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虚空の檻  作者: 北の孤王
16/25

繋がれた記憶

私には守という兄がいた。

二つ違いの兄は高校生で私は中学生、大体170㎝と身長が近いことからよく回りに双子と言われた。

兄はそれを言われると悔しそうな顔をした。



兄には仲の良い友達がいた。

大輝と呼ばれる彼の姓名を実は兄は知らない。

ついでに彼も私達の姓名を知らない。

だけど仲は凄く良かった。



ファンタジスタというゲームがあった。

世界初のVRMMO。

β-テストをした私と大輝を兄は言外に羨ましがっていた。

だから私は兄にも抽選を受けるように勧めた。

VRMMOに抵抗がある人はたくさんいる。

それらの人が興味を持つ前にやれば受かりやすいと思ったからだ。



クリムゾンとかいう人に絡まれた。

彼女は四人パーティーのクエストで雇ったが、テンションがやけに高かった。

いつの間にかプレイヤーネームじゃなくて名前で呼ばれた。



兄がひっそり変なスキルを育ててるのを知った。

何でも体力が0になっても行動が出来る上に能力も上がるとか言うが、でもそれは経験値もアイテムも手に入らないから無駄だと思った。

使う機会はあるんですかと言ってやると、笑って誤魔化された。




GWが来た。

私は部活動を終えると早々と帰宅した。

初めてのイベントを調べて兄達に教えてあげるためだ。

私はノートに時間を記録して、わざわざ携帯のアラームを8時半になったら5分置きになるようにした。







イベントなんてなかった。

私達は気が狂った製作陣によってファンタジスタの世界に閉じ込められた。

機具にこの世界の死に反応して脳を潰す機能が取り付けられているとか、私は信じられなかった。

周りと同様に呆然とした私の手を大輝達が引っ張っていく。

その後、私は知った。

そこで、暴動が起きたことを、それで死んだプレイヤーが教会から復活しなかったことを。




私達は一つ前のダンジョンに戻ってレベル上げをした。

死ぬことなんて信じたくない。

だけど、死ぬ可能性はなくしたかった。




以前に会ったクリムゾンさんと再会した。

魔法使いの彼女がパーティーに入れてくれと言ったので、近接職で固まっていた私達は喜んで受け入れた。

この無機質な世界、存在すらしないここで数少ない知り合いである彼女、朱音さんはどこか心強い存在だった。

彼女のおかげで暗かったパーティーは明るさを取り戻しかけていた。




ダンジョンは多くのプレイヤーを蝕んでいった。

モンスターに殺される者やトラップに引っ掛かりその後姿を見なくなった者、スリップダメージで呆気なく死んだ者、仲間の攻撃に巻き込まれ死んだ者、そして、他のプレイヤーに殺された者。




