優しき男の子の悲しき運命
男の子が、なぜか苦しそうにしています。
「おじさん、ぼくのことわかる?ぜぇぜぇぜぇぜぇ」
「ん、ガキか。おまえ、何処から入った。ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
おじさんは、ぼくのことを忘れてしまったようです。
あんなに、ぼくのことを大切にしてくれたのに。
ぼくは、水の中だったけど。
ああ、なんだかとても苦しい。
私の名前は、落合 恵子。
明日私は、裏野ドリームランドに友達と遊びに行く。
ドリームランドは、私のお気に入りだ。
家から近く、遊具も充実しているので、わざわざ遠くのランドに行く必要なんかない。
私の周りの人間は、皆そうだった。
なのに、急に閉園することになった。
実は、今日も私は一人で遊びに行っていた。
閉園するというのは、今日ドリームランドで知ったのだ。
だから、わたしはみんなにメールを送った。
『明後日、ランド閉園』
みんな、最初は疑っていたが、掲示板を見て納得した。
私は、一人でも遊びに行くつもりだったけど、みんなも最後のランドに行くといった。
みんな、ランドでの最後の思い出が欲しいのだろう。
わたしたちは、早くランドに入るために、開園の一時間前、七時半にランドに着いた。
「な、なにこれ」
「うそ」
そこには、百人以上の列が出来ていた。
「やっぱり人気あるよね」
「うん、なんで閉園しちゃうんだろう」
ホントになんでだよ。私のお気に入りが一つ減っちゃうよ。
『やめるな!閉園反対』って、デモでも起こしてやりたい気分ですよ。
そして、開園の時間になりました。
このランドは、山を丸ごとランドにしているため、どの遊具も景色は抜群です。
これも、人気の一つの理由です。
わたしは、お城から見える夜景と、観覧車から見える海に沈む夕日が好きです。
あ~あ、これが見納めになるなんて・・・
だめだめ、今は、思い切り楽しまないと。
「よし、みんないくよ~」
「お~!」
「まずは、絶叫ものを制覇するぞ~」
「お~!」
3時間後、
「ちょっと、休憩しない。ぜえぜえぜえぜえ」
「そ、そうね。それがいいわね」
私たちは、それなりに絶叫ものには強いつもりでいました。
でも、ここのやつは別物です。
こんなこともあったけれど、私たちは最後のランドを満喫しました。
そして、閉園も近くなったので、お城からの夜景を見ることにしました。
最後の夜景を楽しんでいると、私の袖を誰かが引っ張ります。
そこには、小学1、2年の男の子がいました。
「なに、君迷子になっちゃったの?」
「ううん、ちがうよ。お姉ちゃんにお願いがあるんだ」
「おねがい?」
「うん、此処が終わっても、出ないでほしいんだ」
「そんなことしたら、私出られなくなっちゃうよ」
「それはだいじょうぶ。しんぱいしなくていいよ」
「ほんとに?」
「うん」
私は、みんなにこのことを話しました。
始めはどうしようかと、みんな迷っていましたが、男の子があまりにもかわいかったので、男の子の言う通りにしてあげようということになりました。
それに、誰もいなくなったランドにも興味があったので・・・
「それで、なにをしたらいいの?」
「あとで、話すよ。今は、夜景を楽しんでよ。あとで迎えに行くから」
「わかった。お城の近くにかくれてるよ」
「うん」
男の子のほうを見ると、気が付かなかったけど、伏し目がちな女の子がいました。
閉園の時間が来ると、私たちは植木の後ろに隠れて男の子を待ちました。
「まだかなぁ」
「まだ、5分も経ってないよ」
気の早い友達がそんなことを言ったりしていると、15分ほどしてから男の子が現れました。
「それで、何をしたらいいのかな?」
「三木っていうおじさんの、住所が知りたいんだ」
「そんなの、私たちじゃ無理だよ」
