05 幕間二 昼下がり
ランチの時間が終わると店は一段落する。
レイラがジンとノアの二人に食事を与えている間に、店の番をするエリスは常連Cと話をしていた。
「二次元に入る方法が知りたい。」
溜息交じりにエリスが言う。
「まあ、ドラえもんでも呼ばないと無理じゃないですか。」
エリスが唐突に突拍子もない事を言うのはこの店の名物で、何より六十八パーセント以上は本気だという事実がある。
「いつでも、心構えはできているのに。」
エリスの前向きか後向きか判らない発言に他の客たちはいつも通り生暖かい目で見守る。
「帰ってこれないかもしれませんよ。」
常連Cの忠告もエリスにしてみれば想定内だった。
「むしろ、その中で一生を終えたい。最後にはお婆さんになってエンディングを迎えても我が生涯に悔い無し。」
決意も新たにエリスが宣言すると常連Cは何かに気が付く。
「でも、二次元の中に入ればその若さのままでいれるのでは。なんせ絵だし。」
「はっ、そうよ、永遠の若さが手に入る二次元への道。」
新発見の嬉しさにテンションが上がるエリス。
「でも、エリスさん、その件で最大の問題があります。」
「え、なんですか。」
常連Cは深刻な顔をする。
「どの、漫画やアニメの二次元に行くつもりですか。」
エリスは虚を突かれたかのように顔が惚ける。
「あの漫画かあのアニメかあの小説家か。入れるのは一つ。」
常連Cがまるで司会者のように選択をエリスに迫る。
「それは、あれが、でも、あっちも。」
悩むエリスにタイムリミットを告げる司会者Cと生暖かい目で見守るオーディエンス。
「では答えを。」
「二次元に不可能は無い、ならば全キャラが登場するクロスオーバー作品を作るのよ。」
「なんだってー。」
「さすがエリスさん。」
開眼したエリスに、のけ反る常連Cと生暖かい目で納得する客たち。
「ほんと、よくわからない人たち。」
レイラは相変わらずよくわからないノリでオチがつく座談会を、半分呆れながら聞いていた。
「まえにイギリスで「町がゾンビに襲われたらどうするのか?」って質問をお役所に出したら、お役所の人がきちんと答えたという話があったじゃないですか。」
料理の配膳が一段落すると、また唐突にエリスが常連Dにゾンビネタを振る。
「あー、イギリスのゾンビ好きの団体がやったんですよね。」
常連Dは知っていたようで、それを聞いたエリスが急に真顔になる。
「だから私も聞いてみようと思ったんですよ。でもどこに聞けば良いのでしょう。」
常連Cは少し笑いながら答える。
「やはり都庁じゃないですかね。あー無視されそうですけど。」
エリスは思案したようだ。
「じゃあゾンビのかっこして都庁まで行進すればいいのかな。そうしたら聞いてくれるかも。」
常連Dは冗談めかして答える。
「そのまま機動隊対ゾンビ軍団の戦いになりますよ。」
なぜかその言葉に反応してエリスは力強く訴える。
「権力の横暴には負けませんわよ!」
今日のエリスさんは一味違う。いや、いつも通りだ。
常連Dがそう考えていると、レイラが現れて盛り上がるエリスに水を差す。
「ゾンビからみんなを守るのが警察の役目でしょ。」
常連Dも同意する。
「まあゾンビは悪者だし。」
懲りずにエリスがのたまう。
「なら、私がゾンビのための人権を勝ち取るわ!」
エリスの決意をレイラが一言で落とす。
「ゾンビに人権はないでしょ。死体だし。」
常連Dも同意する。
「そりゃそうだ。」
完全敗北のエリス。
「うーレイラさんが意地悪だー。」
エリスは泣きまねをしながらキッチンに引っ込む。
「でも、二次元に人権とか言っちゃたりする人もいますしね。」
常連Dが適当にフォローを入れるとまたエリスが息を吹き返した。
「そうです。ゾンビにも愛を!って、あれ?」
「どうしたんですか、エリスさん。」
レイラは急に考え込み始めたエリスに声をかける。仕事しろ、と続けるところだが意外に真面目な表情で悩むエリスを見て、レイラは後の言葉を引っ込める。
「昔、同じ事を言った記憶が。」
エリスは少し昔のことを思い出し始めた。
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体及び名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。