プロローグ
(…………)
重い瞼を開いた僕はやけに埃臭い部屋で目覚めた。
左を見ても右を見ても壁。
前を見ても後ろを見ても先の見えない通路。
頭が働かないまま滑る様に何となく前へと進んでいく。
理由はない。
―僕は
――何故この場所に居るのか
―――手は何も掴めない、感じない
――――ここはどこで、何でここにいて
――――僕は誰なのか
―――――分からない
――――――…分からない、分からない、分からない…
【ダンジョンにプレイヤーの侵入が確認されました。エネミーデータを構築します】
(………あぁ、またか)
全身に響くこの声を聞いた時、僕は身体が得られる。
(…………)
ここで見た他のと違い、腕には鱗も毛もないけど、やけにしっくりくる刀を片手に持ち、もう片方は歪な形状を成している。
黒いそれは身体というよりは盾に近く今までも攻撃を弾くことには成功している。
身体は獣の様に黒い毛に包まれているが、どうやら服らしい。それなりに硬いので脱ぐことは困難だが、そもそも脱ぐ必要すらない。
顔は見たことことがないが、そもそも知る必要もない。
『索敵に反応!?気を付けろ!!』
小さなフロアの直前で声が聞こえるのと同時に、僕もプレイヤーを発見することに成功する。
前衛三人後衛一人の姿を確認すると共に身体が臨戦態勢に入る。
『何だこいつ…?妙にぶれてないか?』
『……もしかして例のバグモンスターじゃないですか?』
『…げ。まじかよ…』
ターゲットは一番レベルの高い騎士、次は魔法使い、戦士、盗賊。
『…こいつって洛葉さんとこのパーティー全滅させたらしいぜ』
『……あー…デスペナやだなぁ…』
『頑張りましょうよ!?』
初手は、【三連貫き】で騎士の盾を貫通させる。
『うわぁ!カブッチさんが消し飛んだ!?』
『おまっ、火力おかしいだろ』
『バグは萎えるわ〜。デスペナは嫌だわ〜』
次は【首落とし】を発動させてクリティカルになる様に魔法使いの首を斬り落とす。
『…まじでバグは止めてくれよな』
『運営に苦情のメールしてやりましょう!』
『今!?』
『はい!』
近くに固まっている所からスキル変更、【大車輪】で纏めて倒す。
(……………)
【ダンジョン内からプレイヤーの存在が消滅。設定変更、破損箇所の修復と内部構造の変更、モンスターの一時消滅】
僕の身体は再び聞こえたその声によってバラバラに崩れていく。
崩れきった僕の視界には何時も通りの通路が見えた。
―何も分からない
――だけどここにいて一つだけ分かったことがある
―――この【ダンジョン】にはルールがある。
入ってきたプレイヤーを殺すことだ。