無題
ボタンを押す手が止まる。いや、止まるというのはちょっと違うな。俺が止めたんだ。何かおかしいから、これ以上、先に進んじゃいけないから。本当に押すべきかという良心が、手を止めたのだ。
しかし、これを押さなければ先にはいけない。自分だって見たかったじゃないか。これを押せば、お前は未開の地へ飛び出すことができるんだよ? 知らないという欲求を満たす事ができるんだよ?
いや、いやいや。いやいやいや、ダメだ。ダメだダメだダメだ! 確かに、確かにこれを押せばいい。けど、押しちゃいけない。押したら後にはひけない。そうだろう? そうだ、友達からもらったこのケースを見てみろ! もう一度ちゃんと見てみろ! 俺はこれを押しちゃいけない人間なんだって。そう、ここにも書いてあるじゃないか。冷静になれ、俺はそんな事も分からないのか?
きっと、俺とはシチュエーションが全く違うが、浦島太郎もこんな気持ちだったんだろうな。「絶対、開けないでくださいね」とか言われたらなあ。しかも、めちゃくちゃ可愛いお姫様に言われたらさ。開きたい。でも、開けない。だって、あんなに可愛いお姫様と約束したんだぜ? うん、浦島先輩、貴方の気持ちはよーく分かります。よーく分かるぜ。
うーん、いろいろ考えててもしょうがない。そもそも俺は、何のために友達からこれを借りたんだ? 「し、仕方なくだぞ、仕方なく」とか友達の前で、頼みだからよしみでって事か? 「俺、アウトローだから。悪りぃと分かってたら余計やりたいんだよ」ってクダを巻いたからか? 違うな、言い訳なんざどうでもいいんだよ。俺自身、この先に興味があったんだ! そうだ、そうだよ。俺は、このボタンを押したいんだ!
ふ、ふふっ。そう考えると気持ちがだいぶ楽になった。スゲー肩の荷が下りたわ。ホント、なんであんなに悩んでたんだろう。俺ってしょーもな。
さて、そうと決まれば早いもんだ。母ちゃんと妹はちょうどいない。父ちゃんは出張だから暫く帰ってこない。今だ、今しかねぇ。チャンスは今でしょ! じゃあ、やるよ? やっちゃうよ? やるよ! 「ピッ!」はい、ボタン押しました。うっし! もう後には戻れませーん。ま、いいじゃんか。見たかったんだし。
あれこれ考えボタンを押した後、手元に置いた友人からの借り物を見た。そこには、俺みたいなやつが使うんじゃねぇと淡々と書かれていた。友人の中にはそれをして「世界が変わった」と言った。また、ある人は「こんな世界もあったのだ」と言った。友人らのそんな言葉がゆらめいたが、俺はすぐに視線を戻した。友人の言葉に絆されたからじゃない。たとえ禁忌を犯してでも、家族に隠れてでも見たかったものが、今から始まるのだ!
そう、「十八禁! 女海賊パイレーツ」が!
期待に添えなければすみません。期待以上ならありがとうございます。どちらでもなければ精進します。なお、感想や批評いただければ、厳しいのも含めて、明日の糧として頑張れます。