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プロローグ

あらゆるファーストフードに詳しい者、俺自分がそうだと自負している。

俺、朝霧勇人は今仕入れを終えて店への帰るところだ。

無論店は世界的に大手のファストフード店の一つだ、今はそこで店長をやっている。


両親は俺が高校のときに轢き逃げにあい死んでしまった。

一人では大変だろうと言ってくれる親戚達もいたが俺は一人暮らしを選んだ、当時の俺は一人暮らしに憧れていた。

高校を中退してバイトを掛け持ちで始めた、どれも内容はファーストフードで体力的にきつかったが親の保険金もあって生活は苦しくなかった。


バイトを四年も続けてると仕事も板についてきた、当時の店長から正社員にならないかと言われた俺は二つ返事で了承した。

簡単な試験を終え晴れて正社員になった俺は今、ブラック企業の一員として汗水たらして頑張っている。


そんな平穏ともいえる俺の毎日はいきなりぶっ壊れることになった。


「戻ったぞー」


裏口から入った俺は厨房にいると思われるバイトに声をかける、だがいくら待っても返事は返ってこなかった。

それもそのはずだ、俺が今いるのは見たことない町並みのが広がる土地だったからだ。


「へっ……!?」


急に声をあげた俺のことを周りの人間が不審に思い見てくる、慌てて俺は口をつぐむ。

とりあえず落ち着いて周りを見てみる。

どう見ても日本ではない、それどころか地球かさえ怪しい。

あちらこちらに地球では見たことない食べ物や動物がいるのだ。


すると何だ俺の店の裏口は異世界につながっていたのか、はあなるほど。


「ぎゃああああ!!」


俺は叫び声をあげながら街中を全力疾走する、武器を持った人、古い映画のような建物。

高いところから見た町の外の風景はもっと異常だ。

建物など一つもなく一面に自然が広がる、さらに町から離れた場所には地球には存在しないおぞましい形の生物が何体もいるのが見える。

どうみてもモンスターや魔物としか表現できないそれを見てついに俺の精神は限界を迎えた。


いっそここから落ちてみればいいのではないか、夢なら覚めるし夢じゃないとしたらこんなところで生きていける気がしない。

そんなことを思ったがすぐに考えるのを止めた、意気地なしの自分にはそんなこと出切る筈がない。


あてもなく街中をフラフラと歩いてみる、これからどうすればいいのだろうか。

行くあてなどあるわけもなくこの世界の事など一切わからない。

事情を話しても信じてくれる人などそうそういないだろう。

たとえ信じてくれたとしても戸籍のない俺を雇ってくれるような職場はあるのだろうか。


ダメだ、いくら考えてもお先は真っ暗だった、そんな時通り過ぎていった金髪の少年二人組みが話していた内容が耳に入ってきた。


「俺は大きくなったら冒険者になってモンスターと戦うんだ! そんでお金をいっぱい貰ってとーちゃんとかーさんに楽させてやる!」

「そんなの無理だよぉ……」

「冒険者ギルドに行けば誰だってなれるんだ、俺だって戦うのは怖いけど生きていくためにはしょうがないだろ」


少年達はそのまま走り去っていく、不思議なことに彼らの話している言葉は理解することが出来た。

少し希望が湧いてきた俺は冒険者になるのはどうかと考えてみる。


……イヤダメだろう。最初の装備を準備する金もないしたとえあったとしても運動音痴の俺がモンスター相手に戦えるとは思えない。

再び目の前が真っ暗になった、ついには疲れ果ててその場に座り込んでしまう。

肉体は疲れていないが精神がもうズタボロに傷だらけだ。


どうやら座り込んだ場所は町の中で経済的に裕福でないものが暮らす場所らしい。

歩いている人間の服装は最初に見た人間達よりもかなり質素なもので、中には服だったのか怪しい布切れを一枚身体に巻いている者もいる。

暗かった気持ちがさらに沈んでいく、すると一人の少女がこちらに近づいてきて心配そうに声をかけてくる。


「あの…… 大丈夫ですか」

「ああ……すまない、ちょっと考え事をしてて。君も大丈夫か、顔色が悪いけど体調わるいんじゃないのか?」

「私は大丈夫です、生まれつきなので」


少女も周りの人間と同じで決して綺麗な服とはいえない、チュニックというのだろうか? 

長くしたワンピースのようなものは長年着ているのかだいぶ汚れてしまっている。

顔を見ると元はかなりの美少女のようだが痩せこけた身体や、動きやすいようにと茶色の髪が無雑作に結ばれていて輝きを失ってしまっている。


「おとなり座ってもいいですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます。私も休憩したかったところだったので」


失礼しますねと隣に腰掛けた少女はどこか嬉しそうだった。

無邪気な表情や小さな体から俺よりも年下のように見えるがどうなのだろうか。

ただ栄養が足りていないだけかもしれない。


「私エリスって言います。お兄さんのお名前聞いてもいいですか?」

「ナオトだ。今年で20歳になった」

「私より二歳年上ですね! ナオトさんですか、良い名前ですけど変わってますね。服装も見たことないし……もしかして違う町から来た方ですか?」

「えーっとまあそんなところかな、だいぶ遠いところからきたよ」


嘘は言っていない、遠いところは遠い所だ。ちょっと次元超えてるだけで。


「私両親を早くに亡くしちゃってずっと一人で生きてきたんです。この間までは貴族の方のお屋敷に勤めていたんですが辞めさせられちゃいました。

 今は仕事探しているところ何ですけど中々若い女を雇ってくれる場所がなくって……」


私がドジしちゃったのがいけないんですけどね、エリスは笑顔で言う。

その笑顔は先程まで話していた事情の少女が出来るとは思えないとても明るいものだった。

でも嘘ではないのだろう、話し方や表情だけでわかる。彼女はとても良い子なのだと。


俺は急に自殺まで考えていた自分の事が恥ずかしくなった、もしかしたら俺は彼女よりも酷い状態かもしれない。

それでも彼女の諦めない心を見習わなければいけない、そう思った。


「……大変だろうが頑張ってくれ。俺もエリスのおかげで元気になったよ、頑張ってみようかなって思った」

「そうですか! よかった~、最初見たときナオトさん凄い顔してたんですもん」


その後はエリスと彼女の話や世間話を一時間ほどした。やはりここは地球ではないしモンスターもいる不思議世界のようだ。

それでも彼女と話しているとドンドンどんどん力が湧いてくる、まるで魔法にかけられたみたいだ。


「それじゃあ私は行きますね! ナオトさん、またいつか会いましょうね」

「ああ、またな」


エリスはそういうと立ち上がって日が落ちて人通りの少なくなった路地を歩いていった。

近くにあった屋台もどんどんと片づけを始めている、皆家に帰るのだ。


「……よしっ!」


だが今の俺にもう迷いはない、とりあえず冒険者ギルドとやらに行ってみよう。

自分にモンスターとの戦闘なんて出来ないかもしれない、でもやってみなければわからないではないか!

夕日も俺を応援するように美しい緋色に燃えあがっていた。



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