強制排除
「どうして?それってテロ行為とかに使われるんじゃないの?」
♪ ファウン、ファウン
<本館入居契約条項第25条2項により、このシステムは、迷惑行為を起こし、館に及ぶ危険行為防止基準に達した場合に発動され、一連の危険排除を妨げることは出来ません。また3項により、この排除行為により生じた人的、物的損害については、一切の責任を負いません。
「オラオラオラ!」
# ガツガツガツガツ、ドカドカ
「亮治、ちょっと聞いてるの、そんなことやってないで、逃げるのよ!」
「オラオラオラ!」
# ガツガツガツガツ、ドカドカ
♪ ファウン、ファウン、ファウン
<作動まで、あと3分です。
「亮治!」
「もういい、そんなキレデブはほっとけ!こっちの非常口から脱出するぞ!」
「オラオラオラ!」
# ガツガツガツガツ、ドカドカ
♪ ファウン、ファウン
<作動まで、あと1分30秒です。
「急げーーーーーー!」
「きゃーーーーーー!」
♪ ファウン、ファウン
<作動まで後30秒です。
「オラオラオラ!」
# ガツガツガツガツ、ドカドカ
♪ ファウン、ファウン
<作動まで後10秒です、9、8、7、・・2、1、只今より危険と判断した対象物の強制排除を行います。
「オラオラオラ!、オラオラオラ!」
# ガツガツガツガツ、ドカドカ
# ジョワワワーーーーー
「オラオラ・・・・オラ・・・オ・ラ・・・・・」
# ・・・・・・
<また新たな分析結果が追加されるばい。デブ意識の暴走は手が着けられん。今後の人類生活圏再編成には留意せないかんばい。
# ・・・・・・
一瞬にして、オフィス内が静寂に戻された。
*********
「ただいま。」
「あら、今日は随分と早いのね。どうかしたの?ちょっと疲れた顔みたいだけど身体の具合でも悪いの?」
「い、いや、出張先で早く切り終えたんだが、急ぎの仕事もないんで、帰って来たよ。」
さすが長年連れ添って俺を管理してきたカミさん。帰りの途中でドラッグストアに寄って、強力オヤジドリンクを仕込んできたのにである。
「出張って何処だったの?」
「う、ああ、T州にあるうちの外部部署。」
「へえ、あんな凄い臨海地区の超高級オフィス街にあるんだ。あそこって、上場一流有名企業しか入ってないんじゃないの?貴方の会社ってそんなんじゃないわよね。テレビで見たことあるけど、N総合ビルなんか美術館みたいなエントランスなんでしょう?あたしもオフィス内がどうなっているのか行ってみたいわあ。」
とんでもない所だった、とは言えない。巷のオバサンは興味を持つと、色々と詮索してくるのが相場だ。今日の出来事を話せる訳がない。服を脱ぎ裸同然で打ち合わせをして、その話の内容にブチ切れて、叩き蹴るわ散々暴れ回り、警備システムが作動し外に弾き出された、なんて言ったら、翌朝まで執拗な聞き取り調査である。しかし、俺がちょっと激しく動いただけで、テロ行為同然に扱いやがったあのマルクスには怒りを覚える。間違いなく、俺に凹まされたことに対して報復する機会を狙っていたのだ。俺に向けて催眠ガス弾をぶちかますなんて、気が立った象じゃねえ。




