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虚空の檻  作者: 北の孤王
14/25

ツギハギの記憶

チャイムの音が聞こえ、布団からごそごそと這いずり出る。


窓からは月の明かりが零れ、静寂と闇に包まれた僕の部屋を優しく照らしてくれた。



今は何時だろうか、寝惚けた瞼を擦りつつ蛍光色でうっすら光る時計を見る。




11時……


こんな時間に来客なんて来るのだろうか?

不審者の可能性が大いにあるし、酔っ払いが押してきた可能性もある。


僕は玄関の近くに置かれた警棒を握りながら、ドアの穴から誰がいるか覗く。







…驚いた。

相手は僕の友達の大輝だ。

何故、こんな時間に来たのか、不思議だが、入れることにした。

彼は僕の一番の友達だし、こんな時間に外で放っといたらそれこそ彼が不審者に襲われてしまうかもしれない。

友人がそんな目に遭うのは僕としても朱音さんにしても望まない。


「大輝?こんな時間にどうしたのさ」

「あぁ、大事な話があるんだ。今、良いか?」

「…ーん、………良いけど」



そりゃあ普通に考えれば明日にでもしてほしいけど、やけに真面目な顔で見てくるから思わず頷いてしまう。


「ありがとう」

「あっ、おい!」


家に入った大輝は僕より先に家のリビングの方に歩いていく。

電気もバンバン入れていくし、ズカズカ歩いていくし、やけに暗い顔してるし、どうしてしまったんだと思いながらも、電気を消しながら彼を追い掛ける。



しかし、流石にリビングの電気を消したら怒られた。

………電気は大切なのに……




………………


……………………





…………き、気まずい

大輝とは机を挟んで向かい合わせに座ったけど、まったく喋る気配がない。

いや、何かぶつぶつ呟いてはいるのだけど何を行っているのかは分からないし、正直言うと怖い、後不気味だ…

やっぱり明日にしてもらえば良かったかなぁ…と少し後悔してきた。

…うん、そうすれば良かった…



「…ね、ねぇ、久しぶりだね。向こう以外で会ったのはいつぶりだろ?」

「………あぁ、一年ぐらいは経ってるかもな」


仕方なく僕から話しかけると、大輝は俯いたまま答えてくれる。


一年?

向こうでも会うことがあるからそんなに経ってるとは思わなかった。



…………


………………


……………………………





(………ま、またか)


やけに暗いのも気になるけど、その態度に僕は苛つきを感じ始める。


こんな夜遅くに話があるとやってきて、何も話さないとはどういうことなんだ。



「てか、話って何?僕は明日早いんだけどさ」



大輝は未だに俯いたままだ。

何の反応も返さない。

はぁ…



「…じゃあ、今日はもう遅いし帰ったら?」


大輝は察しが悪いから濁して話しても何も気付かない。

これぐらい直接言えば流石の大輝も分かってくれるだろう。




……………


……………………



…………………………




………嘘だろ?


大輝はそれでも動きを見せない。

……少しショックだ。


何か悩んでるなら僕に話してほしいのに、彼は沈黙しか返してくれない。



………はぁ



「………僕は部屋に戻るけどさ、帰るんだったら部屋にノックでもして起こしてから帰ってよね」




僕は苛つきを隠せず棘のある言い方でリビングを去る。

本当になんだっていうんだまったく……





「……待ってくれ……!」

「……何?」



数十分振りに聞いた彼の声に思わずびっくりしてしまうが、やっと話してくれる気になったのかと少し嬉しくなる。


「………RTRのバグモンスターを見てから、お前は来なくなったよな。……何でだ?」


「いや、僕も忙しいんだよ?二週間ぐらい出来ない日もあるさ」


「……お前は掲示板で何かに知ってる様な発言をしたよな?それはなんだ」



掲示板?バグモンスター?急に何を言っているのだ。

そんなことと僕がRTRにIn出来るかは関係ないのに。


「………さぁ?」

「お前は何かに気付いた、頼むから言ってくれ」



そんなことを言われてもなぁ…

バグモンスターの記憶なんて…


「…じゃあさ、あいつはどんな装備をしていた?」




「…………えーと、刀と盾と黒い毛皮だっけか」



そうそう、でも姿はぶれてて輪郭がよくわからなかった。


「………そうだな、俺にはあれは着物に見えた。俺にはお前とあれが瓜二つに見えた」




そう?

少なくとも僕にはそうは見えなかった。



「掲示板にあいつが使ったスキルが載ってた、お前も見たよな?」


「…あぁ、侍系統のジョブで得られるやつだったよね」


「何でRTRの前の作品のスキルが使えるんだろうな」



さぁ?



「…………似てると思わないか?」

「……あぁ、僕に凄い似てるね。前作を知っている運営が入れたのかも…」



もしかしたら僕のファンかもしれない…

顔が隠れてるだけましだけど僕のプライバシーを尊重してよ…





「ふざけないで真面目に喋れよ!」



バンッと机を叩かれて大輝が急に怒鳴る。



「…お前は!俺達も辛いのに!何でそんなに逃げてるんだよ!」



何を言っているのだ。

分からない、分からない。


「せっかく助かった命を!お前!あいつがこんなことをしてて喜ぶと思ってるのかよ!」




何だこいつは、おかしい。

警察を呼んだ方が良いのか、取り敢えず警棒をまだ持ってて良かった。



「………あんまり五月蝿くしないでくれないか?優芽が明日学校なんだ」


「………………」



何故だか知らないが空気が止まる。

何故だ?

僕はおかしいことを言ったのか。




「なぁ…昔の俺達のパーティー、どんなだったか覚えているか」



なんだそれは、そんなの簡単じゃないか。


侍の僕に重戦士の大輝、魔法剣士の朱音、聖騎士の優芽だ。




それを言うと大輝は泣きたい様な笑ってる様な顔で僕に言ってきた。










「…じゃあさ、死んだ、のは誰か、覚えている、か?」
















シンダ?そんなのはイナイ。

イナイ?イナイ。イナイ?


あれ?

僕は何を、忘れてる。


僕は、何を無くした。



「…帰ってください」


「……あぁ」



大輝は席を立ち、帰っていく。




僕は、休むことにした。






世界が僕を責め立てる様に感じた。

世界が僕の価値を認めていない様に感じた。




僕は薄い布団で身を守る様にして、細い腕で身を抱く様に丸くなって震えながら就寝についた。

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