第五話 お泊まりしに来たよ♪
六月二十四日、月曜日。
期末テストまであとちょうど一週間に迫ったものの、晴一は朋哉と秀修と本屋などに寄り道してしまい夕方六時過ぎに帰宅した。自室に足を踏み入れるや否や、
「Ｍａｓ・ハルカズ、Ｍｂａｋ・クスコがチラシから取り出した新作ゲームやろうぜ」
「晴一お兄ちゃん、このゲームでいっしょに対戦しよう」
セルバとテラロッサが懐いてくる。
「こらこら、晴一君は期末テストが間近に迫ってるのよ。あまり邪魔しないようにしましょうね」
「ハルカズくん、期末テスト頑張って。今日からテスト終了日まではワタシ、ハルカズくんにプレイを求めるのは控えるようにするよ」
「晴一さん、テスト勉強の邪魔になるようならば、ミナ達はイラストに戻っておきますね」
「普段通りにしてくれていいよ。みんながいる方が部屋が快適な環境になって、勉強が捗るし」
「そう言ってもらえてミナはなまら嬉しいです♪」
フィヨルドが微笑み顔でこう言った直後、
ピンポーン♪
いつもの朝のように玄関チャイムが聞こえて来た。
「晴一くん、おば様。こんばんはー」
雪穂がやって来たのだ。
やっぱり来たかぁー。
晴一は気まずい気分に陥る。
テスト直前になると雪穂は毎回のように、テスト範囲の重要ポイントなどを教えに来てくれるのだ。中学一年一学期中間テストの頃から続けている雪穂の習慣となっている。
「晴一ぅ、雪穂ちゃんが来てくれたわよーっ。下りてらっしゃーい」
「はいはい」
母に叫ばれ、晴一は部屋から出た。階段を下り、玄関先へと向かっていく。
「晴一くん、今日は私、お泊りするね」
「えっ！！」
雪穂からの突然の発言に、晴一は目を大きく見開く。
「晴一、よかったわね。今夜は雪穂ちゃんがお勉強、付きっ切りで指導してくれるって」
母はにこやかな表情で伝えた。
「晴一くん、今夜はよろしくね♪ 外泊許可は播本先生に取って来たよ」
「べっ、べつに、そこまでしてくれなくても……」
晴一は困惑する。
「だって私、久し振りに晴一くんちでお泊りしたくなったんだもん。この間、英語の授業でパジャマパーティが出て来たでしょ、私もやりたいなぁって思ったの」
雪穂は満面の笑みを浮かべながら言う。大きめのトートバッグも手に持っていて泊まる気満々な様子だった。
「そんな理由かぁ。泊まるのはやめて欲しいんだけど」
晴一は納得出来たが、やはり動揺していた。
「雪穂ちゃん、自分のおウチのようにくつろいでね」
母は温かく歓迎した。
「はい！ お世話になりまーす。英語で言うとメイクユアセルフアットホームですね。晴一くん、あの気候さんのイラストもう一回見せてね」
雪穂は靴を脱いで廊下に上がると嬉しそうに階段を駆け上がり、晴一の自室へ向かっていった。
「あっ、ちょっと待って、雪穂ちゃん」
晴一は大声で叫ぶも雪穂は聞く耳持たず、晴一の自室に入ってしまった。
これも毎度のことなのだ。
「どうしたの？ 晴一。今回はやけに慌てて。晴一が持ってるオタクっぽい物、今さら見られたってなんともないでしょ？」
母はにやにやしながら尋ねて来た。
「確かにそうだけど……」
晴一はそう答えて、急いで二階へ駆け上がった。
自室の扉を開けると、
「私、どのキャラも好きだけど熱帯のセルバちゃんが特にお気に入りだよ。妹に欲しいな」
雪穂はセルバのイラスト小冊子、椰子の木に登っている場面が描かれたページを楽しそうに眺めていた。
よかったぁ。あの子達の姿は、見られてない。
晴一はホッと一安心したものの、
あの子達、飛び出して来ないだろうな？
すぐにこんな心配がよぎってくる。
「じゃ、いっしょにテスト勉強始めよう」
「わっ、分かった」
晴一が椅子に座ると、
「晴一くん、もう少し詰めてね」
椅子の僅かなスペースに、雪穂も座ってこようとして来た。
「あの、雪穂ちゃん。そんなに引っ付かなくても」
「でも、落ちそうだし。じゃあベッドの上でやろう」
