プロローグ1
窓ひとつ無い閉鎖された空間に小さな影が一つ。
その影は机の上に置かれている燭台に薄く照らされていた。
焦げたローブを見に纏い、フードの下から白く穢れのない肌と薄い朱の色を落した唇が燭台に照らされ艶かしい。
生地の厚いローブで体の凹凸が分からない上にフードで顔が覆われているため小さい影の性別は分からないが、僅かに除く肌には確かな色気があった。
火の光で橙色に染まっている薄暗い部屋に忽然と淡い青の光が混ざる。
その青の光が発生したのはローブを纏った小さい影の掌の一寸先だ。
青の光は不定形で炎のように小さい影の手元でゆらゆらと揺れている。
「我は大地に遍く祈りを捧げる『自然創造-毒花パラライサー』」
閉鎖された空間に似つかわしくない鈴を鳴らしたような声が小さい影から発せられる。
変化はそれを境に起こった。
発光が強くなった青の光が小さい影の手元と閉鎖された空間を今まで以上に強く照らし、小さな影の手元にある青の光は不定形だったものを一つの形にするために変化する。
光が小さくなり、それに伴い青い光に照らされる閉鎖された空間の青の色彩の鮮やかさが失われる。
やがて小さい影の手元に発生していた青の光は消え、閉鎖された空間の色彩は燭台の火に照らされた橙色になり落ち着きを取り戻した。
青い光が消えた小さい影の手には一輪の花が乗っている。それは薔薇のような花で茎に棘がある。
普通の薔薇と違っているのは花弁が自然な色ではない鮮やか過ぎる青をしていることだ。
小さい影は机の花瓶に青い薔薇をさすと、部屋の隅にある棚-一目見ただけでは用途が分からない特徴的な形をした様々な器具と容器が並んでいる-から一つの器具と容器を取り出した。
小さい影は机に器具を設置し燭台を器具の下に置くと、花瓶から青い薔薇を取り出し、燭台の火で燃やした。
青い薔薇は燃やした瞬間に甲高い悲鳴のような音を鳴らし、色を失い無色透明になる。
色を失った青い薔薇は、ガラスが割れるようにパキパキと花弁が砕かれ机の上に落ちた。
青い花弁は色を失うと同時に、空中に明暗する青い星のような明るい輝きを発生させる。
青い光は燭台の上の器具の一部分、円錐状の部分に吸い込み、その上に設置された試験管のような容器に溜めた。
小さな影は青い光が消えずに容器に収まっているのを確認すると、燃えなかった青い薔薇の茎を机に置き、器具に設置した試験管を外し栓をする。
その作業の際に漏れてしまった青い光は閉鎖された空間の天井に留まり、薄暗い部屋の中で本物の星のように輝いた。
小さい影は栓をした青いな光が入っている試験管を片手に握って、何も持っていないもう片方の手を試験管を持つ手にかざした。
「『風水魔術-凍結』」
再び小さい影から閉鎖された空間に似つかわしくない鈴を鳴らした声が発せられると、小さな影の手に握られている試験管にかざしている掌から一瞬だけ青い光が発生し、閉鎖された空間の温度が僅かに下がる。
小さい影の試験管の中は青い光は消え、代わりに試験管の五分の一にも満たない青く澄んだ透明の液体に変化していた。
小さい影は握られた試験管を親指と人差し指の間で摘み、燭台にかざして試験管を照らし中身を確認すると、満足気に唇の形を弧に曲げた。