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雄の奪い合い

「ああ、でも中は普通の職場内だったよ。金の無いうちはちょっと間借りしてるだけ、高級絵画なんか置けないよアハハハ・・・。」

 バツが悪い時は、それが明らかに不自然に見えても最後に笑ってごまかすのがやはり定番である。正直に言えない見栄っ張り者の愚かな行為であるにもかかわらずである。

「それで、子供達は部屋に居るのか?」

「海斗は、部屋で勉強しているわ。真保は、今日もテニススクール、帰って来るのは夜になってかな。」

「べ、勉強?まさか?、ネットで遊んでるんだろ。」

「それがね、1週間程前に意気なり大学へ行くことにしたって言い出したのよ」

「むむ、お前から受験勉強しろって煩く言われているのがとうとう嫌になったからか?」

「違うわよ、失礼な。あたしゃ、もう今年は半分諦めていたのよ。勉強どころか、あの気持ち悪い踊りグループに狂っていたからね。変な新興宗教団体と同じよ。」

「でもあれはあれで、一つのステータスになったんじゃないか?不可解極まる踊りだが、結構周りにはウケてたし、踊りのお陰であいつ大分身体が締まってきたもんな。」

「なに馬~鹿言ってんの。あんなもんで周りに自慢されたら、ご近所様から白い目で見られるじゃないの。ひょっとして貴方、誰かに言ったんじゃないでしょうね?」

「じ、冗談だよ、冗談。ともかく、どういう気の変わり様か知らんが、お前の望み通り受験するってことになったんだから良かったじゃないか。・・・それで真保の方はそうか、引き続き球打ち彼氏にご熱心なんだ、フィットネスの方はどのくらい進んでいるんだ?」

「あ~あ、これだから男親は駄目ねえ、娘の事に無頓着過ぎるのよね。」

「いきなりダメだし、どういうこと?」

「始まったのよ、醜い闘いが。」

「え、え、なにそれ、醜いって?」

「雌同士の雄の奪い合いよ。生物の本能、種の保存の法則よ。」

「雄の奪い合い?すると、恋仇がいるってのか?それにその男子はモテるのか?」

「ププ、古、その昭和のホームドラマの親父の台詞は。だって、テニスの上手いイケメン少年がモテないわけないじゃないの。鬼コーチにシゴかれている女の子をそっと影から支えてくれる美男子キャプテンに落ちないわけないわよ。」

「人のこと言えるか、お前の恋愛知識も相当古いよなあ。それで、どうなんだ?男の俺にはよく分からんのだが。」

「そういう男の経験が無い俺には、でしょう。」

「なに!・・・ぐぐぐ、どうせ俺は、昔からチビデブでしたからね。」

「アハハハハ。」

「それで、お前はどうなんだ、お前の青い体験は?」

「私は貴方と違って、娘の時代は恋のパラドックスに悩んだのよねえ。フったりフラれたり、ああ、今を思えば一番ときめいていたいだわ、聞きたい?」

「パラドックス?ババアの3大自慢話の一つ、妙に美化された懐古の恋かあ。」

「うるせえ、妻以外に経験が無い癖に、偉そーに女性論を語るオヤジより、全然上じゃない。」

「へいへい、モテない旦那ですみませんねえ。それで、その豊富な経験の中で真保のためになるものがおありなんでしょうか?」

「未だヒネてるわね。・・・大学生の時だったわ、私もスキーサークルに入っていたのよ。」

「へえ、お前がスキーやってたって初耳だなあ。だってスゲエ運動音痴じゃん。

「悪かったわね。大学サークルなんか本当に滑れる人って僅かよ。まあ、遊びだから全然大丈夫。合宿の飲み会が楽しみだったわね。」

「ザルのお前には、そこでは指導員級だな。」

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