雪穂はそう言うと、晴一の腕をぐいっと引っ張った。
「わわわ」
晴一はベッドの上に座らされる。
「晴一くんのベッド、ふかふかー♪ 私、今夜は晴一くんと同じベッドで寝るね」
雪穂はうつ伏せなって足をパタパタさせながら言う。
「ダッ、ダメだよ」
晴一は嫌がる素振りを見せる。
「あーん、お願ぁ～い」
「でもぉ」
「晴一ぅ、雪穂ちゃん。夕飯が出来たわよーっ！」
気まずい雰囲気を打ち消すかのように、一階から母に叫ばれた。
こうして二人はキッチンへ。
「今夜は雪穂ちゃんの大好物よ」
母は機嫌良さそうに伝える。晩御飯のメインメニューはハンバーグステーキだった。
「わぁっ。とっても美味しそう♪ ありがとうございます、おば様。私、貧血で倒れて以来、緑黄色野菜を日々たくさん補おうと心がけてるんです。ハンバーグは最適ですね」
雪穂は満面の笑みを浮かべる。
「晴一も未だけっこう好き嫌いが激しいのよ、ミカンとか」
「だって酸っぱいし」
「晴一くん、ビタミンＣが不足して壊血病になっちゃうよ」
「柑橘系は絶対好きになれないな」
晴一は苦笑いで主張し、椅子に座った。
「雪穂ちゃんはここに座りなさい」
母は微笑みながら、晴一の向かい側の椅子を差した。
「はい、失礼します」
雪穂は嬉しそうにその場所に座る。
そこ、母さんの席なんだけどな。
晴一はちょっぴり気まずく感じるも、ともあれ食事開始。母は普段は誰も使ってない予備の椅子に座った。
十五分ほどのち、三人が食事を終えようとしたところ、
「ただいまー」
父が帰って来た。まもなくキッチンにやってくる。
「おじゃましてます。おじ様」
「やあ雪穂ちゃん、お久し振りだね。ますますかわいらしくなって。晴一の嫁さんに最適だな」
「おじ様ったら」
雪穂は頬をほんのり赤らめた。
「何言うんだよ、父さんは」
晴一は当然のように迷惑がる。
「ハハハ」
父は上機嫌で笑いながら、スーツから普段着に着替えるためリビングへ。
「ふふふ、晴一も照れてるわよ。雪穂ちゃん、お風呂ももう沸いとるから、このあとどうぞ」
母は笑顔で伝える。
「ありがとうございます。でも、晴一くん先にどうぞ。私、夕飯のお片づけを手伝うから」
「あら悪いわね、雪穂ちゃん」
「いえいえ」
「じゃあ、俺、先に入るね」
晴一は夕食を平らげるとすぐに椅子から立ち上がり、風呂場へと向かっていった。
風呂椅子に腰掛け、髪の毛をこすっている最中、
「アロ～ハ、Ｍａｓ・ハルカズ！」
全裸のセルバが突如彼の目の前に現れた。
「あの、セルバちゃん。俺の入浴中に小さな昆虫に変身して入り込んでくるのはやめようね」
晴一は優しく注意する。こういうことが度々あり、晴一はもはや驚く様子は無かった。
「生Ｍｂａｋ・ユキホ、本当にかわいいね。ねえＭａｓ・ハルカズ、今夜はＭｂａｋ・ユキホとベッドの上でエッチなことするんでしょ？」
「……何言ってるんだよ。すっ、するわけないだろ、そんなこと」
にやにや顔で質問してくるセルバ。晴一は焦り顔で即否定した。
「Ｍａｓ・ハルカズ、つれないなぁ。普通三次元世界の男にとっての女の幼馴染っていうのは、お互い仲良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが普通なのだ。Ｍａｓ・ハルカズは三次元世界の住人のくせにラブコメマンガやエロゲー、ラノベの設定みたいに恵まれてるんだから、Ｍｂａｋ・ユキホを大切にしてあげなきゃダメだぜ」
「大切にするってそういうことじゃないだろ」
セルバの力説に、晴一が迷惑顔で反論していたその時、
「おじゃまするね、晴一くん」
浴室扉がガラガラッと開かれた。
「うわぁっ！」
「ひゃぅっ！！」
晴一とセルバはびくーっと反応する。雪穂が入って来たのだ。
「あれ？ 女の子……」
雪穂はセルバの方に視線を向けた。
その瞬間にセルバは何かの小さな昆虫に姿を変え、目にも留まらぬ速さで窓から外へ逃げていった。
