1日目(1)
気味の悪い熱に襲われていた。
窓の外に広がる闇を眺めることもせず、永遠と続くかのような気だるさを抱え、夜になった今になっても、未だなにをするでもなくベットに横たわっている。
それを思うと僕は申し訳なくなってしまう。本来なら今ごろはバイトに出ている時間帯だ。なのに僕はバイト仲間に迷惑をかける形で風邪に伏している。負け伏せて惨めに寝ているのだ。
「情けねぇ」
本当に情けない。
こんな風邪ひとつでこうまで体力を奪われ寝ることでしかそれを回復できないこの身体がとても情けない。そしてそれを受け入れている自分自身もまつまたく情けない。人間に生まれたがゆえのものであったとしても僕は今そう考えることしか出来ないのだ。そうしないと罪悪感で押し潰されてしまうかもしれない。
いや、そうはならなくとも少なからず落ち込んでしまう。そうなれば余計に情けない。
しかし、こんな下らないことを思考できるのならばなぜ僕はこうして寝ているのだろう。
あぁ、眠たい。
あぁ、疲れた。
「お腹減ったなぁ」
僕はふとそう思ってしまった。
思えば僕は今日1日一度も食べ物を食べてない。通りでお腹が減るわけだ。
しかし、身体がダルい。動かそうとすると身体の節々から痛みが伝わり、一向に治る気配もない。
そのうえ、目の前があやふやになり、脳に血液も回っていないような感覚に陥る。気を抜くとすぐに倒れてしまいそうになる。
普段はこんなになることはないのだが、今日に限って運悪く風邪を引いてしまい、そして運悪く悪化してしまったようだ。
「ツイてないなぁ」
そんなことを呟き、息を吐きながら全身に力を入れてベッドから這い出る。多少段差のあるベッドなので、まずは床に手をつく。続いて運動部のトレーニングのように手を使って歩みを進める。すると足がベッドから落ちるので、その後息を吐くと同時に立ち上がる。
くらっと眩暈がしたが、どうにか踏ん張る。暫くすると収まった。
僕の部屋は2階にあるので、本当につらいのはここからなんだが、それでもここをクリアできたのは大きい。
さて、ここでなぜ僕は立ちあがり、動こうとしているのか説明することにしよう。
ご飯食べたいから。以上。
1階にある冷蔵庫を開ければ生で食べれるものぐらいあるだろ。食べ物がなくても飲み物さえあればこちらとしては大満足なので問題ない。
結構吐きそうだが、ギリギリ耐えて階段を降りる。
一歩進む毎に倒れそうになり、階段の壁に取り付けられた手すりを掴みながら降りるその行為はいつもとは違い、疲労が伴った。
階段を降りきるとどっと汗が出た。僕の新陳代謝はこんなによかったのだろうか。まぁ、いい。
階段を降りた先にある広間の向かって左側のドアを開く。
その先は独り暮らしにしては無駄に大きすぎる居間があり、そこの端にあるキッチンの冷蔵庫。それを開く。
なにかあるだろう、なにかあるだろうと思いながら開くが、そこにあったのはチョコとコーヒーだけ。
それ以外はなにもなかった。
「な、なんだこれ」
絶望である。
そう言えば昨日朝食ですべて食べてしまっていた。
僕の食欲が恨めしい。
「コンビニ行くか」
コンビニは比較的近くにあるので、この体でもギリギリ行けるかもしれない。
問題があるとすれば金があるかどうか。ってことだけだ。
「たしか、テーブルに……」
あった。
居間にある低めのテーブルの上に適当に放ってあった財布である。
中を確認すると1000円札が5枚。
これだけあれば足りなくなることはないだろう。
洋服は、問題ないだろう。誰に会うわけでもない。ひとりでコンビニへ行くだけなのだから適当に上着でも羽織って行けば誤魔化しは効くはずだ。
靴を履き、出る。
外は夜。月だけが照明の役割を果たし、僕の視界を唯一ハッキリと照らしてくれる。
野良猫の鳴き声を聞きながら僕は玄関の鍵を閉め、車の通らない道をひとり歩く。
街灯は点滅していた。
企画本格始動です。