00 プロローグ
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体及び名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
レイラの朝は遅い。
いつもの夜更かしが原因だ。そんなレイラの朝の目覚めは、同居人の大声で始まる。
「レイラさーん。」
いや、始まらない。眠い。昨日は色々あって眠い。そんなレイラの状態とは関係なしに、声の大きな同居人がもう一度呼びかける。
「レイラさーん、朝ですよ。」
「ひゃっ。」
レイラは叫ぶと同時に反射的に足を縮める。悪戯好きの同居人がレイラの足の裏を、自身の髪の毛の先でコチョばしたのだ。
「その起こし方はやめてといっているでしょ。」
レイラは眠気と布団の両方を吹っ飛ばして、長髪の同居人に叫ぶ。
「怒った顔もすてきだぜ。」
決め顔でうそぶく大きな目の同居人の姿を見て、レイラはため息をつくと諦めて起きることにした。
レイラの一日はこうして始まる。
「レイラさん、今朝はどうします。」
「パンで。」
レイラの朝食はパンが多い。もちろん和食もありだか、自分でパンを焼くようになってから朝はほとんどパンになった。長身の同居人はせっせと準備する・・わけでなくテーブルの前でレイラが作る朝食を、子供さながら「わくわく」と声までだしながら待っている。
いや、子供でも「わくわく」なんて言わないが。
そんなことを考えながらレイラは色白の同居人のためにスープとスクランブルエッグを準備する。
「いただきまーす。」
「はい、いただきます。」
「美味しい。」
「ありがとう。」
「レイラさんと結婚してよかった。」
「新婚の旦那気分ですか。」
「私が男なら絶対離さない。」
「はいはい。」
「このまま結婚しようか。」
「私は遠慮する。」
「あの時のことは嘘だったの!」
「同居する前に合意した家事の話?」
「いえ、なんでもありません。」
毎朝のたわいも無い会話と食事が終ると、レイラは後片付けを始める。
「レイラさん、お店の準備で先に行くね。」
少し舌っ足らずな同居人はトートバックを肩にかけ、レイラに声をかけてから玄関に向かう。
「あ、ちょっとまってね。」
レイラは玄関で靴を履いている黒髪の同居人を呼び止め、その額に人差し指をあて呟く。
「はい、お仕舞い。」
そう声をかけると、レイラは手を挙げていってらっしゃいの仕種をする。
「行ってきます。」
髪をなびかせて細い手の同居人は大きく手を振りながら笑顔で出て行った。レイラは愛すべきそして厄介な同居人を見送ると、表情を変える。
「いつも通りに。」
そう呟くとそのまま部屋に戻る。
レイラの朝は忙しい。