「ねえ、晴一くん。さっきセルバちゃんっぽい女の子がいなかった？」
雪穂はきょとんした表情で尋ねてくる。
「きっ、きっ、気のせい、気のせいだよ」
晴一が慌てて説明すると、
「……そうだよね？ まあ、いいや。晴一くん。お背中流すよ」
雪穂はあっという間に普段の表情へと戻った。何事も無かったかのように晴一に接する。
「あっ、あの、雪穂ちゃん。せめて服を……」
晴一は雪穂から目を逸らそうとする。
雪穂はバスタオルを一枚、肩の辺りから膝の辺りにかけて巻いただけの姿だったのだ。
「昔はよくいっしょに入ってたんだし、そんなに気まずそうにしなくても。私、タオルでしっかり隠してるじゃない。晴一くんだって前しっかり隠してるでしょ。いっしょにプールに入ってるようなものだよ」
雪穂は晴一の下半身をちらっと見て、にこやかな表情で主張した。
「そういう問題じゃないって」
それでも晴一は居た堪れなく感じていた。目のやり場にも非常に困ってしまう。
＊
「どうしよう。Ｍｂａｋ・ユキホにテッポウウオが獲物を狙って捕えるくらいまでの短い間だけど姿見られちゃったよ」
晴一の自室に戻ったセルバは苦笑いで四人に報告した。
「あらら」
「セルバお姉ちゃん、間に合わなかったんだね」
カナートとテラロッサはハハッと笑う。
「その後は、何事も無かったかのように普通に接してるけど」
クスコはモニター画面に入浴中の雪穂と晴一の様子を映した。
「幸いなことに雪穂さんは、お部屋の様子を見る限りメルヘンチックなお方でしょうから、ミナ達の姿が見られても全く問題ないかもです」
フィヨルドは冷静に分析する。
「それじゃあさ……」
セルバはあることを提案した。
それから少し時間が経過した浴室内。
「晴一くん、男子の水泳は大変だよね。五〇メートル途中で足付かずに泳ぎ切らないと夏休み補習に呼ばれるみたいだし。女子の方はノルマないし、遊びみたいなものだよ。晴一くん、一学期最後の授業までに泳ぎ切れそう？」
雪穂は湯船に体育座りをしてくつろぎながら、嬉しそうに話しかけてくる。
「まあなんとか。じゃあ、俺、もう出るね」
「晴一くん、もう出るの？ 早過ぎだよ」
雪穂は困惑顔で注意した。
晴一はセルバが姿を消してからすぐに逃げ出そうとしたのだが、雪穂に捕まえられ、背中を洗われさらに湯船にも力ずくで入れられてしまったのだ。彼は嬉しいという気持ち以上に恥ずかしいという気持ちの方が遥かに凌駕していた。
「やっほー♪ 晴一。雪穂ちゃんも来てるんでしょ？」
そこへつい数分前に帰宅した晴絵もすっぽんぽんで乱入してくる。
「あのっ、晴絵ちゃん、素っ裸はダメです。気遣いが足りてないです。晴絵ちゃんにとっては幼く見えるかもしれませんが晴一くんは年頃の男の子なので、せめてタオルは巻いてあげて下さい」
「あぁんっ！ もう、雪穂ちゃん大胆ね」
雪穂は慌てて湯船から飛び出し、晴絵のおっぱいを両手でぎゅぅーっと押さえ付け壁際に押し込む。
「雪穂ちゃんも気遣い足りてないと思うけど」
晴一は困惑顔で主張しながら湯船から出て、雪穂の背後を通り過ぎ脱衣場へと逃げて行った。
「雪穂ちゃん、晴一見栄張って逃げてっちゃったし、タオル外しちゃいなよ」
「そうですね。外しちゃいます」
「おう、雪穂ちゃん、いいヌード♪ めっちゃデッサンしたい。ますます成長したね」
「晴絵ちゃん、そんなに見つめられると恥ずかしいです」
「ごめん、ごめん。おっぱい、触っていいかな？」
「それは、ちょっと……でも、私も晴絵ちゃんのおっぱいしっかり触ってしまったので、ちょっとだけなら、いいです」
「サーンキュ♪」
「ひゃぅっ！ 晴絵ちゃん、優し過ぎてかえってくすぐったいです」
「めっちゃ触り心地ええ♪ もっと欲を言えばお顔埋めて吸い付きたぁい」
「それは、さすがにダメです」
「冗談、冗談」
こんな会話が聞こえて来て、
姉ちゃん、雪穂ちゃんに猥褻行為はやめろよ。