ボスに止めをさしてアイテムを得た時、嬉しいとは思わなかった。

MVP獲得者に与えられるのは祝福じゃなくて、舌打ちと侮蔑だった。


何時、どこで、誰がアイテムを狙っているのか私を殺そうとしているのか分からない。

私は一時精神が不安定になった。



それでも、兄達が守ってくれたおかげで私は立ち直れた。





幾つもダンジョンを踏破していく私達は遂に上位職に進化した。

私は効果の高い回復も使える聖騎士、兄は一撃の威力が高い侍、大輝は体力の高い重戦士、朱音さんはまさかの魔法も使える剣士、魔法剣士だ。

彼女に何故後衛職を極めないのかを聞いたら私達が羨ましかったとか…

バランスが悪くなった様な気がすると誰かが言うとそうだそうだと誰かが賛成した。そして誰かがその様子を見て笑い、私も何だか可笑しくて笑った。






ファンタジスタもいよいよ大詰め、というところまで来た。

半年以上は経った。

明日は霧の塔の攻略だ。

私はやっと終わるのか、と胸をドキドキさせながら寝た。






その日は午後から攻略が始まるので午前中は自由だった。

最期の晩餐ならぬ最後の買い物だと言う朱音さんに引っ張られた、兄達は武器屋の方に行くのが見えた。


私はファンタジスタの中で最大の買い物をして合流を待っていた。

どうせ最後なら、と。

鉱山を買った。

名前は確か…クソゲー鉱山だったか…



兄達が来て、私達は霧の塔へと向かった。

足取りが重かった、だけど朱音さんにちょっかいを出されていると少し気が紛れた。

兄の言った言葉は今でも忘れられない。






攻略は順調に終わった。

残すは最上部、恐らくラスボスのいる場所のみ。

部屋の前のその場が 、緊張に包まれる中で最初に行ったのはトップクラスのパーティー達だった。




帰ってこなかった。



全滅だった。


次のパーティーが暗くなりかけた空気を取り戻すためにも掛け声までして向かっていった。




帰ってこなかった。


次もその次のパーティーも同じだった。




攻略は一時中断となり、私達は絶望に囚われていた。

兄が皆を励ましているが、私はもう無理だと思った。

兄が寄ってきた時、この世界で暮らそうとすら言いかけた。





兄は自分一人で行くと言い、私達を含め残った人に塔から降りる様に言った。


ほとんどの人が降りた。

残っているのは、私と数人の人だけだった。













ボスとの戦いは苛烈を極め、砕け散っていく仲間に言葉をかける時間すらなかった。

ボスの一撃は仲間の身体を砕き、一撃一撃に衝撃波が纏われ、そのブレスは身を溶かした。


そして







死闘の中で私は選択を間違えた。




目の前に死にかけの人がいた。だから、私は回復呪文を使った。

死にかけから体力を安全な所まで回復させようと一番強力な魔法を使おうとした。


その隙が致命的過ぎた。


私はスキル後の硬直を忘れていた。

身体はまるで動かないのに視界は異様に鮮明で、こちらに拳を振り上げるボスがやけにゆっくりに見えた。











頭が痛い。

何かを拒むように頭の中がガンガン響く。

その後はどうなった。






そうだ、私はそこで











「…………兄さん?」



私の目の前には兄が立っていた。

昔から見ていた背中はいつも通りで、だけど頭が拳に潰された兄が立っていた。




頭が理解を拒んだ、何故兄がそこにいるのか。

何故体力のゲージがなくなっているのか。

何で頭がなくなっているのか



「……ぅぅあぁあああ!!あぁああぁぁ!!」


言葉にならない声が口から無意識に、壊れた蛇口の様に漏れ出す。


何でこんなことになったのか、私がいたせいだ。

嘘だ


涙が無機質な地面に零れる、いくら落ちても床には溜まることなく砕け散る。

それは現実では異常でもこの世界いじょうでは現実だ。



間違えていた。

こんなゲームやらなければ良かった。

私は、兄を誘わなければ良かった。

寧ろ、私なんていなくなれば









頭を撫でられた気がした。

もう頭を上げられる気力が湧かない。


未だに戦闘中だ、もしかしたら、顔を上げたら奴がいる。

最期にそんなのは見たくない。





私は、死にたくなった。








離れていく足音と激しい戦闘音が聞こえる。

まだ生きてる人はいるのか、でも私には関係ない。



その人の背中はボロボロの黒い服で、嵐の様に剣がボスの身体を抉り、攻撃の度に怯ませている。



涙で滲んだ視界は色ばかりを映すせいで何も見えない。

でもその人はそこにいる。







ふと、鐘の音が聞こえた。

今まで聞いたことがない様な壮大で少し喧しいとも思えるそれを聞いていると、私の視界が白く染まり始めた。これが死ぬということなのだろうか。



白く染まるその世界を見渡すと黒いその人が立っていた。














目が覚めると、病院だった。

横を見ると私の様に機具を取り付けられて寝ている人がたくさん並んでいた。

皆を捜そうとするが、筋肉が衰えて上手く歩けなくなっていた。




悪夢のゲームをクリアした英雄と称えられた。

家に帰るまでの道に多くの記者がいたのを振り払いながら強引に進んだ。

椅子に両親と向かい合って座り久しぶりの食事をした。

学校も休学して家でリハビリと休息をしていた。



何かが足りないと気付いたのはその頃だった。

自分の部屋の横に部屋があったことに疑問を持ったからだ。

両親にそれを話すと訳の分からないことを言われた、……今思えば両親はどうしたらいいのか分からなかったのかもしれない。


長くなってしまった髪を昔の写真の様に切ってもらうと、母さんがそれを見て泣きだした

薄々両親が自分を避け始めていることに気付いていた。



暫くして、悪夢のゲームを作った所の後進にあたる会社の人がやってきて、英雄にもプレイしてほしいとVRMMOを持ってきた。

父さんはそれを話すと僕の部屋に走っていき壊そうとしてきた。

止めると父さんは僕を怒鳴りつけてきた。

分からなかった。……何故止めてしまったのか、本来なら私も父さんと同じだったはずなのに。


僕は病院に行くことが多くなった。



僕は、RTRをプレイしてみた。

前と同じ様に剣士から始めた。

名前も同じだ。



大輝と朱音が家に来た。

菓子折りを持ってきた大輝達を家に入れると死んだ人間でも見る様に僕を見てきたからからかってやったが反応はなかった。

RTRをやっていると言ったが、まったく羨ましがらなかった。

誘われた御礼にRTRに誘ったが、朱音には断られた。







違う



僕は、私は僕じゃない。




あれを見た時、私は戻ってきた。

黒い人がそこにいた、連れてきた仲間はやられたがそれが当然に思えた。

黒い人はあの時と同じだった。

見た目が少し変わっただけの…だった。





私は、









布団から這い出た私は部屋にある姿見の前に行く。

思い出した今となっては何時もとはまったく違う様に感じるそこに。

この二年間何の疑問もないままに見ていた鏡の前に。



心臓がバクバクと跳ね動き、呼吸は不規則なものへと変わっていく。

もう、何も知らないでいた方が楽なんじゃないかと考える、が



これは目を逸らし続けていた自分への罰だ。



荒くなる息を押さえながら、閉じていた目を開ける。












そこには兄が立っていた。



いや違う、兄の姿を真似た私がいた。





机の上にあった携帯を開いてみた。兄の名前で登録されていた。

私は部屋から出て扉を確認する、守と書かれていた。


隣の部屋に入った。

女の子らしいその部屋の中で私は完全に思い出した。









死んだのは兄だった。

そしてなくなったのは私だった。

兄の死が受け入れられなくて、私は気を変にした。






私は、ファンタジスタをクリアした時に狂った。

私の存在を消して、私は僕に、兄の真似事をした。


世間は私を英雄だから、被害者だからと、寧ろ気が狂って当然だと思われていたのかもしれない。

頭の中が鮮明になっていく、負の感情が爆発する。




私は今まで何をやっていたのか、兄の真似をして、そんなことをしても今までの日常は戻らないのに

失われたものは何も帰ってこないのに

壊れたものは元の通りには直らないのに

分からなかった何もかも



私はずっと立ち尽くした、段ボールばかりの自分の部屋でずっと。


太陽が昇るまでずっと

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