「だいじょうぶ。名簿があるはずだから。そこに、住所が載ってるはずだから」
「でも、名簿があるところに入るなら、鍵もいるじゃない。無理だよ」
「だいじょうぶ。鍵は開いてるから」
「そうなの?」
「うん」
私は、手回しのいい子だなぁ、と思いました。
「名簿は、どこにあるの?」
「事務所だよ。あんないするよ」
私たちは、男の子の後をついて行きました。
「なんで、住所なんか知りたいの?」
いままで、なんで疑問に思わなかったのかわからないけれど、私は男の子に聞いてみました。
「もう、明日になったら逢えないでしょ。だから、お世話になったからお礼をぼくは、言いたいだけなんだ」
「そうなんだ」
ちょっと、引っかかるところはあったけれど、私はそれ以上聞きませんでした。
10分ほど歩くと、事務所に着きました。
「このへやだよ」
男の子の言う通り、鍵は開いていました。
部屋の中には、月明かりがさしていて、くらいところに目が慣れていたので、十分な明かりでした。
名簿は、すぐに見つかりました。
「えっとね。〇〇市〇〇町だから、電車で駅3つ向こうで、駅から歩いて20分ほどのところかな」
「そうなんだ、ありがとう」
男の子が礼を言う後ろで、女の子が頭を下げていました。
それを見た私は、なぜか背筋に寒いものを感じました。
私は、そのあとのことを考えていませんでした。
「あっ、どうしよう」
「どうしたの、恵子」
「どうやって、此処から出ていこう」
「あ~っ!」
みんなも、考えてなかったらしく、私は焦りました。
「大丈夫。ぼくについてきて」
ホントに手回しのいい子だなぁ。
わたしたちより、よっぽど賢いや。
男の子は、私たちすら知らない、裏口に案内してくれました。
「ここからでたらいいよ」
「うん、わかった」
わたしたちは、裏口から出ていきました。
でも、男の子と女の子は、中に入ったままでした。
「どうしたの?出てこないの」
「うん、ぼくたちここでお世話になってるから」
「そうなの?」
「うん、そう。だからいいんだ。お姉ちゃん達ありがとね」
「ううん、私たちも最後に面白い体験ができたよ。ありがとね」
こうして私たちは、男の子と女の子と別れました。
「博士、もう1週間です。今までで、最高記録ですね。おめでとうございます」
「ああ、やっと、ここまできたな」
「はい」
「最初は、失敗の連続だったな」
ぼくは、おかあさんに捨てられた。
おかあさんは、『ここでちょっとだけまっっててね』と言ったけど、ぼくは知ってる。
もうおかあさんは、もどってこないことを。
おとうさんが、いなくなってからおかあさんは、何時も泣いていた。
そして、おとうさんがいなくなって、怒りっぽくなった。
でも、ぼくはおかあさんがだいすきだ。ぼくをたたいて機嫌が直るならぼくはそれでいい。
ぼくを叩いた後は、とてもやさしいおかあさんにもどるから。
でも、おかあさんも疲れたんだと思う。
ぼくを叩いて泣いて、おとうさんを思いだして泣いて。
泣いてばかりじゃ、ぼくだって疲れるから。
ぼくは、ドリームランドをうろうろしていた。
すると、おじさんがやってきてぼくに声をかけた。
「どうした、迷子になったのかい?」
「ううん、ちがうよ」
ぼくは、おじさんに全部話した。
ぜったいに、だれにも言わないって約束してくれたから。
するとおじさんは、笑って言ってくれた。
「そうか、だったらここにいてもいいぞ」
「ほんとに?」
「ああ、きょうからここがお前の家だ」
ぼくは、優しくしてもらいうれしかった。
それからは、ドリームランドの中の食べ物はただで食べられた。
もううれしすぎて、アイスを食べすぎておなかをこわしたこともあったけど。
3ヶ月ほどしたころ、ぼくはおじさんにアクアツアーに連れてこられた。
アクアツアー水槽の中には、魚がたくさんおよいでいた。
鉄の扉を開けたところには、もうひとつ水槽があって面白い魚がいっぱいいた。