晴一はついつい耳をそばだててしまう。罪悪感に駆られた彼は籠に置かれてあった晴絵の薄ピンク系統の下着類はもちろん、雪穂の白系統の下着類からも目を背けてバスタオルで体を拭き、急いでパジャマに着替え、リビングへやって来ると、
「あら晴一、十分くらいで出てくるなんて烏の行水ね」
母から微笑み顔で突っ込まれた。
「だって母さん、雪穂ちゃんと姉ちゃんが……」
「晴一ったら、小学四年生頃までは晴絵や雪穂ちゃんとよくいっしょに入ってたくせに」
かなり気まずそうな晴一を眺め、母はくすくすと笑う。
「大昔の話だろ」
晴一は当然のように不愉快になった。
「雪穂ちゃんが昔みたいにいっしょに入りたいって言ってたから、入ったらって言ったのよ。そしたら雪穂ちゃん嬉しそうに走っていって」
「母さん、その時引き止めてくれよぅ」
「どうして？ べつにええやない。幼馴染同士なんだし」
晴一と母とでそんな会話をしていた時、
「晴絵ちゃんともいっしょに入れて私のお風呂タイムはいつも以上に楽しめました♪」
「うちも久し振りに雪穂ちゃんと裸の付き合い出来てめっちゃ嬉しかったわ～」
雪穂と晴絵も上がってリビングへやって来た。
「俺はとても疲れたよ」
晴一はげんなりとした表情だ。
「それじゃ晴一くん、お部屋に戻ってテスト勉強の続きやろう」
「うっ、うん」
「二人とも頑張ってね」
晴絵に見送られ、晴一が前、雪穂が後ろを歩いて二階へ上がっていき、
「Ｍａｓ・ハルカズ」
「うわぉっ！」
部屋に入った瞬間、晴一は思わず仰け反った。
セルバだけでなく五人全員、小冊子から飛び出して三次元化していたのだ。
「ちょっ、ちょっと、あっ、あの」
「あらま、あのイラストにそっくりな女の子がいっぱいいるね」
慌てる晴一をよそに、雪穂は素の表情で的確に突っ込んだ。
「なまらめんこいお顔の雪穂さん、ハウスカトゥトゥストゥア。ミナは、冷帯・寒帯気候のフィヨルドです」
「あたし、温帯気候のテラロッサだよ」
「ユキホちゃん、アハラン ワ サハラン。アナイスミー、カナート。砂漠気候だよ」
「クスコ、高山気候よ」
「熱帯気候のセルバなのだ」
気候擬人化キャラ達は陽気な声で、雪穂にごく普通に自己紹介した。
「あっ、あっ、あの……」
晴一はかなり焦る。
「はじめまして、世界の気候の擬人化さん。私、延山雪穂です」
雪穂は爽やか笑顔でそう言って、ぺこんと頭を下げた。
「アタシ達は、このＭｂａｋ・ハルエ作のイラストから飛び出したのだ」
セルバはあの小冊子五冊をぴっと指差す。
「それはすごいですねぇ！」
すると雪穂は目をきらきら輝かせ、五人のすぐ側へぴょこぴょこ歩み寄る。
「ゆっ、雪穂ちゃん、この子達のこと、不思議に、思わないの？」
晴一は驚き顔で問いかけた。
「さすがにちょっとびっくりはしたよ。でも、飛び出す絵本の進化版だって考えれば、そんなに不思議には思わなかったよ」
雪穂はとても嬉しそうに言う。
「そっ、そう？」
晴一はかなりホッとした。
「紙の絵にこんな技術を組み込むなんて、晴絵ちゃんは超天才だね」
雪穂の晴絵に対する尊敬度はますます上がったようだ。
「セルバさん、雪穂さんにあのことを謝っておきなさい」
フィヨルドは困惑顔で命令する。
「うっ、うん」
「えっ！？ セルバちゃん私に何か悪いことしたっけ？」
雪穂はきょとんとなった。
「アタシ、Ｍｂａｋ・ユキホんちのお部屋に無断で忍び込んで、下着を何枚か盗みましたのだ。ミンタマーフ」
セルバは土下座姿勢になりインドネシア語で謝罪の言葉を述べた。
「なぁんだ。そんなことか。いいの、いいの、私、全然気にしてないよ」
雪穂は爽やかな表情で言う。
「テリマカシ。Ｍｂａｋ・ユキホ」
雪穂の寛容さに、セルバは再度深々と頭を下げ感謝の意を表した。
その直後に、
「雪穂ちゃん、晴一。勉強頑張ってるとこ悪いけどちょっとの時間失礼するね」
