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「ナオトは俺です」


 名乗りながら立ち上がる、だけどこの後どうすれば良いかがわからない。

 貴族を相手にした作法など俺が知っているわけがないだろう。


「あなたがナオト様ですか! 確かに変わった服装をしていらっしゃいますね、私はミハイ・ギルバートと申します。

 皆様の協力もあって非力ながらこの町を治めて頂いております」



 想像よりもかなり若い、バルゴが嬢ちゃんと言っていたので女なのはわかっていたが、ここまで若い少女が治めているとは思っていなかった。

 俺より二歳くらい年下だろうか、だがその言葉遣いや作法は統治者としての自覚ゆえか落ち着いている。

 思わずたじろいでしまった俺を見て察したのか、ミハイは緊張をほぐすように優しく語り掛けてくる。


「そこまで緊張なさらなくても大丈夫ですよ、貴族と言っても昔の事ですし、今は名ばかりです。昔の事もあって皆さんはたててくれていますが、

 まだまだ私一人では何も出来ない未熟者ですから」

「そんなことはないさ、ミハイ嬢ちゃんは親父さんの後をしっかりと継いでるさ。こうして俺達に会いにだって来てくれるし、意見だって聞いてくれる。

 それに比べ、あのろくでなし共は……!」

「まあまあ落ち着きなってバルゴさん」


 他の貴族を思い出して怒り狂いそうになるバルゴを周りの皆が必死に止める。俺は構わずミハイの話を聞くことにした。


「今日は街中で倒れた方がいらっしゃると聞いてきたのですが……その方はどちらに?」

「ああ、彼女なら中に」


 彼女をエリスの寝ている部屋に案内する。コンコン、ノックをすると中からバルゴの奥さんが顔を覗かせる。

 部屋に入れて貰うと俺が見てない間にミハイが何かを言ったようで、奥さんは部屋の中から出ていく。


「……よく眠っているみたいで目覚めませんね。起こしましょうか?」

「いえ、元気なことが確認できれば大丈夫ですから。起こすのも可哀想ですし」


 安否を確認するためエリスの顔を見たミハイだったが、見たとたん驚いたように声をあげた。


「エリスっ! 倒れたのはあなただったのね!」

「ううん……」

「ミハイ様、声が大きいです」


 小さな声で諭すと彼女も気付いたようで、トーンを下げて俺に謝罪してきた。


「お知り合いだったのですか?」

「はい、彼女はアロハート家でメイドをしていて。父についてアロハート家に言ったときに仲良くなりました。

 まさか彼女だったなんて……」

「つい最近何かミスをしてしまったらしくて、それが原因で止めさせられたと言っていました」

「そうでしたか…… 最近は家に招かれることすらなかったので、知りませんでした」


 アロハート家とはミハイの家以外のどちらか、あるいは合併した後の家のことのようだ。招かれなくなったのはバルゴが言っていたことの所為だろう。


「あっ、これが皆さんが言っていた"ギュウドン"という奴ですね。クンクン――なるほど良い匂いです!

 あのーナオト様、よろしければこちら、頂いても宜しいでしょうか」

「えっ、でもそれモンスターの肉ですよ。あまりお勧めは出来ませんが……」

「私こう見えて何でも食べれるのが自慢なのですよ。では、頂きます!」


 最初は重くなった雰囲気を壊すための冗談だと思っていたのだが、ミハイは本当に食べるつもりのようで、小さな口を開いてしっかりと味わうように何度も口を動かす。

 大丈夫だろうか、普段何を食べているかはわからないがモンスターの肉といったら普通の貴族は引くのではないか。

 しかし予想は大きく外れミハイは美味しそうにそれを頬張っている、タフな少女だ。


「凄いですねナオト様、モンスターのお肉は初めて食べましたがビックリしました! 普通のお肉となんら変わりません!

 それにこのソース、とても上品な味わいが口の中に広がりました! 何て言うんですか?」

「それは醤油って言って俺の住んでいた所ではとても重宝されていました。どうやらここではまだ見つかってないようですが」

「ショウユ…… そうですね、私も聞いたことがありません。ここまで美味しいなら何としてでも探し出さないといけませんね!

