなかった。

 クラウドは不動の一位を、二年連続獲っているのだ。

 最終目標は彼なのだから、闘争心を燃やし続けたい。

 私は青い瞳のクラウドと睨み合った。


「なーなー。リリーナ。今日の召喚獣対決の授業は相手になってよ」

「いいけれど、私負けるつもりはないからね」

「うん!!」

「ちょ、いつもは僕が相手じゃないか……」


 いつの間にか来ていたライアンが、気に入らなそうに呟くように言う。


「あ、ごめん、ライアン。今日はリリーナに相手してもらいたいから、他探して!」


 手を合わせて、ジャレッドは謝る。

 しぶしぶといった様子で承諾するライアンだった。


「ねぇ、どうやって手なづけたの?」


 コツン、と腕をつつかれたかと思えば、マシュがいる。


「ジャレッドが心開いているみたい。何したの?」

「私はただこうやって頭撫でただけ」


 マシュの頭にポンと手を置く。

 今度はマシュがキョトンとした顔になる。

 そして顔を歪めて「理解出来ない」と一人呟く。


「あはは。もう教室行こう?」


 ずっと校門に立っていたので、そのまま六人で移動した。

 召喚獣の授業。

 大広間で、召喚獣同士の手合わせを時々行う。

 召喚獣という不死の魔法の生物と契約が出来るかは運次第。

 ワンナは、始まりの召喚獣。そして召喚獣の生みの親。

 ドゥエは、二面性のある召喚獣。

 トリアは、攻撃的な召喚獣。

 クアトは、四季を示す召喚獣。

 クイーンは、生命を示す召喚獣。

 センテは、神秘的な召喚獣。

 ジャレッドは魔力を多く持つせいなのか、それとも才能を褒め称えているかのように、希少なワンナとセンテの召喚獣を所持している。


「スコーピオンキング! メーラ!!」


 いざ対峙すると、ジャレッドは早速二匹の召喚獣を名前で喚び出した。

 加減はする気がないのね。

 一匹は、巨大な黒い蠍・名をスコーピオンキング。車並みに大きい。

 もう一匹は、耳の大きな淡い赤色の毛に覆われた子犬か子猫の中間辺りの召喚獣・名をメーラ。こちらは中型犬サイズ。


「スドクレシェ!!」


 私も名前で喚び出す。魔力が消耗する召喚法なのだ。

 普通は魔法陣を書いて召喚する方が、一番魔力を浪費しない。

 でも二体も召喚獣を召喚してもニコニコされていては、こちらも同じことをしたくなるでしょう?

 私の元に現れるのは、真っ赤な毛並みのオセロットというネコ科の動物によく似ている召喚獣。その大きさは私を優に超える。模様はなく、尻尾は二つ。背の長い髪が靡くと炎のように見える。


「一気に仕留めるわよ!! スドクレシェ!」


 スドクレシェは炎の玉を吐いた。

 それをスコーピオンキングにぶつける。


「残念! スコは炎に強い!」


 ジャレッドの声が聞こえる。


「知ってる!!」


 私はそう大声を返す。

 炎の玉は、目眩しだ。二面性のドゥエであるスドクレシェは、炎と植物使い。爆発的に成長をした植物で、スコーピオンキングもメーラも捕らえた。連携プレーをされる前に動きを封じさせてもらう。


「ええ!?」

「先手必勝。畳み掛けてもらったわ」


 私の勝利。二対一で勝った。その上相手は絶対的五位の一人・ジャレッドだったから、大広間はざわめいた。

 私は鼻を高くして、スドクレシェの長い髪を撫でる。

 スドクレシェはゴロゴロと喉を鳴らして、私の頬擦りした。

 いつ触っても、極上のもふもふ。



 

20180307

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