男女関係社会経験学実論
「失礼しちゃうわね、ゲスゲスって。大学のサークルなんてそんな話ばかり、ラブジャムセッションこそが醍醐味なのよ。授業が無い時は直ぐに自宅に帰って、シコシコと陰湿な事に更けっている奴等って、淋しい学生生活を送ったでしょうね。」
大学時代はそれまでの学生生活とは違う。学問以外の色々な事を経験して、己の人生観を奥深くし、豊かな人格形成を担ったと言う人が結構いるが、親の仕送りは、こんな不謹慎で淫らなことをさせるためにやっているのではないことが分かっているのであろうか。
「でもさあ、学生は勉強することが本分だろ。それに、恋や愛だのって、社会に出てからで良いんじゃない?」
「また昭和ジジイの発言ね。そんな指向だと冴えない女になっていくのよ。社会に出てからじゃ遅いの、狭い職場の世界の中じゃあそれなりの恋愛しか出来ないのよ。」
「ふーん、そうかあ。それで、お前は俺を選んだという訳か?自信もって良いのかあ。」
「そうなのよねえ。私なりに目を肥やしてきたのに、それにしてはこの結果なのよ。」
「え、それは失策だったと。」
「そんなことないわよ。私の選んだ最高の旦那様に狂いはないわ、夢のお家を買えて幸せいっぱいですわよ。真保も色々経験して、こんなに従順な、いえどっしりと支えてくれる男を捕まえられるような女になってもらわないと。」
「それじゃあ、真保がこれからお前がくぐってきた様な泥沼の男女関係に陥るかもしれないことを推奨するのか?いくら早く経験を積むといっても精神はまだまだ弱っちい子供だぞ、心配だなあ。」
「大丈夫よ、今回は所詮子供同士のチチクリ合い。恋に敗れたとしても、大人になった時に、ああ、あの頃は幼稚だったわねで終わるわよ。」
「そんなもんか?」
「そうよ、それよりずっとカマトトの経験不足で、変な男に捕まる方が恐いのよ。悪意的求愛への免疫力を付けないとね。」
「お前の恋愛観は、純粋さが感じられないよ、それでも恋と言えるのかねえ。」
「だからさっきも言ったじゃない、貴方は古臭いのよ。経験したことのない恋愛を何かの神聖な理想物のように思い込んでいる未熟者の考えね。そんな甘ちゃんだと、いつまで経っても生地無し、相手に心の内を伝えることなど出来ないわ。」
クソ~、デリカシー無し。毎度、人のことをケチョンケチョンに言いやがる。図星故にその男女関係社会経験学実論が心にグサリと差し込まれている。貴方のおっしゃる通り、恋愛経験に於いて絶対的に不足していますよ。この点で議論しても当然勝てない。口先だけのデブは、いくら理屈が得意と自負していても、この手の話題は避けたほうが無難である。にもかかわらず、大上段から恋愛とは何か、結婚とは何かを語るみっともない奴がいるが、自論が全く薄っぺらく説得力が無いことに恥ずかしくならないのだろうか?
「そうかあ、男親ってのは思春期の子供に対して無頓着なんだろうな、いやあ、マイッタマイッタ。」
「逃げたわね・・・まあ良いわよ。さっきも言ったけど、子供達のことは私がつぶさに見てますから、亮治、貴方は家を買うことに専念しなさい。」
「ヘイヘイ。」
そういえば、俺の親父も世間には偉そうにしていたけど、お袋には全く頭があがらなかったな。男というものはどんなに歳をとっても、子供の時とさほど基本的思考は変われないと思う。つまり一生、夢やロマンという非現実的な野望を模索し続けているんだな。いつかは、ヒーローや偉人に成って、皆に認められチヤホヤされたいとね。それは、経験を積んで成長し、現実を認識し、生活観が備わった女から見れば、”そなたは未だそんな幼稚なこと言ってるの、いい加減に分別のある大人に成りなさい”、で一蹴りである。家を買うこと、確かに今の俺の最大の使命であり、それが現実である。しかしながら、そのミッションは俺の予想を遥かに上回り、全う出来るかが非常に怪しくなっているのも事実である。
そして、その日の夕飯を終え、恒例の第18回家族ダイエット報告会議となった。