ガチャリと扉が開かれ、晴絵が入り込んで来てしまった。カナート達は目にも留まらぬ速さで小冊子内に飛び込んで晴絵の目には一切映らず。
「姉ちゃん、いつも言ってるけどノックくらいしろよ」
晴一は迷惑そうに言う。
「まあいいじゃん。うち、晴一と雪穂ちゃんのために、期末テストの主要科目予想問題集作ってあげたよ。これも活用してね」
晴絵は期末テスト予想問題集と題された冊子を手渡してくる。
「ありがとうございます！ 中間よりも良い点良い順位が取れるように頑張ります！」
雪穂は嬉しそうに受け取る。
「ありがとう。五教科九科目分あるんだな」
晴一もちょっぴり躊躇うように受け取りつつも、感謝の気持ちは感じていた。
「二人とも健闘祈ってるよ。ところで雪穂ちゃん、さっきお風呂入った時から思ってたんだけど、最近ムダ毛処理怠ってるでしょ？」
晴絵に顔を近づけられ問い詰められ、
「はい、もう一年以上はほったらかしです。去年の初プールの授業の前にお友達からわき毛と腕毛と脛毛、絶対剃った方がいいよって言われて剃刀で剃って、それ以来剃ってないな。面倒くさくって。特に気にもならなかったし」
雪穂はほんわか顔で伝える。
「ダメじゃない。そんな女子力下げるようなことしちゃ。女子高生なんだから身だしなみに気遣わなきゃ。夏は特に。こんなムダ毛塗れの状態で水泳の時スク水着てるの？ 雪穂ちゃんにお仕置きが必要ね。剃ってあげるよ」
晴絵はにやりと笑う。
「私、剃らなきゃいけないほど生えてるかなぁ？」
雪穂は苦笑いを浮かべ、自分の腕や脛を確かめてみる。
「目立つくらい生えてる生えてる。剃った方が絶対いいって。明日水泳の授業あるでしょ？」
「はい。五回目のがあります」
「ほな、剃らせて欲しいな」
「それじゃ、剃っていいよ」
「ありがとう。じゃ～ん、女子力を高める剃毛セットよ」
晴絵はピンク系花柄の可愛らしいマイポーチから除毛クリーム、刷毛、はさみ、シェーバー、毛抜き、ローションを取り出した。
「本格的ですね」
雪穂は深く感心しているようだった。
「ムダ毛は女の子の大敵だから、本格的にやらなきゃダメっしょ♪ 晴一、ちょっと今から雪穂ちゃんの恥ずかしいところのムダ毛処理するから、晴一は見ないようにしてあげてね」
「わざわざ俺の部屋でやらなくても、姉ちゃんの部屋でやればいいだろ」
晴一は意識を逸らそうと机に向かい、テスト範囲内の数学の問題を解き始める。
「悪いんだけど……晴絵ちゃんのお部屋は、落ち着かないので」
雪穂は苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに言う。
「それもそうか。確かにあの部屋は雪穂ちゃんには刺激がきつ過ぎる。姉ちゃんが大学受かって以降はますます姉クメーネ化してるし」
「うちもそう思ったから、晴一のお部屋で雪穂ちゃんに剃毛プレイすることにしたんよ。それじゃ雪穂ちゃん、下着姿になってベッドに腰掛けてね」
「はい」
晴絵からお願いされると、雪穂は躊躇なくパジャマの上下を脱いでブラとショーツの下着姿になり、晴一が使っているベッドに上がったのち体育座りの姿勢になった。
晴絵もベッドの上に上がる。
「あの、雪穂ちゃん、俺がいるのに本当に下着姿になったのかよ？」
晴一は演習問題を解きながら困惑気味に問いかける。
「うん、私、晴一くんは覗いて来ないって信用してるし」
雪穂はきっぱりと言った。
「さすが晴一、信頼されてるわね」
晴絵は感心気味に微笑み、
「雪穂ちゃん、うなじと背中から剃ってくね。ブラも取って」
こんな指示を出すと、
「分かりました」
雪穂は躊躇いなく薄ピンク色のブラを外しておっぱい丸見せに。
「じゃあ剃るよ」
晴絵は最初に雪穂のうなじから背中にかけて除毛クリームを塗り、専用の刷毛で浮かび上がった産毛を取り除いてあげる。
「あっんっ、くすぐったい」
「それは我慢してね」
「はい、すみません」
