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 家の鍵を開けようとしたところで俺は異変に気付く、部屋の中から変な音が聞こえてくるのだ。

 不思議そうにこちらを見ていたエリスを下がらせてドアに張り付くと、音の正体が複数人の足音とそいつらが会話している声だとわかった。

 何を話しているかまではわからないが、男やら女、しまいには子供の声まで聞こえてくる。

 泥棒ではなさそうだ、子連れで泥棒をする奴がいるならそれはそれで見てみたいが。


 今度はドアを少し開けて中をこっそりと覗き込む、すると


 鼻と鼻が触れ合うほどの距離に、髭を立派に蓄えた強面のおっさんがいた。


「ぎゃあああああああ!」

「おいおいナオト、それはいくらなんでも失礼すぎんだろ。こっちがお前等の帰りを待っててやったっていうのによお」

「バルゴさん、こんにちはっ!」


 誰だってあんな顔をドアップで見せられたらビックリするわ。バルゴは顔笑っているときですらキモ怖い自分の顔について自覚してないか、おめでたい奴だ。


 後ろには初日の宴会メンバーやその後に知り合った沢山の人たちが集まっている。


「開店祝いに来てやったぞ、喜べ!」

「開店は明日だぞ……」

「細けえことはいいんだよ、明日は明日で来るからよ」


 バルゴに背中を押されて店内に入ると、机の上には誰が持ってきたのか酒やらつまみやらが机に隙間なく置かれていてる。

 こいつらに金がないというのを疑ったこともあった、だがどう調べてもやっぱり金はなかった。

 なのにこうしてよく宴会を開いているのは『とりあえず今日楽しければそれでいいや』と全員が考えているからだ。


「かんぱーーーーい!」


 まったく、全員能天気すぎだ……



 ※※※※※※



 明日の準備もあるため、皆には悪いが早めにお引取り願った。しぶしぶ帰っていく中、一人駄々をこねて「帰らない、帰らない!」と叫んでいたバルゴを片手で引きずっていった奥さんを見たときは戦慄が走った。


 さていよいよ明日開店するわけなのだが重大な問題が一つ、メニューが決まっていないのだ。

 タンパク質の取れる安い食事を出すことが前提になっている分ある程度メニューは絞れるのだが、当日の朝市を見ない限り何を作れるかはわからない。

 まあ最悪、初日は牛丼を作ればいいとしても醤油は無限ではない、なくなった時のためには何かしら変わりのものを考えておく必要はあるだろう。

 一応、大豆の見た目を説明して、その情報を元にミハイが冒険者ギルドに捜索依頼を出してくれたのだが、未だに何の報告も受けてはいない。


 魚介類の流通が少ないこの国では頼れるのはやはり……モンスター肉か。

 ならまずはモンスター肉も美味しく食べれるということを証明しなくてはならないな。


 1人でうんうん悩んでいると、2階からエリスが降りてきた。風呂上りのようで、まだ少し濡れている艶やかな髪からは花の様な香りがする。

 いくら同居人とはいえ、風呂上りに近寄ってくるのは無防備じゃないか。まあ居候している時点で十分無防備だが。


「ナオトさんお風呂開きましたよ。……何か考え事ですか?」

「メニューについてちょっとな、まあ明日の朝市にいけば何かしら浮かぶだろうし。気にしないでくれ」

「はい」


 俺も風呂に入ってさっさと寝よう、明日に備えなくては。


「ねっナオトさん、屋上いってみませんか? 星が凄い綺麗なんですよ!」

「またいきなり、……少しでいいなら付き合うよ」

「やった!」


 ほら早く早く、と急かしてくるエリスの後を追って階段を上がっていく。二階から屋上に続いていく梯子を登ると、そこにはいつかみた星空と同じものが空を覆いつくしている。


「ゆっくり空を見たのはバルゴの家で以来だ、あの時は小さな窓からだったけど、こうやって見るとまた違った印象だな」

「ナオトさんのいた世界にも星はありましたか?」

「この世界ほど壮大なのじゃなかったけどな、それはそれでまた違う良さがあったよ」


 そう気付けたのはこの世界に来てからだ。俺の言葉に何かを感じ取ったのか、エリスは優しく微笑みながらただ一言


「そうですか……」


 それだけだった。それだけでも俺はあの日出会ったときと同じような感覚に包まれる。


「……お前は俺の母さんか! そんな優しい目で俺を見るんじゃありません」

「いったーい! 女の子を頭をはたくんじゃありません!」


 シリアスな空気をぶち壊すように、俺とエリスはじゃれあい始める。まさか20歳にもなってにらめっこをするとは思いもしなかった。



 ※※※※※※



 そんなこんなで翌日、朝市に向かった俺とエリスは適当にブラブラと歩いている。

 どの店でも豚や牛は高いし量も少ない、しかたないのでモンスターの肉を買うことにした。


 丁度よくいつものおばちゃんがいたので話しかける。


「おばちゃん肉売ってくれ」

「おやナオトにエリスじゃないか、そうか今日から開店だったね。いいよ、それで何の肉を買うんだい?」

「モンスターの肉で」

「はいよ、売れ残る肉を買っていってくれるとこっちとしてもありがたいから、これからも御贔屓にね」

「ああ」


 ここで俺は一つ疑問が浮かんだ。


「なあおばちゃん、これってどんなモンスターのに……」

「世の中には知らない方がいいこともあるよ」


 ここまで綺麗に断られては引き下がるしかない、代金を払ってそそくさと居なくなる事にした。


「やっぱり最初はギュウドンにしますか?」

「食ったことない人も多いし、まずは実績のある料理でいきたいからな」


 玉ねぎは近くにあった八百屋で、ついでに売り物の中にあった青ネギも買っていく、トッピングには丁度いいだろう。

 紅しょうがは梅酢がありそうにないから希望が薄いが卵くらいはあるんじゃないか。

 予想したとおり卵はあったがかなりお高めなのでこれも断念する、コカトリスの卵とか安く売ってないかな……


 悔やんでいてもしょうがないので、ほかに何か目ぼしい物はないか捜したがなかなかは見つからない。

 仕方がないのでレタスやパプリカ、エリスに教わったこの世界の野菜などサラダにして食べれそうなものをいくつか買っていく。


「まあ初めてじゃこんなもんか、そろそろ帰って仕込みやらなきゃ間に合わないな」

「じゃあ帰りましょう」


 店にあった台車を持ってくればよかったと後悔しながら、歩いていく。


「そういえば看板できたのかなあ。無理言って今日の朝つけてもらうようになってたはずだよね?」

「発注するの忘れてたからな、俺たちが帰るまでには間に合わせるって言ってたな」


 朝市には2時間くらいいたし大丈夫だろう。

 予想通り店の扉の上には看板がついていた、店名はそのまんま『ファーストフード』だ。


「ナオトさんの専門の料理でしたよね、牛丼とかもそうなんですよね?」

「まあ厳密に言えば違うと言うか、食べ物と言うより経営形態というか…… あっなんでもない、忘れてくれ」


 頭の上に?が浮かんでいるのが見える、説明するのも難しいし今知らなくてもいいことだろう。


「よし! 準備を始めるぞ、サポートよろしくな、エリス!」

「任せてください!」


 開店当日、忙しい一日の始まりだ。

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