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3/12

03 宣言しました。




 有言実行をするべく、アーチェ伯爵家をあとにした私は城下町の隅っこにある家に向かう。

 畑仕事をしている男性に向かって私は。


「師匠! 手合わせをお願いします!!」


 そう告げて、召喚陣で取り出した剣を構えた。

 背を向けている男性は、振り向こうとしない。

 こんなことはいつものことだ。


「行きますよ!!」


 私が飛び付いて斬りかかると、鍬で受け止められた。


「久しぶりに来たかと思えば、物騒な挨拶をするな」


 歳は五十前後の男性の名前は、ギレルモ・ホースメン。

 前騎士団長を務めていた上に、史上最強の騎士と謳われた男だ。

 なのに爵位も蹴って、ひっそりと城下町の隅で畑を耕して隠居している。

 前世で騎士で名を馳せて、また騎士として名を馳せた者は彼のこと。

 そんな実は強者の彼にこうして挑み続けているのは、私くらいなものだった。以前は、もっと多くの生徒が弟子入りに来たらしいが、全部返り討ちにして断ったのだという。かくいう私も返り討ちにあったけれども、それでも負けん気で挑み続けてきた。

 今では、弟子として認められたと自負している。

 正直、彼から剣術を盗み学んでいなければ、六位なんて座を勝ち取れなかったと思う。何せ、絶対的五位の五人には、教えるために働いている家庭教師がついているのだ。剣術だって、師がいるはず。


「これからは試験まで毎日挑みに来ますよっ!!」

「……」


 師匠は必要以上に喋らない。それだけ伝えればいいだろう。

 私は鍬で戦い続ける師匠に、剣を振るった。




 翌朝。ブーティーでカツカツと歩いていく。

 目指すのは、城と外観がそう変わらない世界一の魔法学園マジカル。

 朝陽で白い光を反射するそれに目が眩んでいれば。


「おはよう、リリーナ」


 穏やかな声で挨拶をするベアが、校門前に立って待っていた。


「おはよう、ベア」


 私は笑みを返して、肩を並べて校舎に向かって歩く。


「それでいつ宣言するの?」

「んーここぞって時にかしら」


 わくわくした様子で問うベアが言うのは、昨日話したことだろう。

 親友になったベアに相応しい男か、ふるいにかけるのだ。

 私は絶対的五位に君臨する四人の男子生徒に、宣戦布告をすると決めた。

 それはイレギュラーを起こすためだ。焚き付けた四人がどんなリアクションをするか、ベアは楽しみにしている。

 弄ぶのは、逆ハーレムヒロインの特権よね。

 弄ばれる側の男子諸君が可哀想だけれども、そういう相手に惚れてしまったが運の尽きだ。頑張ってベアを楽しませてくれ。

 教室に行く途中で、クラウドと会った。

 またお前か、という邪険にしたそうな目を向けられたけれど、ベアの隣を譲らない。素知らぬ顔で、堂々といた。

 クラウドに続いて、ライアン、マシュ、ジャレッドも合流して、教室に入る。ベアも席につくまで私の腕を離さなかったので、嫉妬の視線がすごかった。もちろん逆ハー要員の四人からだ。