除毛後は、アフターケアのローションを塗ってもらい、雪穂はブラを付ける。
「次はおへそ周り剃るね。仰向けに寝転がって」
「はい」
雪穂は体育座りからぺたんと仰向けになった。
「じゃあ剃るね」
「んっ、気持ちいいです」
「はい、終わったよ。今度は腿毛と脛毛剃るね」
晴絵は続いて雪穂の両足に除毛クリームを塗って、薄っすら生えていた太ももの毛と脛毛を刷毛で取り除いていく。
「晴絵ちゃん、剃るの上手ですね」
「ありがとう。だてにうち、中高時代は友達から剃毛の達人って言われてへんからね。内側も剃るからうつ伏せになってね」
「はい」
雪穂は言われた通りの姿勢へ。
太ももと脛の内側のムダ毛もきれいに剃ってもらい、
「ふくらはぎ、揉んであげるね」
「ありがとう晴絵ちゃん、んっ、気持ちいい♪」
ローションを塗ってもらうさいにマッサージもしてもらい、雪穂は恍惚の表情だ。
「次はわき毛剃るよ。腕上げてね」
「はい」
再び体育座りの姿勢になったのち両手を天井に向けて伸ばした雪穂、ここも同じように剃ってもらう。
「んっ、ちょっとくすぐったい」
「雪穂ちゃん、動かないで。危ないから」
「すみません」
「はい、きれいに剃れたよ。ローション塗るね」
「ありがとうございます。んっ♪」
続いて腕毛も剃ってもらいローションを塗ってもらっている最中に、
「雪穂ちゃん、アンダーヘアもけっこう広範囲に生えてたし、ちょっとだけ剃っておこう。そのままだとビキニならはみ出ちゃう危険性大だし。ちょっとパンツずらすね」
晴絵からこんなお願いをされると、
「はい、きれいに剃れたよ。ローション塗るね」
「ありがとうございます。んっ♪」
「雪穂ちゃん、アンダーヘアもけっこう広範囲に生えてたし、ちょっとだけ剃っておこう。そのままだとビキニならはみ出ちゃう危険性大だし。ちょっとパンツずらすね」
「えっ！ そこも剃るの？」
雪穂はピクッと反応する。
「うん、その方が絶対いいよ。うちも定期的にちょっと剃ってるし」
晴絵はにっこり微笑みかけた。
「なんかそこ剃られるのは恥ずかしいな。私今までそこは剃ったことないよ」
「すぐに済ますよ」
「でも、ちょっと……」
「水着シーズンくらいは剃って、狭い範囲に薄っすら生えてる程度に整えた方がいいと思うよ」
「でっ、では、お願いしますね」
雪穂は仰向けに寝ると、照れくさがりながら緊張気味にショーツを自分で膝の辺りまでずらした。雪穂のぷりんっとしたお尻がじかに晴一の敷布団に触れる。
「それじゃ、クリーム塗るね」
晴絵は除毛クリームを塗った刷毛を、雪穂の露になった恥部に近づける。
「あっ、ちょっと待って。やっぱり剃るのはやめて。あとでチクチクして来そう」
雪穂は頬をポッと赤らめた。
「それじゃ、カットして短くしとくよ」
「それでお願いします」
「了解。ほな、カットするね」
「はい」
そんな声とチョキチョキチョキッとはさみの音がしっかり聞こえて来て、
俺はべつに雪穂ちゃんのムダ毛は全然気にならないけどな。
晴一はちょっと見てみたいと思ってしまったが、数学の演習問題に集中。
この行為はいただけねえな。熱帯雨林の破壊に通じるものがあるぜ。
もし全部剃っちゃったらユキホちゃんの恥丘は完全に砂漠化だね。
国土のほぼ全域がＣｆｂ、西岸海洋性気候なニュージーランド名物、羊さんの毛刈りショーみたいだね。
セルバとカナートとテラロッサは小冊子内からばっちり観察していた。
「はい、ムダ毛処理完了したよ」
「晴絵ちゃん、ありがとうございました」
雪穂は照れ顔でお礼を言ってショーツを元の位置に戻す。
「どういたしまして」
晴絵は嬉しそうに微笑んだ。
「晴一くん、見て。私の腕と脛、きれいになったでしょ？」
雪穂は服を着込んだあと、晴一に剃った部分を見せてあげた。
「いや、分からないな。雪穂ちゃんの肌なんか普段よく見てないし」
晴一は困惑気味に伝える。
「あらら」
雪穂はちょっぴり拍子抜けしたようだ。