泳ぎにくそうにしていたけど。
だって、胸のひれが人の手のひらになっていたから。
ほかにも、足が生えた魚や、サメのしっぽの女の子がいたんだ。
裸だったから、ぼく、すこしはずかしかったよ。
「ここの下だよ。おいで」
「うん」
そこには、実験室みたいなところがあって、ちょっとカッコよかったな。
「さあ、これを飲んで」
「うん」
ぼくは、それをのんだよ。
とても、あまくておいしかった。
けど、なんか眠くなっちゃったよ。
ぜんぶ、のみたかったなぁ。
こんどおきたら、ぼくは水槽の中にいたよ。
でも、くるしくないんだ。
ふしぎ。
ぼく、およぐのとてもへただったのに。
「お~い。ごはんだぞ」
あっごはんだ。
きょうは、なにかな~
ざぱ~ん
「きょうは、なに?」
「カレーだ。好きだろ」
「うん」
「それにしても、泳ぎがうまくなったな」
「えへへ」
サメのしっぽの女の子は、ぼくがきてしばらくしたら、死んじゃった。
いまは、ぼくのあたまのなかにいるみたい。
「まだ生きているな」
「ええ、成功ですね」
「もう、データはとった。そろそろ引き払うか」
「いつでもいけますよ」
「なら、来週だ」
「わかりました」
『きみ、あの男に懐いてるようだけど、あなた殺されるわよ。あいつ殺してもいい?』
ああ~、やっぱり。
たのしいことは、続かないなぁ。
それじゃ、ごはんをもってこなくなったら、今までありがとうってお礼をするから、そのあとはすきにしてもいいよ。
『わかった。あの、気違いどもを殺すのはそれまで待つことにする』
そして、ドリームランド最後の日は、食事をもってこなかった。
『それじゃ、まず、あの博士を殺してくるわね』
実験室に、女の子は現れた。
そして、実験台の上には博士がロープで縛られていた。
「ん~っ、ん~っ」
猿轡をされた博士は、声を出せない。
「なに、そんなにうれしいの。これから、もっとうれしくなることしてあげる。それじゃまずは、そうだ、確か手首から先が魚につけられた子がいたわね。まずは、手首を切ってあげる」
女の子は、はかせを切り刻もうとしたがやめた。
「死んじゃったら仕方ないもんね。まずは、歯を抜いてあげる。虫歯があるかもでしょ。感謝しなさいよ」
女の子は、歯を抜き、爪をはぎ、指を切り落とす。
気を失うと。
起こして、やり直す。
そうやって、とうとう切り刻んでしまった。
「すこしだけ、気が晴れたわ」
そして、おじさんが来るのを待ったが、いつまでたってもこない。
事務所の名簿を見たが、何が書いてあるのかわからない。
男の子も、女の子もこの姿になってから、字というものがわからなくなってきていた。
だから、女の子は誰かに無理やり乗り移ってなんとかしようとしたが、男の子が自分に任せてというので、任せてみた。
だめなら、乗り移ればいいだけだから。
男の子は、うまくやってみせた。
『それじゃいくわよ』
「うん」
殺人事件があった。
意味の分からない殺人だった。
狂人がやったものだと誰もが思った。
男は、耳に何かを突っ込まれ、出てきた何かを無理やり口に運ばれたようだった。
それは、両腕を肩から切り落とし、やかんから腕が生えたように、ガムテープで止められていた。
そしてその横には、男の子が死んでいた。
その男の子は、普通の男の子、いや、人間じゃなかった。
男の子には、えらがあったからだ。
「これは、どう報告する」
「さあ、ありのままを報告しても信じてもらえるかどうか・・・」
「ああ、報道陣には絶対に知られてはいかんな。我々じゃ判断が出来ん」
「このえらが本当に機能してたなら、死因は呼吸困難による窒息だな。判断できるのはこのくらいか」
恵子が、このことを知るのは、夕方のニュースになる。
「えっ、これってまさか?」
薄情で気が狂った男は、博士よりも酷いことをされました。どんなことでしょう。