 午前の授業は、しっかり勉強に集中した。筆記試験で躓くようではだめだ。一位なんて夢のまた夢。だから、負けていられない。


「リリーナ。三階のバルコニーでランチをしてお茶を飲みましょう」


 お昼休みになれば、ベアからお誘いがきた。

 休憩も大事だ。私は頷き、一緒に三階バルコニーに出た。

 必然のように、クラウド達も共にいる。


「あれ、リリーナはお弁当持参なの? オレもお弁当持参、あ、ベアの分しかないけれどね」

「毎日ベアに作ってあげているのでしょう? ご苦労様です」


 お弁当とテーブルに広げながら、マシュが笑いかけた。

 私は笑い返すと、糸目を開いて固まる。

 ベアから聞いていないけれど、ゲームをしてて知っているのだ。

 女子力高いマシュは尽くすタイプで、お弁当とお菓子を毎日のように作るのだ。たまにベアがお礼に作ってあげるイベントがあると、マシュは大喜びをするのだ。ゲームの話。


「あ、でもお茶に合うお菓子はちゃんと用意しておいたから」

「お気遣いありがとうございます、マシュ様」

「マシュでいいよ。ベアの親友なのだから」

「お言葉に甘えて、マシュと呼ばせてもらいますね」


 再び動き出したマシュは、そう笑って見せる。


「フン。身の程知らずが」


 バルコニーの隅でサンドイッチを食べているクラウドが、何か言っているが聞こえないふり。


「君、女子で二位の実力だけれど、もしかしてベアに取り入って蹴落とすつもりじゃないよね?」


 そう尋ねたのは、マシュの隣に椅子に座っているライアンだった。

 据わった翡翠の瞳が、私を射抜くように見てくる。

 敵意で軋みそうな空気になった。さすがベアの逆ハーレム。


「そんなまさか。知っての通り近付いたのは、ベアの方ですよ。ライアン様」

「僕の名前を、勝手に呼ばないでよね」

「それは失礼しました、フォード様?」


 勇者の末裔は、クラウドに並ぶ孤高のプライドだ。

 プライドに伴う実力があるのだからしょうがない。


「そうよ、蹴落とすなんて人聞き悪い」

「でも次の試験は、ベアだけではなく、皆さんを負かせて一位を獲りにいくつもりです」


 ベアの次に発言した。今がここぞって時だろう。

 また更に強い敵意で空気が軋みそうになった。

 ニコニコしていたジャレッドも、マシュも笑みを引っ込めている。

 クラウドは目を細めて、私を見下すような視線を投げた。

 ライアンも顎を上げて、私を見下すように見据える。

 ベアだけが、おかしそうに一同を見回した。緩む口元は、お上品に掌で隠しているけれども。


「五位にも食い込めなかった君が? へぇ……」


 ライアンは凍てつくような冷たい声を放つ。

 ベアにはツンツンしながらデレるくせに。


「今回は全身全霊で一位を獲る」

「フン、まるで貴様は今まで全力を出していなかったような言い草だな」


 クラウドが噛み付くように言う。


「今回は親友が応援してくれるというパワーがあるので」


 私はコツンと隣のベアと頭を重ねた。

「なっ」とクラウドが、思わぬ急接近に震え上がる。

 面白い反応だ。


「はい。わたくし、リリーナを応援します」


 ベアは打ち合わせもしていないのに、合わせてくれた。


「なっ! ライバルだぞ!? いいのか、ベア!」

「それを言うなら、ここにいる皆がライバル……好敵手ですよね? クラウド殿下」

「……っ」


 ベアの言う通りだ。クラウドは押し黙る。

 私は椅子から立ち上がって、宣言した。


「私、リリーナ・リモーネはあなた達に宣戦布告をする! 一位は、この私がもらう! ベアに相応しい男かどうかは、この私が決める!!」


 高らかに言ってやれば、ガタンッと三人は立つ。


「な、何がベアに相応しいかどうかだ……! 僕は別にっ!」


 ここまで来て何恥ずかしがっているのだ、ライアン。


「なんでリリーナに決められなきゃいけないの!?」

「そうだ! ポッと出のアンタに決められたくないぞ!」


 ムキになるマシュとジャレッド。


「ポッと出ではない。私は最初からベアの友だち」

「むしろ一番最初のお友だち」


 え? そうなの、ベア。

 ジャレッドは、わなわなと震えた。まるで絶対の自信を崩されたみたいな反応だ。どうした、どうした。大丈夫か。かっこわらい。


「はっ! 万年六位が何をほざくかと思えば……」


 衝撃的すぎたのか、固まっていたクラウドが動き出した。

 私の目の前まで歩み寄って、睨み付けてくる。


「吠え面かくぞ。撤回するなら今のうちだ、許してやる」

「いいえ、撤回しない。許さなくて結構」

「っ!」


 言い返してやれば、一瞬怯んだ。

 そんなクラウドを、フンと鼻で笑い飛ばす。

 椅子に戻って、お弁当を食べた。

 ギロッと睨まれていたけれど、そんな中、完食。

 美味しかったです、お母さん。


「お茶とお菓子、ご馳走様でした。ではお先に失礼します」


 私は大袈裟に腕を広げて一礼して見せて、バルコニーをあとにした。

 昼休みの残りの時間は、図書室で勉強でもしようかと歩んでいたら、騒がしい音が耳に届く。


 ダダダダダダッ。


 近付くのは、足音。あ、これ来たわ。

 私はくるであろう衝撃に備えて覚悟を決めた。


 ドゴォンッ!


 抱き付きという名のタックルが、私の背中にクリーンヒットした。

 タックルだ。もうこの音はタックルとしか言いようがない。

 ぐおっ、と漏れそうな声をなんとか堪えた。


「「リリーナ先輩!! こんにちは!」」

「……こんにちは、テキー、ミキー」


 私の身体を締め付けながら、左右で明るく元気よく挨拶するのは同じ顔の二人。間違い探しをしても見つからないほど、そっくりな顔立ちをしている。茶色い髪に濃い茶色の瞳の持ち主。それが美少年なのだから、大人しくしていれば目の保養なのだけれどね。

 庶民出身の双子……いや、三つ子だった。

 全員中等部のトップに君臨している天才である。

 もう一人はルキーという名で、その子だけはとても大人しい。

 超天才と持て囃されている三人は中等部だけではなく、高等部にも人気が及んでいる。この人懐っこさとルックスが人気なのだろう。

 よくわからないけれど、私は彼らに好かれてしまっている。

 いつもタックルしてくるのは、何故だろうか。

 痛いので、やめてほしいものだ。

 でも避けると避けたで、抱き付けるまで執拗に追ってくる。

 時には魔法を行使して、タックルを決められたことがあるから、最初のタックルを甘んじて受けるべきだと悟った。


「いい加減、タックル……いえ、抱き付くのはやめましょう?」


 軽いハグなら挨拶として浸透しているけれども、彼らの場合は激しすぎる。人前で異性に抱き付くなんていうのは、本当はいけないことなのだが、彼らの無邪気と愛嬌で周りは許してしまっている。

 しかし、愛嬌があっても、この半年で随分成長をして、初めは私の腰に頭があったが今や胸のところまである。腰に巻き付く腕も、そろそろ際どい。


「だってリリーナ先輩が好きだもん!」

「リリーナ先輩も僕らが好きでしょ?」

「……そういう問題じゃないの。女性に抱き付くのは、いけません。立派な紳士ならね」


 前世に無邪気な弟がいた私には、可愛くてしょうがないけれども、すきかどうかは関係ない。これから男性になるのだから、意識を高めてほしいのだ。

 えいっとチョップを軽く喰らわせた。

 その頭を押さえている隙に、私は歩き出す。


「廊下、走っちゃだめだからね」


 一応注意をして、図書室を目指そうとしたら。


「「それって僕らを異性って認識したってこと!?」」

「え?」

「やった!」

「ルキーに自慢してやろう!」


 きゃっきゃっとはしゃぎながら、バタバタと廊下を去っていく二人をポッカーンと見送った。


「ま、いいっか」


 よくわからないけれど、いいや。

 私は勉強をしに図書室に向かった。



 

20180306

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