羽休め
カガリは、傷を癒やす穏やかな日々を迎える前に、二つの驚きに遭った。
一つは、リリの父親がおそらく自分と同じ、東の国の出身であったことだ。
お互いに無口であって、直接聞きはしなかったが、同郷の人間を見間違いはしないという自信があった。
そしてもう一つは、刀が返されたことだった。
前に起きていきなり斬りかかったのだから、せめてこの家を出るまでは返されないだろう、とカガリは考えていた。
しかし、リリの父親は何事も無かったかのように刀を持ってきて、そのまま手渡してくれたのだ。
そこで思い出して合点が行ったことがあった。
カガリが寝込んでいて手入れされていなかったはずの刀は、全く錆びていなかった。むしろ、以前よりも輝いていた。
リリの父親が研いでいてくれていたという結論に達するには、そう時間がかからなかった。
カガリはお礼の言葉を重ねることはしなかった。しかし、心の中では強く、この恩を旅立つ前にどうにか返そうと、強く決心していた。
この二つの出来事の後は、夢のように穏やかな時間が流れていった。
街でも評判だという、リリの作ってくれる薬はよく効いて、みるみるうちに傷は回復していった。
カガリはじっとしているうちに弱った体を慣らすために、日中はリリの用事に付き合いはじめた。
リリの父親は毎日長く働いているようで、リリは家事からちょっとした仕事まで、何でも一人でこなしていた。
会う人の多くはリリを褒め、彼女を可愛がるのだった。
だが、実は、カガリはリリが少し、”危うい”と感じていた。
ここ数日話すうちに、彼女は悪意にあてられたことのない人間だと感じていたのだ。
そして、旅をしてきたカガリは、世の中には色々な悪意があちこちにあることを知っていた。
そんな事情もあって、いつもカガリはしかめっ面をして、ナナの後ろについて歩くのだった。