硝子のユメ
『よおっ!何ぼけーっとしてるんだ』
いきなり背中が叩かれて思わず跳び跳ねてしまった。
『あんたがぼけぼけしてるなんて珍しいね。もしかして〜あれか?』
うるさいですと彼女に告げる。
ここはどこだったか…
そうだ。ここはまだファンタジスタの中なんだ。
僕はまだファンタジスタをクリアしていない。
だけど今なら、あの出来事を知っている今なら未来も変えられる。
そして僕達は前の通り、今まで通りの日常を
『…?どうしたんだお前、もやしっぽい顔になってるぞ』
……どういうことですかそれ
彼女は成長した今と比べてもだいぶ変わっている筈なのに妙ににやけた笑顔は年月を感じさせない程に似通っていた。
『おっ!あいつらやっと買い物が終わったらしい。まったく、女達の買い物より男共のが長いってどういうことだ…』
あはは…何ででしょうね。
………あれ、いやそうじゃない。
『すまんな、掘り出し物を見ていたら遅れた』
『…ゴメン兄サン、私モ…』
『反省したなら行くぞぉ!皆私に着いてきなさーい!』
…いや、あなたは一番後ろでしょう。
二人と合流した僕達はダンジョン攻略を再開するべく歩いてダンジョンの方に向かっていく。
途中で他の人から応援されたり、今回一緒に挑むパーティーの人達とも挨拶を交わしたりするが、僕らはそれらに歩みを合わせることもなく自分達で向かった。前からに重戦士と聖騎士、侍に魔法剣士。
最後の最後まで僕達は脳筋パーティーだった…
いや、別に皆それぞれの中距離、遠距離攻撃を持ってるし、回復スキルが使えるのは二人もいる。
バランスは悪くない、それに仲は良好だし、ファンタジスタの中でも最高のパーティーだと自分では思っている。
だが、再び背中を思いっきり叩かれてびっくりして後ろを見る。
いや、でもこれは違う。
『残念!私でした』
…やっぱりあなたですか…
『なぁに皆さぁ!これで最後になるのにもうちょっと明るい顔出来ないの!?』
皆があなた程に明るく振る舞える訳ないじゃないですか
『……ふぅ、そうだな!朱音の言う通りだ!守、俺らももうちょっと気を抜こうぜ』
…………でも気を抜いていって誰か死んだら駄目じゃないですか
その声にその場の空気が重くなる。
大輝も朱音も嫌なことを思い出した様に、または何かを思い出さない様に俯いてしまった。
違う。こうしたかったんじゃない。僕は誰にも死んでほしくなかった。だから言ったんだ。
誰にも死んでほしくなかった。
死んでほしくなかったんだ。
「大丈夫、僕が守るよ。皆を」
違う。違う違う違う。
『…へっ、流石俺の親友。思わず抱き締めそうになったぞ』
『ホモは嫌ねぇ…、抱き締めるならあそこのサボテンにしてきなさいよ』
…駄目だ、嫌だ。
『ようし!!俺も皆を守るぞ!死なせはしない!』
『ふふ、単純馬鹿ね。回復は私達が完璧にやってあげる。レッドゾーンにすらさせないから』
……だって、この先は
「行くぞ!」
『『『おぅ!』』』
この先はそうだ、何もない、何もない。夢は覚めろ。
ダンジョンにボスはイナカッタ。
だから僕達はガッカリしながらもワライながらカエッタ。
ただの笑い話だ。
リアルに帰った僕達は何時も通りに学校で一喜一憂したり土日に遊びに行ったんだ。
そうだ、ヨニンでショッピングしたり、朱音さんが大輝と付き合ったりして…
他に…?
僕は何時も通りに家で過ごした。
共働きの両親は何時も家にいないから僕は料理も食事も洗濯も一人で
あ?
おかしい、この夢は異常だ。
普通じゃない。
覚めろ。覚めろ。覚めろ。