 ……ところでナオト様、ちょっと宜しいでしょうか?」

「?? なんでしょうか?」

「あなたは先程私の住んでいた場所、と言いましたがそれは何処でしょうか? 失礼とは思いますがお答えして欲しいのですが」

「それは……」


 彼女の目は何かを見定めるようにこちらを見つめている。どうする……嘘をついてやり過ごすべきだろうか。

 しかし彼女には嘘を言ってもバレる、何故かそう確信できてしまう。

 彼女は優しい子のようだ、それだけで俺に危害を加えるなどはしてこないと思う、だが権力者にいきなり不審に思われてはこの先が不安だ。


「俺は実は……その……」


 異世界から来たんだ、と言おうとして口を止める、冷静になってみろ、俺がもし彼女の立場だとして出会って間もない男が異世界から来たなどといったらどう思う。

 変人か電波か嘘つきか、そのどれだと断定するだろう。しかし……嘘が通用するとはどうしても思えない。


「実は……なんでしょうか?」

「異世界から来ました……みたいな……」

「えっ?」


 やっぱり変な顔された、もう駄目だ死にたい。穴があったら入りたい、入って埋めてほしい。


 しかしその後の彼女の言葉は俺の予想外のものだった。


「異世界からですか、なるほど。それは確かなのでしょうか?」

「えっ、あ、ああほぼ間違いなくそうだと。少なくともここは俺のいた場所では絶対ないです」

「そうですか、わかりました、その言葉信じましょう」


 これには流石の俺も驚いた、まさか信じて貰えるとは思っていなかった。


「私、小さい頃からなんとなくその人が嘘ついているかわかるんです。何でかはわかりません、小さい頃から嘘を言って取り入ってこようとする人を見ていたからでしょうか?

 とにかく、私にはナオトさまが私の事を騙しているとは思えないんです」


 それにそんな素材の服や容器がこの世界にあるとは思えませんしね、とクスリと笑いながらミハイは言う。

 何はともあれ信じて貰えたのなら良かった、これでこの町で生きていくのもそう難しいことではなくなったかもしれない。


「よかった、これでここに来たもう一つの理由も無事解決することができました。あっそうだ、ナオト様。出来る限りそのことは他の人に言わないで下さいますか?

 そんな噂が広がったら混乱も生まれますし、なによりナオト様の身が危険に晒されるかもしれませんので」

「わかりました、ミハイ様以外には決して言いません」

「うふふ、二人だけの秘密って初めてです、素敵ですね。あっそれからもう一ついいですか?」

「何でしょうか?」


 まだ何か隠し事があっただろうか。


「その……あの……宜しければ私の事は呼び捨てで呼んでは頂けないでしょうか? 私、同年代の方が全然近くにいなくって。友達と呼べるのもエリスぐらいなのです。

 彼女はメイドだからと言って決して呼んでくれなくって、駄目でしょうか……?」


 対等に話せる友人が欲しいのか、彼女のような魅力的な少女に言われては俺も断れない。


「もちろん、俺でよければ友達になろう、ミハイ」

「はい! えーっとナオト……さん」


 いきなり呼び捨ては難しいようで彼女は恥ずかしそうに赤くなりながら、さんと後につける。

 こうして俺はミハイと対等な唯一人の友達になった。


 その後、皆の所に戻るといい加減宴会はお開きのようで片づけをしていた。

 片づけを終えるとバルゴの奥さんに酔いつぶれた旦那とエリスの介抱の為にも泊まっていってくれと言われたのでお言葉に甘えることにした。

 ミハイとの別れ際、話したいことがあると言われたので明日の昼に彼女の家に訪れる約束をする、なにやら大事なことのようだ。


 暗い夜道を歩いていく彼女を見送って家の中に入ると今度はバルゴの介抱だ。酔っ払いは店の客で慣れている。

 グデングデンな彼をベットに投げて俺も寝床につく。


 長い一日がようやく終わる、窓から見える夜空は満天の星空だ。綺麗だ、元の世界ではこんな星空なかなか見れるものじゃなかった。

 だからこそ、ここが異世界なのだとはっきりと認識させられる、だがもう迷うことはない。

 いつの間にか俺は眠ったようで意識は夢の中を漂っていった。


エリスもミハイも自分のことを"私"と言ってますが、

エリスは"ワタシ"でミハイは"ワタクシ"ですね。

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