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冒険者ギルドへの行き道、俺はエリスの事を考えていた。
俺に良く似た境遇のあの子は無事にやっていけるだろうか? いや、心配は要らないのだろう。
なにせ沈みきっていた俺を立ち直らせてくれたのがエリスなのだ、あの元気さえあればどごでだってやっていける。
「俺も頑張らなきゃっ!」
再び気合を入れなおすと、それを見た隣を歩く40歳くらいのおっさんが話しかけてきた。
「兄ちゃん元気がいいな! 何かいいことあったのか!?」
「まあちょっと元気付けられたというか……」
「がっはっは! まあ何にせよ元気なのは良いこった、こんな世の中じゃとくによ。俺はバルゴってんだ、よろしくな兄ちゃん」
自己紹介してきたバルゴに俺も自分の名前を名乗る。バルゴにもエリスと同じように変わった名前だと言われた。
やはり日本名は違和感があるようだ。
バルゴも俺の服装を見て遠くから来た人間だと勘違いしたようでこの町の状況を説明してくれた。
この町は三つの貴族が中心となって作られた町らしい、当初は三つの家がそれぞれの家を監視する形で町を経営していたそうだ。
しかし最近になって三つのうちの二つの家が合体して、残り一つの家を町の経営から遠ざけて好き放題やっているらしい。
「ミハイ嬢ちゃん…… ああ遠ざけられているギルバート家の現当主な、が頑張ってくれているおかげで今は何とかなってるがな」
「そうなんですか、大変なんですねこの町も」
「ナオト堅いぞ~! 俺は年上だが敬語なんかいらん!」
笑いながらそう言ってきたバルゴだったがすぐに顔に陰が戻ってきてしまう。
「生まれ育ったこの町を離れるのはツレェがもうそんなことも言ってらんねえのかもな……」
「バルゴ…… なあこの町には冒険者がたくさんいるんだろう! そいつらに集まって貰って貴族に直訴に行けば……」
「それは無理なんだ。腕の立つ冒険者は皆生活には苦労してねえ。それに例え協力してくれる奴らがいても噂じゃ貴族たちは屋敷の中にたくさんの騎士を控えさせているらしい。
反逆なんてした日には一族全員皆殺しだってありえる」
「そっ……か。ごめん簡単にそんなこと言って」
「いいんだ、余所者のお前がそこまで考えてくれるってだけで俺は嬉しいんだぜ!」
「……すまない」
貴族の台頭、俺一人の力じゃどうにもならない問題だ。それでも何か協力できることはないのだろうか。
「なあバルゴ、何か俺に出来ることは……」
「おいっナオト見てみろ! あそこに誰か倒れてるぞ!」
「えっ!」
バルゴの視線の先を見ると確かにそこには女の子が一人倒れていた。しかも俺がこの世界で唯一見覚えのある子だ。
「エリスッ!」
俺は野次馬を掻き分けて彼女に近づく。
「エリス!! 大丈夫か!?」
「あれナオト……さん」
「ああナオトだ。どうした、何があった!?」
「町を歩いていたら……急に眩暈がしてきて……。体がだるいなあとは前から思ってたんですけど……気がついたら倒れちゃってて」
「眩暈……脱力感……」
「おいナオト、そのこは大丈夫なのか?」
後から追いついてきたバルゴにいくつかの質問をする。
「おいバルゴ! さっき貧困層は生活が苦しいって言ってたけどどの程度なんだ。食べ物には困っているか?」
「お、おいなんだよいきなり。食べ物にはさほど困ってはいない、もちろん腹いっぱい食えてるとは言えんが」
「もっと具体的に、どんなものを食べてる!?」
「主にパンや米に芋、野菜なんかだな」
「炭水化物に食物繊維ばかりだ…… 魚や肉は食べないのか!?」
「昔は他の町との交易をしていたんだが最近貴族の奴らがそれをやめてな、この町で取れる肉や魚なんかもあいつらに取られてて最近は滅多に食べねえな」
「くそっ! そういうことか」
俺は彼女の症状に一つだけ心当たりがある、それは栄養失調だ。
主に肉や魚、大豆などに含まれるたんぱく質が不足して身体が大きくならなかったり、調子が出なく眩暈や脱力感に襲われる。
最悪の場合は死にすら直結するものだ、昔の日本や現代の飢餓地域などでも発生している。
「なあナオトどうなんだおい、その子のこと助けてやれんのか?」
「わからないが…… 俺の知っている病気ならまだ間に合うかもしれない」
「なら取り合えずその病気の治療法を試してみようぜ、そんな若い子が死んじまうなんて可哀想だ」
この子は俺に生きる希望を与えてくれた子だ、俺だって死なしたくなんかない、絶対にだ!
「バルゴ、すまないがお前の家にこの子を運ばせて貰えないか? それとお前の家の厨房も借りたい」
「かまわねえが厨房なんかで何するんだ? 病気を治すなら薬だろ」
「済まない、詳しいことは後で説明する」
栄養失調を直す方法は一つ、栄養のあるものを食べさせてあげることだ。
馬鹿みたいに聞こえるかもしれないが栄養剤も点滴もないこの世界ではそれが一番の治療法なのだ。
だがそれには肝心のたんぱく質が…… んっ……?
「なあバルゴあの肉はなんだ?」
「あれか? あれは外にいるモンスターの肉だ。モンスターの肉なんて只でさえ誰も食わないのにありゃあその中でさらに人気のない部位のだな。
筋張っている上に脂身が多くて不味いんだよ」
「脂身が多い…… そりゃあ好都合だ!」
俺は全力疾走で今にも屋台を閉めようとしているおばちゃんのところに近づく。
「すいません、ちょっといいですか」
「はいはい、どうしましたか」
「その……出来ればそこの肉を分けて欲しいんです。もちろん御代は払いますが今はちょっと手持ちがなくて……」
「もういいよ」
おばちゃんはそう言うと吊るしてあった肉を包んでこちらに渡してきた。
「さっきからあんたたちのことは見てたよ、よくわからんがあの子を助けるのに必要なんだろ。
そんなのどうせ売れ残りなんだしタダで持ってっちまいな。ただし絶対あの子のこと助けるんだよ!」
「おばちゃん……恩に着る!」
「頑張るんだよっ!」
おばちゃんに笑顔で礼を言って立ち去る、エリスたちの元に行くとバルトが自慢げな顔をしていた。
周囲の野次馬だった人たちが皆で協力して簡単な担架のようなものを作りエリスを運ぶ準備をしてくれていたのだ。
他の人たちも皆口々に「助けてあげてくれ」や「がんばれっ!」と応援してくれている。
「どうだ、良い町だろここは」
「ああ、本当にそう思う」
皆の手伝いと応援のおかげでエリスは迅速にバルトの家に運ぶ事が出来た。
※※※※※※
「あのっすみません宜しいですか」
「これはミハイお嬢様……どうされました?」
「ここに人が倒れてたと聞いたのですけれど……その方はどこへ行ったか知っていらっしゃいますか」
「ああ、その子なら変な服の男の子の指示でバルトの家に運ばれましたよ」
「バルトさんの家に……? わかりました、有難うございます。では」
「ええ、お気をつけて」
次からようやく料理します。