「晴一、これからは雪穂ちゃんのお肌、もっとよく観察してあげて。雪穂ちゃんがムダ毛処理怠らへんように」
「べつにそんなことしなくても……」
晴一は迷惑そうに主張する。
「晴一くんにじっくり見られちゃうのはなんか恥ずかしいな」
雪穂は照れくさそうに、てへっと笑った。
「ほな二人とも、テスト勉強頑張ってね。エッチはまだ高校生なんやからしちゃダメよ」
晴絵はにやけ顔でそう言い残し、雪穂のムダ毛を包んだティッシュも持ってこの部屋から出て行った。
「邪魔だから二度と入ってくるなよ」
晴一は不愉快そうな顔でこう注意しておく。
「それじゃ、勉強再開しよっか？」
雪穂はちょっぴり頬が赤らんでいた。
「そうだね」
雪穂ちゃんのムダ毛、姉ちゃんにおい嗅いだり口に入れたりして変態行為に使わないか心配だな。実際やりかねないし。まあ俺の部屋のごみ箱に捨てられても困るんだけど。
晴一がそう思っていると、
「一応隠れておいたぜ。Ｍｂａｋ・ハルエ作者だから姿見られてもいいとは思ったけど」
「ミナも、晴絵さんにもミナ達の姿を見られてしまっても良かったのではないかとも思いました」
「あたしもそう思ったぁ」
「ワタシもだよ」
「わたくしも同意よ。途中で出ようかと思ったわ」
セルバを先頭に、他の四名も次々と小冊子から飛び出して来た。
「私も晴絵ちゃんにも見られてもいいと思う。むしろその方がいいんじゃないかな？」
「俺もそうも思うけど、とりあえず今はナイショにしておこう」
その後も気候擬人化キャラ達の姿は晴絵に見られることなく、晴一と雪穂はテスト勉強に励み、カナート達は迷惑にならないよう静かに晴一所有のマンガやラノベを読んだり、携帯型ゲームなどで遊んだりして過ごすことが出来、あっという間にまもなく日付が変わる頃になった。
「晴一お兄ちゃん、雪穂お姉ちゃん、おやすみなさーい」
「スラマッティドゥールＭａｓ・ハルカズ、Ｍｂａｋ・ユキホ。二人で最暖月のジャカルタのように熱い夜を楽しんでね」
「ティスバフアラヘール！ イラッリカー、ユキホちゃん」
「晴一君、雪穂ちゃん、Ｂｕｅｎａｓ ｎｏｃｈｅｓ．Ａｌｌｉｎ ｔｕｔａ．」
「スパコイナイノーチ。ヒュヴァーウオタ。グナット。お二人とも、寝冷えしないように気をつけて下さいね」
気候擬人化キャラ達は就寝前の挨拶をして、自分用のイラスト小冊子に飛び込んでいく。
「おやすみーっ。出会えて嬉しかったよ。晴一くん、とっても素敵な気候さん達だね」
雪穂は全く不思議がることなくその様子を眺めていた。
「あの、雪穂ちゃん。あの子達の存在は、他のみんなには絶対ナイショにしてね」
「もちろんだよ。二人だけの秘密にしようね」
雪穂がこう言ってくれて、晴一はホッとする。
「雪穂ちゃん、もう一つお願いがあるんだけど、俺と同じ布団で寝るのは、やめて欲しいなぁ。出来れば母さんの寝室で」
「それは嫌だよ。私、晴一くんと同じお布団で寝るぅ！」
この要求は、雪穂は受け入れてくれなかった。晴一は当然のように困惑してしまう。
「じゃあ俺は、床で」
「ダメだよ。そんな所で寝たら絶対風邪引いちゃうよ。いっしょに寝るのは私と晴一くんだけじゃないよ。この子もいっしょだよ」
雪穂はほんわか顔でそう伝えると、
「じゃーん、これ見て。晴一くんにこの間取ってもらったナマちゃん。川の字に寝よう」
トートバッグからそれを取り出し、敷き布団の上に置く。
「……」
晴一は困惑顔を浮かべながらも、無いよりはマシかなっと思った。
「晴一くんも早く寝よう。夜更かしは体に毒だよ」
雪穂はおかまいなく、いつも晴一が使っている夏蒲団に潜り込む。
「わっ、分かった」
晴一はそれからすぐに電気を消して、ゆっくりとした動作で慎重に同じお布団に潜り込んだ。
「おやすみ晴一くん」
「……おやすみ」
そんな会話を交わしてから二分も経たないうちに、雪穂の寝息が聞こえて来た。
「……眠れない」
晴一は極度の緊張で目が冴えてしまっていた。
