目覚めた朝
小さな窓を通して、寝室に柔らかな朝の光が差し込んでいた。
2つあるベッドの片方は綺麗に整えられていて、もう片方には包帯でぐるぐるに巻かれた男が眠っている。
その表情は別人のように安らかだが、紛れも無く、前に少女に刃を向けた男だった。
彼の瞼が、光を感じて震え、開いた。その目に飛び込んできたのは、ベッドの横の椅子で眠る少女の姿だった。
すぅすぅと心地よさそうな寝息を立てて、眠っている。
困ったような顔をして、彼は少女に声をかけた。
「ええと、おい、起きてくれ。」
その声に目を覚まさない少女に、彼は少しためらってから、腕を伸ばしてそっと揺り起こした。
「ん…? おはよう……」
寝ぼけながらに発された少女の声に、彼はこの前あやされたことを思い出し、ひどく恥ずかしくなった。
寝起きで気が抜けているのだろうが、彼女はどう見ても、彼よりも3つか4つ幼い、15も越えぬ少女だったからだ。
「あ、目が覚めたの!?」
「……。」
恥ずかしさもあって、彼が返事をしないでいると、彼女はとても心配そうな表情になった。
「大丈夫? まだ痛い?」
「いや、悪い、大丈夫だ。……ここは?」
「ケトゥっていう名前の村。 あなたは、近くの森で倒れてたの」
ケトゥという名前に、彼は聞き覚えがあった。
森を背中にした、国境沿いの小さな港町。特に寄る気はなかったが、ふらふらと森を歩くうちに近くまで来ていたらしい。
「そうだ、わたしの名前は、リリ! あなたは?」
「名前は、篝。こっち風の発音だと、カガリ。」
カガリは抑揚を変えて2回名乗った。
彼の持つ、光を全部飲み込んでしまいそうな真っ黒な髪と瞳は、カガリが遠い東の国から来たことを示している。
明るい赤い髪を光らせながら、リリはカガリ、カガリと小さく名前を何度も口にした。そして、ふわりと微笑んだ。
「おはよう、カガリ。」
「……おは、よう。リリ。」
ぎこちないカイトの返事に、リリはふふ、と笑うと立ち上がった。
お父さんを呼んで来る、と言って部屋の出口に向かっていく。
「ありがとう。」
部屋を出ようとする背中に、カガリは声を投げた。くるりとダンスのターンのようにリリは振り返った。
「どういたしまして。」、
そう言って見つめ合うと、なんだかおかしくなってどちらともなく笑い始めた。