09 幕間三 夜
辺りが暗くなるとジンとノアは仕事を終えて、替わりに夜のバイトが入る。今夜のシフトは御風アルバと鈴原リンの二人。長身でメガネが印象的なクールビューティーのアルバと小柄で陶器のような白い肌が印象的なゴシックロリータのリンは、エリスを含めてEin Bruchの残念三姉妹と呼ばれている。
「おはようございます。」
二人がそろって入ってくるとまるで店の中が舞台のように華やぐ。ただし会話が始まるまでだが。
「エリスさん、今日もノアちゃん、かわいかったですよ。」
「更衣室で会ったのね、アルバさん。いつも言うようだけど手を出してはだめよ。」
「もちろん、ほお擦りするだけで済ませました。」
「ムキー、私は今日してないのに。ずるい。」
「いやー、あの無垢な目を見ているとつい。」
「そこは同意。あ、リン、他人の振りしない。」
二人から距離を置いてテーブルを拭いていたリンにエリスが声をかける。
「いえ、他人ですし。それにお二方と一緒にされるのはちょっと。」
あくまで変態二人とは違うと主張するリン。
「リン、私はカワイイものが好きなだけよ。」
「私もそうですよ。だからノアちゃんとか中学生みたいな感じがしてカワイイと感じているだけですよ。」
アルバの言い訳にリンがうっかり乗ってしまう。
「ほんとですか。あ、でもアルバさん、前にノアちゃんが中学生の時の写真を持っていたので見せてもらいましたよ。」
アルバのメガネが一瞬光る。
「どうでした中学時代のノアちゃんは。」
「それがもう可愛くて。」
リンの告白にエリスとアルバは目を交わす。
「そうでした。リンさんのストライクは14歳ですよね。」
「そんな少女に反応するとは。このロリリン。」
二人がかりの攻撃にリンは反撃する。
「いや、わ、私が言いたいのは少女から大人になる時期は美しいと言うことで。それにアルバさんやエリスさんなんか、もっと小さい子とか言ってましたよね。」
「あれーーそうだったかなー。」
アヒル口で首をかしげるエリス。
「私についてはその通り。」
ドヤ顔で胸をはるアルバ。
キッチンにいたレイラは三姉妹の会話の聞きながら呟いた。
「だめだこいつら。早くなんとかしないと。」
こうして夜の部がスタートした。
「夜といえば、ゾンビ」
エリスが相変わらずゾンビネタをだす。
「ではなく、ダンピール。吸血鬼の時間ですよ。」
リンが応戦して吸血鬼ネタに軌道修正する。
「幼女の吸血鬼とか萌えますね。」
アルバがネタではない何かを発言する。
この三人がそろうと三すくみとなり、話がまとまらない。
「ダンピールなんて弱点だらけの貧血野郎です。」
「ゾンビこそ腹をすかせて歩き回るだけじゃないですか。」
「幼女のゾンビなら噛まれても痛くないかも。」
交わらない三人に見かねたレイラが口を挟む。
「もう少し譲歩できる話題にすれば。」
三人が顔を合わせる。
「じゃあ、レイラさんの黒歴史でも。」
「なんで、そうなるのよ。」
レイラは思わずキッチンから顔をだす。
「でもレイラさんの十代前半って、すごい美少女ですよね。」
リンがエリスに振る。
「というか是非、七歳ぐらいの時の写真を見てみたいですね。」
アルバがエリスに振る。
「そんな君たちのためにとっておきのが。」
悪乗りしてエリスが悪い顔しながらポケットから一冊の手帳を取り出す。
「ここにあるのはエリス秘蔵のコレクション。」
「おおー。」
リンとアルバがどよめく。もちろんお客様はいるのだが、そんなことはお構いなしだ。むしろ一部の常連は身を乗り出した話題に食いついてくる。
「なんですかそれは。」
レイラが冷静を装いながら話を聞かないふりをする。
「ふ、ふ、ふ。とある魔女のプライベート写真集。ポロリもあるよ。」
「おーーー。」
歓声とともに異様に盛り上がる周囲。
「発禁!!」
いつの間にかエリスの背後に回ったレイラは、エリスの頭に一撃を食らわすと手帳を取り上げる。
「いったーーーい。」
涙目のエリスと意気消沈する周囲、しかし異議を申し立てる者はいない。
「まったく油断も隙も。」
レイラは取り上げた手帳を確認すると、はみ出している一枚の写真に気が付く。
「これって。」
写真を戻そうと開いたページを見てレイラは少し驚いた。そこには昔の自分がいたからだ。白いカーディガンに黒いチェニックにこげ茶のロングスカート女性。
「うわっふ。」
リンの驚きの声に気が付き写真を隠すレイラ。
「え、どうしたのリンさん。」
「すごい究極美少女がいた。」
「え、なにそのアルティメット。見せてください。」
興奮するリンとアルバ。なぜかドヤ顔のエリス。
「その生レイラを見たのは私だけなのさ。」
「ずるいですエリスさん。」
「そうです。我々にも権利があるはずだ。」
彼女達の抗議を受けても余裕を保つエリスを見ながら、レイラは思い出す。
エリスとの出会いを。
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体及び名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。