それから三〇分くらい経っても、状況は変わらず。
間にあのナマケモノのぬいぐるみがあったため、体が引っ付き合うことは避ける事が出来たのだが、それでもやはり気になってしまう。
「Ｍａｓ・ハルカズ、今、Ｍｂａｋ・ユキホと交尾する絶好のチャンスだぜ」
「うわっ！」
セルバが突然目の前に現れ、晴一はびくーっと反応した。
「Ｍｂａｋ・ユキホの寝顔、とってもかわいいでしょ？」
「たっ、確かにかわいいけど」
晴一は雪穂の寝顔をちらっと覗いてしまった。
「まず手始めに服を捲りあげて、ブラジャー外しておっぱいじかに触っちゃえ」
「そんなこと、出来るわけないだろ」
「Ｍａｓ・ハルカズの性格はムリキみたいだな。そんなんじゃ子孫残せないぜ」
「セルバちゃん、めっちゃ蒸し暑くなって来たから早く戻って」
「Ｍａｓ・ハルカズ、見ろ。好都合だぜ。Ｍｂａｋ・ユキホさっき寝返りながら布団退けて、おへそ丸出しになったぜ。アタシがもっと室温と湿度上げればＭｂａｋ・ユキホはきっと無意識のうちにパジャマを脱いで下着だけに。もっと上手くいけば全裸になるぜ」
セルバはわくわく気分で呟く。
「それ非常に困るから」
晴一は迷惑していたが、ついつい雪穂のおへそをちらっと見てしまった。
「セルバちゃん！」
「あいたぁ！」
突然、クスコに背後からケーナで頭を叩かれた。
「ペルドン晴一君。セルバちゃんがご迷惑かけて。すぐに引き戻すから」
「あーん、Ｍｂａｋ・クスコ。もう少しだけぇ～」
「ダメよ、晴一君困ってるでしょ」
「やっ、やめてぇぇぇ～」
クスコは嫌がるセルバを、自分のものと同じ高山気候の小冊子に押し込めた。室温は一気に５℃くらい下がる。
「それじゃ、おやすみ晴一君。セルバちゃんのことならもう心配ないわ。自分用の小冊子以外からは、自ら脱出も侵入も出来ないからね」
クスコはにこにこ顔で伝え、高山気候の小冊子に飛び込んだ。
「あっ、ど、どうも」
そんな仕様もあったのか。よかった。
晴一はこれで一安心する。
布団に潜り込もうとしたら、
「あの、晴一君」
「うわっ！」
再びクスコが飛び出して来た。晴一は少しだけ驚く。
「早くともお互い高校卒業、出来れば結婚するまでは雪穂ちゃんにわたくしと同じ名称の医療器具を突っ込まなきゃならない事態にならないように、健全なお付き合いをしなきゃダメよ」
クスコはウィンクして、再び小冊子に飛び込んだ。
……姉ちゃんの変態思考そっくりだな。
晴一は呆れ顔を浮かべる。彼は再び布団に潜り込んだが、やはり雪穂がすぐ隣で眠っていることもあって、なかなか寝付けなかったのだった。
☆
朝、七時四〇分頃。
雪穂ちゃん、いないな。
晴一が目を覚ました頃には、すでに雪穂の姿は無かった。晴一はいつも通り制服に着替え、一階ダイニングへと向かっていく。
晴絵は今日は一コマ目の講義がないため、まだ睡眠中だ。
「おはよう」
「おはよう晴一くん」
「おはよう晴一、今朝の朝食、雪穂ちゃんも手伝ってくれたわよ」
「そうなんだ」
雪穂もすでに制服に着替え終えていた。制服は持って来てなかったので、一旦家に戻ったらしい。
「私は卵焼きを作ったよ。食べてみて」
「美味そうだ」
晴一は椅子に座ると、最初に卵焼きに箸をつけた。
「けっこう、甘いね。これもまた美味いよ」
いつもの塩味とは違い、お砂糖いっぱいだった。
「ありがとう。嬉しいな♪」
雪穂は満面の笑みを浮かべる。彼女は甘党なのだ。
晴一も、甘いものもけっこう好きである。
今日以降も、雪穂はあの子達といるとすごく快適な環境になって頭が冴えて勉強が捗るからと、毎日のように晴一のお部屋を訪れて来て、さすがに毎日お世話になるのは悪いからと食事とお風呂は一旦おウチに帰って済ませて来て、夜も二時間程度、晴一といっしょにテスト勉強をして過ごしたのだった。
息抜きにと、テラロッサ達とテレビゲームなどで遊んであげる時間も少し作りつつ。
